「すっげぇ!ファンタジーだ!」
「ここだよ!」
「このっ!」
「あ、あぶなっ!」
白亜とレイゴットは訓練場の様なところで打ちあいをしていた。正直誰も目で追えていない。
「はぁ!」
「わわっ!」
白亜がレイゴットの喉元に剣を突き立て勝利。
この戦い、身体的パフォーマンスが二人ともほとんど変わらないのでほぼ互角の戦いになる。
何度か手合わせして、白亜は3勝4敗だった。
「あー、面白かった!」
「正直私はあの中には入れませんね……」
「フフフ!僕とハクア君は魂まで同一化してるからね!」
「………それ関係ないし、俺的には最悪だ」
片付けながらボソッと言う白亜。その様子に少し吹き出すラグァ。意外と快適な軟禁生活を送っている白亜だった。
「これ、一枚抜いていい?」
「全部神経通ってるから抜けるの待て」
「えー?僕の羽根抜いても痛くないよ?」
「そこも違いですね………メモしておきましょう」
診察室的な所で観察される白亜。もう慣れたものである。一日しか経っていないが。
「それと、その角なんの意味があるの?曲がってたら攻撃も出来ないよね?」
「俺に聞くなよ……アモン角は本来はもっと大きい筈なんだけどな」
「アモン角と言うんですね。この角の形状」
ラグァが助手化してきた。
「はーい、じゃあ次あーんして」
「先にどこ見るか言えよ……」
そう言いながら口を開ける白亜。
「成る程。人間と変わりませんね………ちょっと凄いのがありますけど」
「これだね……どうやったらこんなになるの?」
「俺に聞くなって……」
白亜は異様に犬歯が大きく尖っていた。レイゴットも実は普通より大きいのだがそこまで異様ではないので気にならない。
白亜の場合、血でも吸うのかと思えるほど尖っている。噛みつかれたらかなり痛いだろう。
「大きくても吸血鬼の類いに比べたらかなり小さいですよね………人間の大きさではありませんが」
「そうだね。これも調べてみたらいいかもしれないね」
その日はもう大分研究され尽くされていたので身体検査みたいだった。
白亜は別の部屋に連れていかれた。
「ここは……」
「僕の研究所なんだ。古代魔法とか究極回復を調べてるんだよ」
「古代魔法ね……」
「「と、言うことで古代魔法を!」」
「誰が教えるか」
捕まっている人間の態度ではないが、ここで気にする者は居ないので完全放置状態である。
「じゃあヒントー!ヒントだけでも!」
「教えない」
「いいじゃん、ケチ!」
「ケチで結構だ」
どっちが子供か判らない。
「では、交換条件はどうだ?」
「………交換条件?」
「私達は日々様々な遺跡や書物を発見し解析に勤めている。魔族しか見ることの出来ない魔方陣なども見せよう」
「………それでも無『それでお願いします!』」
「「「…………」」」
白亜の喉から白亜が絶対言わないような台詞が出てきた。
「『マスター!これはいい機会です!今までみつからなかった資料もここにあるかもしれません!』ちょ、シアン!」
レイゴットとラグァは白亜をじっと見る。
「どうしよう、ラグァ。ハクア君が一人で会話し始めた」
「ちげーよ!取り合えず話を聞『マスターは一旦お休みください!私が交渉します!』」
白亜の体が糸が切れたかのようにカクン、と力が抜けた。
何事もなかったかのように立ち上がった時には顔中に黒い模様が書き込まれた白亜が悪戯っ子の様な笑みを浮かべていた。
「えっと、ハクア君?」
「いえ、シアンと申します。マスター、白亜様のもう一つの顔ですね」
「多重人格ですね」
「はい」
シアンは近くの紙束をちらりと見る。
「マスターはあまり人に魔法を教えたがりません」
「強いから?」
「はい。古代魔法が廃れた原因は扱いづらさと危険度からだと私とマスターは考えています」
シアンは懐中時計から紙を取り出す。
「マスターは契約に弱いんです。ここで決めませんか?」
「どういう事だい?」
「マスターは契約や約束を絶対に破りません。それが何故なのかは判りかねますが」
逆手にとって今ここで契約してしまおうと言うわけである。
「僕は良いけど?」
「私も構いません」
「それでは契約内容を言いますね」
・白亜が本気で嫌がったら追求しない
・資料提供、その代わりに古代魔法のヒントを与える
・魔法を広めない
「大雑把に分けるとこの三つ。これは絶体に守ってください」
「大丈夫だよ。広める気もないしね」
「古代魔法のヒントだけでも貰えるなら資料提供などいくらでもしましょう」
この二人は魔法を見付けるのは道楽の一種だ。広めるメリットもない。
「では、契約を」
「血かな?これで良い?」
「ふむ。良くできた契約書ですね」
三人が契約書に血を垂らし、契約完了となった。
「それではまた」
「帰るんだ」
「マスターの中にいつも居ますけどね」
再び白亜の体から力が抜けたように一瞬カクン、と落ちる。
「………ん……え?」
「契約したよ、ハクア君!」
「シアンめ………」
シアンの強行突破再びであった。
「で、どうするの?」
「……契約は契約だ。そこは守るさ」
「契約に弱いんですね……」
白亜の苦悩はまだまだ続きそうだった。
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「皆、行くよ」
「うん」
「了解」
「判った!」
所変わって日本組。時間も少し戻してダイが強制転移される少し前に遡る。
「白亜さんのメモには人間国の王都に行けって」
「なんで王都?って言うか僕達入れて貰えるかな?」
「どうだろうね……」
話しながら白亜の手書き地図を頼りに歩いていく。
「白亜さん、大丈夫かなぁ」
「あんな強い人だよ?多分もう勝ってピンピンしてるって」
「うん………」
直前にあったことが事なので皆少し暗い。すると白亜の配下組が別れた筈なのに追い掛けてきた。先程まで居なかった筈のダイが先頭である。
「ダイさん!白亜さんは!?」
「………某を逃がして、それっきりだ」
「そんな」
白亜が負けた。剣術の能力を持ち、全国大会に出場するほどの腕前を持つ賢人を本を読みながら軽くあしらえるほどの圧倒的な強さを見せた白亜が捕まったというのは配下組にも日本組にも大きな衝撃をもたらした。
本人は割りと快適な軟禁生活を送っているが。
それから一旦全員で王城に向かうことにしたようだ。白亜の配下全員と高校の1クラス分である。かなりの大人数だ。
人間国に着くには早くても丸1日掛かる。その日は夜営をすることとなった。白亜が教えていたので慌てることなく夜営場所や見張りを決め、その日は各々不安を抱えながらも眠りについた。
翌朝、狼に襲われるアクシデントはあったものの、白亜門下の二人とダイ、それとかなり苛立っていた玄武によって瞬殺された。
「うむ。着いたぞ。人間国だ」
「「「おおー」」」
日本組が歓声のような声をあげる。
「なぁ!あそこ!ケ、ケモミミが!」
「ちょっと、指差しちゃダメ!」
「すっげぇ!ファンタジーだ!」
有り得ないほど身近にファンタジーがいたのだが、悪魔っぽい見た目の白亜よりモフモフ獣人の方が気になるのだろう。
「あ、俺達入れるのか?身分証明とか無いんだけど」
「そこは問題ない。某が居れば多分問題なく入れるだろう」
多分。という言葉に一抹の不安を覚えながら王都の門へ。
「あ!お、お疲れ様です!」
「うむ。この者達も某とともに入れてもらえぬか?身分証明が紛失してしまってな」
「は、はい!こちらに記入を!」
門兵の明らかにへりくだった様子に目を丸くする日本組。
「ダイさんって凄い人なの?」
「某ではなく、白亜のパーティが有名なのだ」
どこか誇らしげなダイである。
「これに記入を」
「あ、はい」
言葉だけでなく文字も白亜から仕込まれているので問題ない。
「それでは」
「うむ。感謝する」
悠々と王都に入っていくダイ。どこか偉そうだ。
「これから、どうする」
「そうだな。先ずはジュードのところか。部屋に居れば良いのだが」
迷いなく歩いていくダイにぞろぞろと付いていく配下組と日本組。確実に目立っていた。
王城の裏口。
「頼もう」
「それ使う人初めてみた」
後ろで日本組が何か言っているが気にしないダイ。
「誰だ?こんなときに………って、ぇえ!ダイさん!」
「うむ。ジュードは居るか?」
「へ、部屋にいらっしゃるが、後ろは?」
「連れだ。責任は某がとる」
「お、おう。リン様も一緒にいらっしゃるからな」
「うむ。感謝する」
それを後ろで唖然と見守る日本組。配下組はジュードの事を知っているので普通に入っていく。
この時、日本組ではダイは王族説が出ていたらしい。
「ジュード。居るか?」
「ぁあ………ダイさんですか………今師匠、あれ?ダイさん?」
バッと振り向くジュード。その顔には疲労の色が滲んでいる。
「ダイさあああぁぁぁん!」
ガバァ!という効果音がしそうな大袈裟なモーションでダイに抱き着くジュード。目には涙が浮かんでいる。
「ダイさん!師匠は!師匠はどこですか!?」
「主、捕まった。魔族」
「そんな………師匠」
喜んだり落ち込んだり忙しいやつである。
「ダイさん。後ろの方々は?」
「黒目黒髪の人間達は白亜と同郷の者だ。それ以外は白亜の配下だな」
「そうですか……師匠いつの間に配下増やして……じゃなかった。ここでは狭いのでサロンの方へ行きましょう。リンさんにも連絡しますので先に行っていてください」
「うむ」
ぞろぞろと大移動する配下&日本組。城の中では敵だと思って攻撃しようとした新人兵士が何人かいたとかいなかったとか。




