「俺は蜘蛛とルームシェアするのか?」
「という訳で、最初に調べるのは両目で決定しましたー」
「………」
早速変な部屋につれていかれて薄い服に着替えさせられた、が、翼が邪魔でつっかえたので自分で出した。
「「おおー」」
反応がいちいち被る。診察台のようなものに乗せられる。
「じゃあ目、見せてねー」
「近い近い近い近い」
二人同時に覗きこんでくる。レイゴットの頭の角が少し頬に刺さった。
「凄いねー。全部真っ黒だー」
「色素でしょうか?いや、魔力が変質しているようですね」
「じゃあ他の人でも魔眼に魔力を普段から多量に流すとこうなったり?」
「それはないでしょう。そうだとしたら歴史上で一人ぐらいはこの目を持っていてもおかしくはないでしょうし」
「確かにねー」
更に覗きこんでくる二人。興奮からか鼻息が凄い。
「こっちは、最上位の魔眼で遠視や透視、暗視と明視ですね」
「ふむふむ。こっちは?僕見たこと無い」
「………私もないです」
白亜の目をじっと見続ける二人。
「わからん!」
「判んないなー。ハクア君!正解は?」
「言わねーよ」
質問を一刀両断した。
「じゃあハクア君が僕達を信頼してくれるまでのお楽しみってことだね。はい、じゃあ次、その耳!」
ほぼ無理矢理グイッと顔を動かされて耳が上に来るように寝転がらされた。
「いっ!」
「あ、ごめんねー」
耳をこれまた近い位置で凝視する。ツンツンと触ったりちょっと握ったりやりたい放題だ。因みにレイゴットの耳は長くもなければ尖ってもいない。ここは白亜とレイゴットの違う点だ。
「く、くすぐった!ちょっ」
「動かないでねー。成る程、こうなってるのか」
「ああぁぁあ」
「声がエロイ!」
「誰のせいだと思ってる!」
片耳で充分だと思うのだが白亜をひっくり返して反対側も調べ始めた。
「あっ!ちょっ………」
「柔らかいねー」
暫く弄られた。
「次は腕見せてもらうねー」
「………もうやだコイツら………」
白亜は早く終わらせろとばかりに右腕を上に持ち上げた。
「いやー!本当に面白いね!」
二人のテンションに疲れてぐったりしている白亜と未だに興奮して女子みたいにキャーキャーはしゃぐ二人。
「ねぇ、体の模様は見ちゃ駄目?」
「見せない。これは見せない」
「気になるな」
「ちょっとで良いから!」
「お前のちょっとは数時間続くから嫌なんだよ!」
「「えー」」
白亜は天井を見る。大理石のようだが、これは魔力を吸収する特殊な石で出来ており、白亜でも逃げ出せない。
くきゅ、と音がなる。
「「「…………」」」
白亜の顔が真っ赤になっていく。
「え?なんの音?」
「判りかねますな。ハクアの辺りから聞こえましたが」
「そう言うのは言ったらいけないんだぞ……」
「なんの音?」
「………腹へった」
「「………え?」」
魔族、つまりレイゴットとラグァという名前らしい男がキョトンとした顔になる。
「腹って減るのですか?」
「さぁ?」
「お前ら人間の生理現象勉強してから人を拉致しろ……」
魔族には食事が必要ない。嗜好品の類いになる。エネルギー源は魔力で済むのだ。便利な体である。
「食べ物なんてここにはありませんよ?」
「いい……後で自分で出す」
「「今ここで出して見せて!」」
「………はぁ」
と言うことで。
「何でこんなときにコイツらと会食しないといけないんだよ……」
「ハクア君!これ美味しいね!」
「甘味が!」
「はぁ………」
白亜の能力でシリアル登場だ。牛乳は既にかかっている。白亜が作った糸付きスプーンでシリアルを満面の笑みで食べる二人。
「「お代わり」」
「………」
気に入ったらしい。
「それにしても人間ってお腹が減ると音が鳴るんだー」
「大発見ですね!」
「コイツらの喜ぶタイミングが掴めないんだけど……」
取り合えず白亜が眠くなったので研究終了となった。
「ここで寝るといいよ」
「ここは?」
「僕の部屋さ!」
「変更させてくれ」
「えー。変なところにすると僕の部下が君を消しちゃうかも」
「なんだそれは」
「僕の部下って人間をよく思ってないんだよねー。いつの間にか殺される可能性もあるけど、別のところがいい?」
鬼畜野郎と過ごすのか、部屋に侵入されて消される方がいいのか。究極の選択だ。
「はぁ………。いいよ、ここにする」
「うん!これで調べ―――じゃなくて何時でも僕も君にご飯出して貰えるもんね!」
「…………」
明らかに調べ尽くせる、と言いかけた。
「さ!存分に眠ってくれたまえ!」
「寝れねーよ!」
これで眠れるほど神経は図太くはない。白亜なら寝れる気がしないわけでもないが。
「じゃあ今日から君はこっちの部屋使ってね」
「…………掃除ってした?」
「10年くらい前に!」
「それはした内に入らねーよ」
埃まみれ、それと何か真っ赤な蜘蛛が居た。
「あれ何?」
「さぁ?いつの間にか住み着いてたよ!」
「………どうすればいい?」
「危害は加えてこないし、放っておいていいと思うよ?」
「俺は蜘蛛とルームシェアするのか?」
「うん!」
「…………」
キチキチと声をあげて端に寄る蜘蛛。この蜘蛛、一メートルはあるし、一番前にある二本の脚が鎌のようになっている。
「寝てて首スパッとか」
「アハハハ!ないない!」
「…………」
本気で死んだらお前呪うと言いながら中に入る白亜。懐中時計から一枚の紙を取り出す。地面に置いて指を中心にそっとおく。
すると何も書いてなかった紙から徐々に模様が浮き出てきて魔方陣が出来る。
「浄化」
風が吹くと同時に部屋全体が埃一切ない綺麗で殺風景な部屋になった。序でに白亜とレイゴットと蜘蛛まで綺麗になっていた。
「こんなものか」
「凄い!人間の技術凄いね!」
「キチキチ」
蜘蛛も喜んでいる……のかは不明だが声をあげる。
「キチキチキチ」
「……え」
「キチキチ」
「まじか」
「キチッチキチ」
「へー」
会話している。
「えええ!?ハクア君蜘蛛語判るの!?」
「蜘蛛語じゃなくて蟲言語だ」
「そんなのあるの!?僕にも教えてよ!」
「えー…………」
この蟲言語、実は亜人戦闘機が使っていた物で、寿命の引き換えの時に次いでで貰ったものだ。
「キチキチ」
「俺は構わないけど」
「キチキチキチ!」
「ああ、守るさ」
「何言ってるのか全然わからないね!」
白亜の返事から会話内容を予測しづらいので意味不明である。レイゴットを置き去りにして白亜と蜘蛛の交流は続いた。
「ぅ……痛い」
白亜が朝起きると赤い蜘蛛が白亜の長い耳を噛んでいた。痛いわけである。
「おい、おいって!」
「…………」
どうやら寝惚けて噛んでいるようだ。白亜は無理矢理引き剥がし、耳を浄化する。
「キチキチキチ」
「寝惚けて俺の耳噛んでたぞ……」
「キチ!?キチキチキチキチ!」
「もういいよ……」
白亜が寝るときに着ているのは薄い浴衣のようなものである。流石にいつも着ている袴は寝ているときには重くてそれどころではない。
寝起きでぼんやりとしながら浴衣を脱ぐ白亜。別に脱ぐ必要は一切無いのだが、癖なのだろう。
ゆっくり脱いでいくと突然戸が物凄い勢いで開け放たれた。早すぎて戸が壊れた。
「おっはよー!」
「………着替えてるんだけど」
「あ、ほんとだ!そういえば女の子の着替えは見ちゃいけないって聞いたよ!」
「じゃあ早くでてけ」
「えー?」
白亜は男に見られても一切気にしないので良いのだが、それを周囲が気にするので一応気を使うのである。
寝起きはほぼオープンだが。
着替えが終わり、白亜の目も覚めたところで朝食タイムとなった。因みにラグァもこの近くの部屋に住んでいるそうで一緒に食べる。
白亜はトーストとかを食べたかったのだが多分この二人が食べたがって面倒なことになると予感したのでシリアルだ。
「あ、今日は一緒に鍛練しようねー、ハクア君。僕達は毎朝昼まで鍛錬、そこから先は研究時間って決めてるんだ!」
「時間を分けないと研究所が混むのだよ」
「ふーん………魔族って研究熱心なのか?」
「寿命が圧倒的に人間より長いからねー。そういうことでもしないと暇で暇で仕方がないんだよ」
「階級が高ければ高いほど仕事はなくなる。皆、研究熱心になるのだ」
「普通逆だろ……なんで階級高いと仕事無いんだよ」
レイゴットがニコッと笑う。
「好きなことやって居たいじゃん!」
「ああ、お前が制度作ったんだっけか……」
正直、納得の一言しか出てこない。




