「こんな風に、なれるのかな」
「で、また来たと」
「ええ、ごめんなさい」
「謝るより先に拘束といてくれ。骨が限界だ」
白亜の腕や足はそろそろ悲鳴をあげ始めていた。
「ご、ごめんなさい!はい、解いたわ。これでいいかしら」
「やっと動ける……」
羽根を伸ばしたり関節を解す白亜。
「えっと、ここはどこなの?」
「……なんで俺に聞く?」
「ほら!人間国とか、エルフ国とか!」
「俺もよく判らないが………強いて言うなら魔族国」
「魔族国?そんなのあるの?」
「知らない。けどここには俺以外魔族しかないだろう」
「貴方も魔族でしょ?」
「人間………かな、一応は」
かなりかいつまんだりして事の顛末を話す白亜。
「貴方捕まってるの?」
「最悪な同居人と全く気の抜けない軟禁生活送ってるよ」
「こわいわね、それは……」
白亜は魔法で骨を補強しながら体を解す。
「んんっ………まぁ仕方ないことだとは思ってるし、不便もないから」
「そう……ね、私と友達にならない?」
「遠慮します」
「なんでよ!」
「であった瞬間にこっちなにもしてないのに殺傷力がとんでもなく高い鱗投げてきたり、拘束して放置して溺死寸前になるし。面倒ごとは避けたいんでね」
至極全うな答えではあるが、かなりストレートで心に刺さる言い方をして来る。
「お願い」
「無理」
「ここから連れ出してあげるから!」
「無理だよ。こいつがある限り、絶対にね」
白亜は手首のブレスレットを見せる。
「今もずっと監視されてる。ここに留まってたら多分何やってたの?って聞きに来るだろうし」
白亜はブレスレットを掴む。しかし、引っ張っても絶対に外れることはない。
「このブレスレットを維持しているのは俺の魔力や生命力……死なないと外れない」
手を離してぼんやりと海を見つめる。
「俺は元の暮らしに戻りたいよ」
人魚には今まで頑として本心を隠すような態度しか取らなかった白亜が、初めて本心を見せたように見えた。
「そう……そう言えば名前聞いてなかったわね。私、サラ。サラ・ルビア・アリス」
「………俺はハクア・テル・リドアル・ノヴァ」
「4つ?」
「4つ。………不本意だけどな」
白亜は少しムスッとした顔でそう言った。サラは見た目の悪魔のような印象との違いに少し吹き出してしまう。
「意外と子供みたいな反応するのね」
「子供だよ……この前11歳になったかな」
「え」
人間と人魚の寿命は違うが、精神年齢的には白亜は自分より少し上か同じくらいだと思っていたサラは素直に驚く。
「サラは?」
「私は今年で180歳よ。人間で言う18歳……丁度10倍の寿命があるのよ」
「へー」
「驚かないのね」
「俺のパーティは俺以外全員人間じゃないから」
「あ、そうなの」
それから、白亜は懐中時計からノートを取り出して周囲の絵を描き始めた。
「突然どうしたの?」
「同じ場所に留まりすぎた……。絵を描いてたって言えば誤魔化す余地はあるだろう」
「よくそんなこと思い付くわね………意外と上手いのね」
前世ではこれが収入源だったのだ。下手な筈がない。
「ねぇ、白亜。明日もここに来る?」
「………判らない。今日の外出があいつの気紛れなのか俺のストレス発散だから許したのか、そこが判らないとなんとも言えない」
話しながら鉛筆を動かし続ける白亜。
「そっか……じゃあさ、明日来ることが出来たら朝の10時にここに来て。私、待ってるから」
「一つ聞きたかったんだけど。人魚って種族、俺は初めて知った。人間と、いや、他種族とは交流してはいけないんじゃないのか?」
ほんの少しサラはその答えをどう返すか迷った。
「……そうだよ。他の種族と会ってはいけない。それが人魚の掟だもの」
「じゃあこんなことして大丈夫なのか?」
「大丈夫ではないけど……」
「じゃあもう二度とここには来ない方がいい」
「そんな」
「ここの奴等は基本研究狂………見たことない物は力ずくで手に入れようとする。俺もそれでここから出られないんだ」
白亜は書くのをやめる。その絵には、白亜が入っていたがサラの姿はない。
「ここは本当に危険なんだ。人魚なんて珍しい種族あいつらが放っておく筈がない」
「でも」
「俺もここから出られないんだ。俺がここにいれば不審がられるだろう。何故わざわざ海しか描かないんだってね。最初は誤魔化せても時間が経てばそうとは限らない」
白亜は懐中時計に荷物を全てしまった。
「俺の周りは監視がつく。このまま一緒にいようものなら研究材料もしくは資金源になるぞ」
白亜の目は、どこまでも冷たく、何者にも感情を見せないという暗さがあった。
「俺はもう帰る。ここには二度と来るな」
まるで瞬間移動したかのように空を飛んでいった。
残されたサラは暫し呆然と先程まで白亜がいた場所を見つめていた。気付くと、一枚の紙が落ちていた。
そこには満面の笑みで誰かと笑っているサラが書かれていた。
【泣き言言ってる暇あったらこういう状況作ってみろ】
いつの間に書いていたのだろうか。絵の端にまるで挑発するような文が書いてある。
サラは暫くこんなに笑ったことはない。白亜は全部想像して描いたのだろう。隣にいるのは人魚だ。此方も適当に想像して描いたのだろう。
「こんな風に、なれるのかな」
サラは暫しその絵を見つめて、魔法で深く土の中に埋めた。
「こうでもしないと、バレる。んでしょ?」
にやっと笑って海に入っていった。
「ハクア君!何やってたの?」
「海流を弄って流されて、暇だったから絵描いてた」
確かにそうだが簡略化しすぎである。
「ず、随分楽しそうだね」
「………少し疲れた」
白亜は椅子に座って貝殻を出した。
「貝殻?」
「魔力伝導率がいい。これで魔方陣を書いてもいいかもしれないと気付いてな」
バキバキと片手で握って粉々にし、すり鉢で更に粉状にしていく。
「おお」
「そんな考え方はしなかったな」
「俺も最近気づいた。元々は絵の具作ろうと思って取ってきたんだがな」
様々な色の絵の具が完成した。
「これで描ければ良いんだけどな……」
「僕もやりたい!」
「私も絵に興味が出てきました」
結論からいうと、魔族組は絵が下手だった。
「今日は絶対に噛むなよ!」
「キチキチキチ」
毎日噛まれ続けて流石に白亜も苛立っているようだ。
「壁作るからな。何かあったら叩けよ」
「チキチキ」
コンクリートの壁を創造者で作る始末だ。そんなに噛まれたくないらしい。
「んぅ……痛い……」
翌朝。白亜は耳の痛みで起きた。
白亜が横を見るとコンクリートの壁が中心部分が木っ端微塵になっていた。
「いや、なんでだよ……?」
もう怒る気力もないのか白亜はただただその言葉を言い続けていた。レイゴットに発見されるまで機械のように繰り返していた。
「キチキチキチ!」
「知らないじゃない!コンクリートだぞ!俺に気付かれないように寝ながらどうやって壊すんだよ!」
「キチキチキチ、キチキチ」
「はぁ?毎晩毎晩耳噛まれるこっちの身にもなれよ!」
ついにキレた白亜。しかし、キレている相手は蜘蛛である。
「ハクア君が怒ってる……」
「怖いですね……」
白亜は本気でキレると周囲を破壊し始める。笑顔で。なので未だこれは本気で怒っている訳ではない。その第一段階前の状態ではあるが。
白亜はちょっとイライラしていると頬を少し膨らませる程度、本格的に苛立つと無視、キレると毒舌の饒舌になり、本気の一歩手前になると烈火のごとくキレる。本気になると一瞬真顔になってから花が咲いたような笑顔で周囲の物を手当たり次第に破壊していく。
勿論、白亜がキレることは滅多にないので今のところこの世界で白亜の破壊魔状態を知るものは居ない。




