白亜の手に入れたチートとチカオラートがくれたチート!
3歳とは思えない身体能力を持ってしまった白亜は未だにその異常さに気づかない。
「あー。お風呂に入りたい‥‥‥」
この世界にはお風呂は贅沢品だ。水を持ってくるのも大変なのにそれに浸かろうなんて考える農民は居ない。
「せめてシャンプーとリンスと石鹸ないかな‥‥‥」
結構贅沢である。
「魔法って概念があるんだし‥‥‥こう‥‥‥シャンプーとか出来ないかな‥‥‥無理だな」
その言葉を発した瞬間、白亜の手にメ○ットのシャンプーが現れた。
「‥‥‥え?何で?まさか本当に作れるの?」
イメージはボトルだったのだが、しっかり中身まで入っている。
「入ってる‥‥‥。魔法ってこんなことできるの?生活必需品買わなくてよくね?」
白亜はボトルを地面に置いた。が、その瞬間ボトルが今まで存在していなかったかのように消えた。
「手、離したら消えるのか‥‥‥?」
白亜はその後、何度もシャンプーやリンス、石鹸を出して、地面に置いて消えるのを確認する。全てお風呂グッズなのは白亜の無意識だ。
「もしかして、これがチート?」
チカオラートがくれたチート。それは物を作り出すことのできる、『創造者』の能力だった。
この能力を持っているのは後にも先にも白亜だけである。
「こう言うことか‥‥‥」
白亜は創造者の能力を確認していた。
・物を作り出す事が可能
・手や体の一部が触れている間は作り出したものは消えない。離れると消える
・水や火などの形の無いものも作り出せる、が触れる必要があるので打ち出したりすればその瞬間に消える
・お椀の中に水をだす等も可能だが、お椀から手を離すと消える
・火などを出しても出した本人は熱を感じない
・作り出したものは作り出したものを経由すれば消えない(ナイフに糸を付けて投げれば消えない)
「なかなかにチートだけど‥‥‥投げナイフ大量生産とかは無理なのか」
触れている必要があるのでナイフを大量に作って攻撃したいなら身体中にくくりつけるしかない。その場合、投げるのではなく体当たりのこうげきになりそうである。
「まぁ‥‥‥‥糸を付けて投げればいいし。シャンプーとリンスと石鹸が出来たことは吉報だしな」
本当に風呂好きである。
白亜は森の奥にどんどん入っていく。風呂にはいるために。
「楽器も弾けるし、風呂も入れる!なんて素晴らしい能力なんだ!」
好きなことになると目が変わる白亜はそれに合わせてテンションもハイになっていく。
「お勧めにしといて良かった」
もう満面の笑みである。
「お風呂って作れるかな?」
何故かドラム缶風呂である。しかも横にはシャワーが付いている。
「結界張っときゃ大丈夫だよね!」
もうなんでもありだ。白亜は体の一部をドラム缶から離さないように気をつけながらシャワーで洗っていく。念願のシャンプーやリンスなんかで体を綺麗にして、ドラム缶風呂に浸かる。
「あー。超気持ちいい」
まず、火が付いているドラム缶に体を擦り付けていた時点でおかしいし、ドラム缶から供給もしていない上にホースが無いシャワーからお湯が出てくること事態が白亜の異常さを物語っている。
普通の人間ならば、もし創造者の能力を持っていても小さい石鹸1つ作った時点で魔力が切れる。
白亜の場合、魔力量がとんでもなく多いので、風呂なんか作っても余裕だ。魔力量は子供のうちに体を鍛えると急激に増える。訓練ばかりしていた白亜の魔力量は鰻登りだ。
「あー。気持ち良かった」
ドラム缶風呂から上がり、地面に足を付けないよう簀を作ってついでにタオルとかもつくって体を拭く。ドラム缶は白亜の体が離れた瞬間に中のお湯ごと消えた。
「念願の風呂にも入れたし、今日はラッキーデーだな!」
感情が高ぶるとたまに意味不明なことを口走る白亜。それほど風呂に飢えていたらしい。
「この力があれば飯とかも要らないんじゃね?」
作り出した水を飲めるし、出したパンは食べれる。手を離すと消えるが。
「そうだ。これの出すときの名前を決めよう!解りやすいし」
ハイテンションになって若干痛い子になっている白亜である。白亜が決めたのは、こうだ。
・幻想即興曲
・機械即興曲
・通常即響曲
今のところ、この三つである。何故即興曲なのかは、ハイテンションの白亜のノリである。深く追求してはいけない。
幻想即興曲は動物を作り出したり、火を出したりする、白亜から見て、ファンタジーな事の集まりだ。
機械即興曲は銃や洗濯機等の機械類だ。因みに銃の弾丸は何故か消えない。今のところ原因不明だ。
通常即興曲は生活必需品や、食べ物だ。何故ノーマリストと言うのかは、完全に白亜のノリである。
「こんなもんだろ。暗くなってきたな。帰るか」
ハイテンションな白亜を見た両親は目に涙を浮かべた。きっと病弱であんな目付きだったのかと思ったからだろう。翌日にはいつもの白亜だった。
「今日は、自分の顔を見てみようかな」
翌朝、二階建ての家の二階の子供用ベッドから一階に降りる白亜。
「おとうさん、おはよう」
「ああ、おは‥‥‥‥ああああああぁぁぁ!」
「なに?!どうしたんですか!?‥‥‥ああああああぁぁぁ!」
突然の両親の絶叫にびびる白亜。このとき白亜は、まさか創造者の能力がバレたのでは無いかと考えていた。
「よくやったな!我が娘よ!」
「なんてことでしょう!急いでお赤飯炊かないと‼」
「お赤飯ってこの世界にもあるんだ‥‥‥」
白亜のかなり的はずれな呟きを両親が聞き取れる筈もない。因みに、白亜はまだ名前がないので、誰誰さんのお子さんとか何々家の長女とかそんな風に言われる。どうでも良い話だが、白亜の父親の髪は紫、母親の髪は緑である。
「もう名前が必要だな!」
「そうね!なんて名前がいい?」
この場で決めるようだ。
「えっと‥‥‥じゃあ、白亜で」
「ハクアね!決めていたのかしら?」
「う、うん」
白亜はただ面倒なだけだ。
「よっしハクア!今日からお前は大人の仲間入りだ!」
全く理解できていない白亜をよそに、二人がはしゃぐ。
「えっと‥‥‥あそびにいっていい?」
「おう!行ってこい!」
「ご馳走作って待ってるからね!」
「‥‥‥何がどうなってる?」
白亜の疑問も尤もだろう。なにせ、両親は一切の説明なしなのだ。何に喜んでいるかさえ白亜は解っていない。
「そういや、俺の顔見てはしゃいでたな‥‥‥」
因みに白亜は自分の顔を見たことがまだ無い。この世界ではガラスも貴重品で鏡なんかもっての他だ。
白亜が自分の顔を確かめようと思わなかったと言う理由も大きく貢献しているが。
「通常即興曲、鏡」
通常即興曲で鏡を作り出す。
「ええええ‥‥‥なんだこれ」
自分の顔を見て、なんだこれと言うのも白亜の天然ぶりが発揮されている。鏡には白亜の顔が映っていた。生前の幼少期の顔つきそのままだ。ただ、髪は白銀。左目は緑色。右目がおかしい。右目の黒目部分が赤、白目部分が真っ黒なのだ。左右で非対称すぎて不自然である。
「‥‥‥‥色が違うだけでこんなに変わるもんなのか」
これでちゃんと見えていることが驚きである。
「まぁ、いいか。‥‥‥‥練習しよう」
練習のあとお風呂に入って乾かしてから帰る。
「「おめでとうハクア!」」
両親が満面の笑みで白亜を迎える。
「えっと‥‥‥なんなの?」
「気付いてないのか?ハクア。魔眼が開眼しているんだよ!」
「それってすごいの?」
「凄いってものじゃないわ!魔眼を持っているって知られたら直ぐにでも王都の貴族様に召抱えられるくらいよ!」
へー。とうなずく白亜。まるで他人事である。
「直ぐにでも王都の学校に通わせよう!」
「いえ!先ずは親戚に挨拶を‥‥‥‥」
両親がヒートアップしていくのをただ横で見ている白亜。完全に冷めきっている。というか、魔眼が開眼していていつもの目は見るものを動かなくさせるような冷たさを秘めている。
「っていうか、王様に挨拶にいかないと‼」
話がぶっとんできた。
「え?‥‥‥そんなに凄いことなの?」
やっと理解し始めた白亜。いや、理解はしていたがここまで喜ぶことなのか疑問だ。と言う顔をしている。
「「勿論‼」」
どうやら当たり前らしい。
あれよあれよという間に王への謁見が決定してしまった。村の大人たちの満場一致で白亜を王都の学校に通わせることも決まった。白亜の意見ガン無視である。本人はこの話し合いの最中、森の奥で風呂に入っていたらしいが。
本当に自由人である。
「謁見は再来年の4月に決まったわよ。それまでに準備しなくっちゃ!」
「へー‥‥‥」
完全に白亜は蚊帳の外だが、本人が気にしないので良いのだろう。多分。
「おめでとう、ハクア君‥‥‥だっけ?魔眼なんてとっても貴重だからね。大事にするんだよ」
「ありがとう‥‥‥‥ございます‥‥‥‥?」
周りにとってはとてつもなく貴重な物でも白亜にとってはただの目である。
因みにこの世界の人は普通、髪の色は違えど目の色は黒である。つまり、白亜は両目魔眼なのだ。しかも右目は何故か本来白いはずの部分は黒く染まっている。異常としか言えない。
実は、チカオラートがつけた魔眼は左のみである。右目は白亜がこの世界に来た際に偶々手に入れたものである。
神の仕業でもなんでもない、白亜の異常さを物語る為の魔眼なのだ。
周囲はド田舎なので、大人たちも魔眼持ちに会ったことがない。故に、白亜が魔眼を二つ持っていて右目がおかしい事に誰も気づかないのである。
今は親戚の家にいって挨拶をさせられている。白亜が苦手とすることだ。
「疲れた‥‥‥」
一通り挨拶周りをしたので森でお風呂に入る白亜。
「魔眼ってなんだろ‥‥‥何にも変わんないけどな‥‥‥ただ色が変わって珍しいって訳でもなさそうだし」
周囲の反応からして色が違って珍しいから貴重と言われている訳では無さそうだ。
「そのうちわかるか」
その二週間後、商隊が来た。1ヶ月に一度しか来ないので、皆待ちくたびれている。
「おしおください」
白亜も勿論お使いに出された。塩はこの周辺では海がないので高級品である。白亜は量産できるが。
創造者は調味料なんかを出すと、掛けたものにはちゃんとかかる。かかって無い分は消えるが。簡単に言えば、お粥なんかに塩を作って掛けることも可能だ。塩入のお粥作った方が早いが。
「ほう。お遣い偉いね」
商隊のおっさんに褒められてもなんにも嬉しくない白亜は頷きでかえす。因みに、魔眼はトラブルの元になりそうなので気力で隠している。
「ありがとうございます」
「気をつけてね」
このとき白亜は商隊の持ち物の中に『魔辞典』という本を見つけた。しっかり表紙を頭の中にインプットして家に帰る。
「魔辞典‥‥‥か」
魔辞典をてにページを捲っていく白亜。シャンプーの時もそうだったのだが、中身は覚える必要はない。表紙さえ覚えていれば後は通常即興曲だ。最早何でもありだ。