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「ねぇ。幻覚魔法教えてよ」

「ハクア君!これ見てよ!」

「朝っぱらから………なんだよ」


 欠伸をしながらレイゴットの方に顔を向ける白亜。


「ほらこれ!」

「ん?………新聞、これどっから」

「部下がね。ほらここ見て」


 そこには小さくだが写真も何もない字のみの記事が書いてあった。


「ハクア君っていろんな言葉話せるし読めるんだよね?これ読める?」

「ん…………。成る程ね……そう来たか」

「え!読めるの!?なんて書いてあるんだい?」

「さぁな」

「酷い!ハクア君のケチ!」


 レイゴットを無視して部屋を出る白亜の顔にはほんの少しの笑みが浮かんでいた。









「ねぇねぇ。何だったの?何てかいてあったの?」

「煩い!」

「わっ!」


 木刀でレイゴットを弾き飛ばす白亜。容赦というものは勿論一切無い。


「ハクア。レイゴット様。そろそろ研究所に移動の時間です」

「あれ?もうそんな時間だったかな」

「……体感時間的にはもう少し遅いと思ってたが」


 白亜とレイゴットの口調は逆にすると丁度良い位になるのではないかと思う。



「ハクア君!動かないでね」

「ちょ!耳は別に調べる必要ないだろ!」

「必要です。はい、動かないでくれ」

「あああぁあぁ!」


 耳が弱い白亜を弄るのが最近のレイゴットの楽しみのようだ。


 その証拠にレイゴットのメモには耳が弱い、と明記してある。


「ねぇ。幻覚魔法教えてよ」

「…………。なんでだ?」

「勿論調べたいからっていうのもあるけど、僕こんな身体でしょ?外に出られなくってさ」


 ジトーっとした目でレイゴットを見る白亜。


「私も知りたいです。レイゴット様」

「だよね!ほら!ヒントはくれるって契約でしょ?」

「………はぁ」


 白亜は翼で持っている本を机に置く。相変わらず器用な翼だ。


「古代魔法は属性魔法とは違う。ほとんど伝えられない理由はそこにある」

「どういうこと?」

「属性魔法は自分の属性に合わないと使えない。逆に言えば属性さえあれば使える。ただ、古代魔法は属性はないけど逆に言えば才能の差が浮き彫りになる」


 つまり、とんでもなく難しいのだ。


「誰でも使える訳じゃない。それを覚えておけよ」


 白亜はその前置きをおいて話し始める。


「幻覚魔法……幻を作り出す魔法と言われているが光魔法に近い、目の錯覚を利用する方法と、ちょっと面倒だが相手の脳に直接刷り込む形で幻を見せる方法。その二つがある」


 白亜は右手を前に出すとそこから拳位の大きさの火の塊が出現する。


「こっちは光の屈折を利用している。実体はないから触れても熱くもないし実際に燃えてもいない」


 左手も同じく前に出し、同じくらいの大きさの火の塊が出現する。


「こっちは脳に直接刷り込む方だ」

「そっちの方が見やすいね」

「これをあまり教えたくはなかったが………こっちは暗示をかけて刷り込む訳だから、思い込みが攻撃になる」

「「?」」


 よく判っていない魔族組。


「見せた方が判るか」


 そう言って両手を横にサッと振る。すると火が消え、その代わりに白亜の指先に蒼く光る蝶が出てきた。


「触ってみろ」


 ヒラヒラと飛んできた蝶がラグァの指先に止まる。が、止まっているのにその感覚は無い上、触れようとしてもまるで霊体のようにすり抜ける。


「触れないよ?」

「こっちは触れる。レイゴット。指を出せ」


 指を言われた通りに突き出すと、そこにもう一匹の蝶が止まる。


「え?」


 そんなことを言いながら羽にそっと触れるレイゴット。カサ、と音がして、レイゴットが触れるとその手の動きに合わせて蝶も動く。


「触れますよ!レイゴット様!」


 ラグァも蝶が止まっていない方の手で蝶を突っつく。


「判ったか?これは、相手が思い込みさえすれば実体が出来る。と言うより、精神的な物で攻撃、干渉できる。これが幻覚魔法の真骨頂だ」


 白亜が両手をスッと振ると二匹の蝶が何も無かったかのように空気に溶け込んで消えた。


「「おおおおおおぉぉぉぉ!」」

「………何?」

「本当に君は凄いよ、ハクア君!」

「こんなに面白い物だったとは!私、見逃しておりました!」

「今すぐ!もっと調べあげよう!」

「はい!レイゴット様‼」


 絶滅した古代魔法を間近に見て、魔族組のテンションは最高潮だ。白亜を置き去りにして幻覚魔法の資料をどこから集めるか、白亜の魔法研究の凄さはどんなものか、そんなことを聞き取れ無いほどの高速の会話で話し続ける。


「………なんだこいつら」


 白亜がそう言ったのも、的外れではない。寧ろ的確だった。








「レイゴット。俺外に出てみたいんだけど」

「え?逃げないってこの前――――」

「逃げない。逃げるつもりはない。って言うかお前らとは違って引きこもっているとストレス溜まるんだよ」

「ふーん。じゃああそこから出なきゃ良いよ。君なら逃げ出せる可能性あるけど、逃げないって言ってるからね」


 含みのある言い方でレイゴットは白亜に言う。


「……ただの散歩だ」

「そう。行ってらっしゃい。6時には帰ってきてね」

「ん」


 白亜が出ていくと、レイゴットは資料集めを再開した。モニターのようなものを机に出してから、だが。


「君は逃げられないことを判っているけど、監視はさせて貰うからね」


 独り言のように呟き、モニターに映っている地図上の赤い点を見ながら作業を再開した。








「………まさかこんなところに魔族の集落があるなんて誰も思わないよな」


 白亜は魔族の集落の周りを覆っている硝子のような、プラスチックのような、何かをコツンと手の甲で叩く。


「海底なんて誰も調べないし、普通」


 そう。魔族の集落は海底にあった。周囲を透明な硝子のような物で覆われて空気が逃げないようになっている。


「どこかの漫画でこんなとこあったな……」


 その漫画では人魚とか魚人とか住んでいる国、と言うか島だった。


「何重にもなっているな、この周りの奴」


 白亜の左目が翡翠色の光を帯びる。


「5重で、外側の奴ほど軟らかいのか。水の抵抗を減らしてるのかな」


『マスター。早く逃げ道を見付けましょう』

『シアン。………どうせここから逃げ出せないだろ』

『いつか役に立つでしょうし。砂浜の方に行きましょう』

『………判った』


 海底に砂浜があること自体何かがおかしいのだが、白亜はもうこれはファンタジーだと思うようにしたらしく突っ込まなかった。


「とは言っても何もないな……」


 暇潰し兼絵の具の材料にするために貝殻を拾いながら歩いていく白亜。


「ん?」


 何かに気付いて突然立ち止まる。


『シアン。聞こえたか?』

『はい。ですがなにかは判りません。データ不足です』

『シアンがデータ不足………一体何だ?』


 白亜は目を閉じて耳に神経を集中させる。ピクッと長い耳が動いた。


「聞こえる。声……いや、歌か?」


 白亜は自然とその方向に歩き始めていた。飛んだ方が楽だったと気付いたのは大分後である。








「聴こえるな」

『聴こえますね。録音しておきます。十分に気を付けて接近をお願いします』

『判った。解析を頼む』


 白亜が今進んでいるのは最早砂浜ではなく岩がゴロゴロと転がっている崖のような所だ。


 音を立てないように慎重に進んでいく。


『声が止んだな』

『あちらが気付いたのかもしれません。もしもの為に戦闘準備を』

『ああ』


 白亜は村雨に手をそえていつでも抜ける体勢にしておく。


 岩影からそっと声のしていた所を覗く。


「………!」


 白亜は声は出さなかったものの、息をのんだ。

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