「久し振り、と言った方がいいか?」
「うっ!」
「アハハハ!もう限界?」
「まだまだ!」
白亜とレイゴットは戦いにおいては他に追い付けるものは殆ど居ない。この二人が抑止力であり、最大戦力なのだ。
「あ!危ない!」
レイゴットの腕が少し斬れて即座に再生する。
「最悪……」
「人間とは違うからねー。君も僕ももう人間でも魔族でもない生き物になっちゃってるけどね」
「………」
互いが斬りかかり、拳をあわせる度、空間が壊れていく。壁は崩れ、岩は存在自体が消える。その余波で周辺の木々や動物が吹き飛ばされクレーターが次々と出来上がる。
「この!」
白亜の背には4つ翼がある。レイゴットは一対、2つだ。白亜は多い分小回りが利くが、背に仕舞いきれない。レイゴットの場合は2枚なので戦闘に組み込みにくいがその分攻撃が当たれば大きい。
白亜がしゃがんだときに翼で迎撃する。レイゴットも翼で対応するが、数の利で白亜の攻撃が通る。それでも傷を負ってもその場で回復してしまうので殆ど意味がない。
白亜の場合も無詠唱で回復できるのでそう変わらないのだが。
翼や足、腕や武器。使えるものは全て使っている。大変なのは攻撃の余波を受け続けているダイだ。
「ぬぉ!」
吹き飛ばされないように必死だ。
互いの攻撃を受け、避け、放ち、回復する。何度も何度も繰り返される。
白亜の多種多様な魔法、レイゴットの経験。これのどちらかが上回った瞬間、そちらが勝つ。
二人ともスペックはほぼ同じだ。疲れる速度も、ほぼ同じ。
「「はぁ、はぁ、はぁ」」
荒く息を吐く。もうかなり両者は消耗していた。
レイゴットが動いた。白亜は魔力を練る。それにあわせて真珠石のピアスが白い輝きを放つ。
「たあああ!」
「はあぁぁ!」
レイゴットの周りに草木でできた動物が現れ、噛み付き、爪で皮膚を傷付ける。その都度回復していくためにそれを無視して全力で走ってきた。
「グッ―――!」
白亜が吹き飛んだ。洞窟の壁をぶち破って森に落ちる。ダイが間に合ってなんとか支えた。
「ダ……イ……?」
「アハハハ。勝ったよ、ハクア君。これで君は僕のものだ!」
「白亜は物ではない!」
「判ってるよ、召喚獣君。でも正直君、邪魔なんだよね」
「レイ……ゴット!」
「嘘だよ。君の仲間はどうやら逃げたみたいだし、第一目的の君が手に入ったんだから文句は言わないさ」
白亜の口から血が流れる。
「白亜!」
「もう回復効かないから……やっても無駄だ。従うしか……ない、だろう」
「引き際をしっかり理解してるね!そうだよ召喚獣君!僕の勝ちなんだから」
「それでも白亜を渡す気に――――」
「ダイ。ありがとう」
ダイの体が一瞬光り、白亜を空中に残したまま消えた。もう飛ぶ力も残っていない白亜はそのまま落ちていく。
「おっと」
「最悪……」
「アハハハ!僕は今最高の気分だけどね!さぁ、僕の家にいこっ!」
「……皆に手、出した瞬間に俺は自殺する」
「怖いなー。そうならないように善処するよ」
そのまま白亜は目を閉じた。これから先の自分の未来を案じながら、ではあるが。
「ん………」
「お、起きたね?」
「レイゴット……なんだこれは」
左手と左足が鎖に繋がれていた。
「こうでもしないと君逃げちゃうかもしれないでしょ?そうでなくても自爆されて僕も死にたくないから魔力を封じさせてもらったよ」
「………」
細い腕に付いている鎖と輪は、酷く大きく、重そうに見えた。
「僕との唯一の血縁だからね、待遇はかなりいいよ」
「……その前にこのボロボロの服を何とかしたいんだが」
銀色の袴は見事なまでにズタズタになっており、もう少し破れたら服として機能しないような状態になっていた。
「服か……君の場合羽根4枚もあるもんね」
「自分でなんとか出来る。魔力を使うけどな」
「えー」
「取れ」
「えー」
「………」
「逃げない?」
「逃げる予定はない」
「なんかそれ予定ができたら逃げるみたいな………」
「火事とか起きたときどうやってここに残るんだ?」
キョトン、とした顔になるレイゴット。しかし、言葉の意味を理解し、爆笑し始める。
「アッハハハハ!確かに!人間は煙でも死んじゃうもんね!」
「………」
「いいよ、外してあげる。ただ、逃げないでよ?」
「逃げない。……逃げても多分ここから出られないだろ?」
「判る?」
「……俺は迷う癖があるんだよ」
「アハハハ!はい、どうぞ!」
手と足が自由になり、押さえつけられていた魔力が体を循環する。
「通常即興曲、服」
白亜の服が一瞬で新品のような物に入れ替わった。
「え!凄い!どうやったの?」
「魔法じゃない。信頼できないから教えない」
「じゃあ信頼してくれたらいいんだね!頑張っちゃうぞー‼」
「若様がいなかった……?」
「先程の場所はもう洞窟も森自体も大きく削れ、島が死んだ状態になっていました」
「そんな……」
召喚獣達は、白亜が消えてしまったので何とかして捜し出す手立てを考え始めた。
「若旦那……俺達のために身を売ったんじゃないだろうな」
「やりかねませんね……若旦那様はそういうお方ですし」
「これから僕たちどうすれば?」
白亜の捜索に向かおうとしたその瞬間、魔方陣が全員の前に現れる。
「若旦那か!?」
帰ってきたのでは、そんな期待が膨らむ。
「あれ?白亜?白亜は!」
「「「ダイかよ!」」」
転移で強制的に白亜がここに送ったのだと、全員理解した。
「某、白亜を……」
「若旦那様は……捕まってしまった可能性が高いです」
「何とかして取り返さないと」
「でも、俺達じゃ無理だ……もし、だぞ。若を操るような魔法具を使われたら若クラスの強さのレイゴットと若の化け物レベルの二人を相手にしなきゃならないんだよな」
「勝ち目なんて全くないな……」
白亜の状況も探れない。どこに居るかさえ不明だ。
「取り合えず、王城へ行きましょう。若様のお弟子さんもいらっしゃるでしょうし」
「ああ、取りあえずはそうするか」
各々不安を抱えながら、人化して歩き出した。
「ハクア君!」
「気持ち悪い」
「酷い!」
過度なレイゴットのスキンシップに呆れていると、レイゴットの後ろから魔族の男が現れた。
「久し振り、と言った方がいいか?」
「……覚えていたのか」
数年前に白亜が戦った魔族がそこにいた。
「ハクア君。この人と戦ったことあるんだって?」
「………友人を人質にとられたものでね」
「それはすまなかったな」
服に大きめのピンバッチをつけている。
「レイゴットにもあるけどそれは?」
「魔族のなかでも階級を表すバッチだよ。線が多いほど偉いんだ」
「成る程」
「………本当に逃げる気はなさそうだな」
「無い。こいつから逃げきれないだろうし、何よりここら辺の地形を知らない」
「そういうことか」
白亜は手につけられたブレスレットのような物をコツン、とつつく。
「これがあるから場所もバレるし」
「アハハ。ごめんね。身分証明の代わりにもなるから」
「…………」
白亜は以前戦った魔族をじっと見る。
「この感じ……魔力も流していないのに威圧されている感じで怖いですなぁ」
「そうでしょ?面白くていいでしょ?」
「なんであんたがここに?俺に捕まったときの復讐でもしたいのか?」
「そんなどうでもいいことはいい。私も君が欲しい。それだけだ」
「モテモテだねー」
「なにも嬉しくない」
監禁されて嬉しい人など居るのだろうか?
「君の研究チームは我々の二人だけだ」
「知り合いだけだよー。よかったね」
「研究されることが先ず良くはない」
白亜は壁に凭れてどこを最初に調べようか討論し始めた二人を見て溜め息をつく。
「俺……これからどうなるんだろ」
手首のブレスレットが床に当たってカツッと音がなった。




