「羽根取る?」
「おはよう。あれから眠れたか?」
「おはようございます。なんとか寝れました」
「そっか」
白亜はいつも通り配下組を起こしに行った。
『マスター。お待たせしました』
『なにが?』
『マスターの体の原因がつかめました』
『何だった?』
『ひとつ、申し上げます。マスターと魔王……レイゴットは魂レベルで繋がってしまいました』
突然白亜の動きが止まったので白亜の後ろを歩いていたダイが白亜の翼にぶつかった。
『どういう事?』
『刺されたときにマスターの血が、抜くときにレイゴットの血が、互いに流れ込んでしまったのです』
『拒絶反応でもおきたのか?』
『起きる筈でした。しかし、マスター、レイゴットの適応力、防御力はほぼ同じ、しかもかなり高い』
『互いが互いに適応したわけね……』
『そうなります』
白亜は少し考え、
『レイゴットもこんな感じに変わってるのかな?』
『恐らく。それと、魔力が繋がってしまいました』
『俺が使えばあっちの魔力も減るし、あっちが使えば俺も減る?』
『はい。それと、魂が繋がってしまっているので』
『俺が死ねばあっちも死ぬし、あっちが死ねばこっちも?』
『………そう言うことになりますね』
白亜はため息をつく。
「この場合どうすりゃいいのかな……」
不思議そうに白亜を見る召喚獣達に今の話を伝える白亜。
「なんと」
「若様の天敵を倒せば、若様自身も?」
「そうらしい」
それに最も過剰に反応したのは玄武だった。
「主の敵、打つのは無理?」
「無理だな。打っても良いけど俺も死ぬみたいだ」
玄武は本気で殺しに行くつもりだったので自分が守りきれなかったからと悔やみ始めた。
「もう少し姿勢低く!踏み込め!」
「「はい!」」
白亜の剣術指導中、思わぬ出来事がおこった。
「あっ!」
服、というか銀色の袴がビリッと裂けた。丁度首から腹の部分にそって見事に裂けた。
「「え……?」」
ここで、女だとバレた。隠していたわけでもないが。
「俺、女性に斬りかかってたんだ……」
「だから魅惑通じなかったんだ……」
さらっと白亜に魅惑を掛けたことを言ってしまったが、白亜は別に気にしていないのでいいのだろう。
「それにしても胸……何にも着けてないんですね」
「賢人、あんた今自分が何考えたか言ってみなさい」
白亜本人を放って二人が言い争いし始める。
これは余談だが、外に出ると魔族に気づかれかねない白亜の代わりに召喚獣たちが布や服を調達し、今は全員元々着ていた服は白亜の懐中時計に入れている。
もし放っておいて見付かったら素材上の問題でちょっと危ない。
「白亜さん。本当に何もつけてないんですか?」
「布は巻いてる」
「あ、そうなんですね……」
それは下着と言えるのか、と。
「とにかく、女性なら一度それっぽい格好してみたらどうですか?」
「俺がやったら女装にしか見えないだろ?」
「確かに………」
それでも気になると賢人たちが言ったため、着替えてみることにした。天然故、その辺りのガードがかなり緩いのである。
「何着ればいいんだ?」
「あ、ほら!不思議の国のアリス的な!」
「何でそれが最初に浮かんだんだ……?」
疑問に思った白亜だったが、取り合えずイメージは浮かんだので着てみた。
「「めっちゃ似合う!」」
「お、落ち着かねぇ……」
元々中性的な顔立ちなのだ。どっちを着ても似合うわけである。
「次、王子様みたいな奴が見たい!」
「それ結局何も変わらない気がする……」
そうは言っても着替えた白亜。この服は以前卒業祭でほぼ無理矢理着させられたあの格好だ。
「凄いリアル!」
「無理矢理コスプレさせられたからな……」
遠い目で話す白亜。色々着替えて結局。
「やっぱりいつものスタイルで」
「さっきまでの時間は一体なんだったんだ……」
銀色袴になった。
「え?白亜さん、女だったの?」
「そうなんだよ。マジびびった」
「どれくらい?」
「最低でもEはありそう」
「まじか」
「まじだ」
「何言ってんのあんたたち!」
ガルダにお盆で頭を叩かれて微妙に悶絶する二人。
「若様は自分が女っていうのあんまりよく思ってないからあんまり広めるんじゃないわよ」
「それ!トラオムさん!旦那とか若様とかいうから分かんなくなってるんですよ!」
「そんなこと私に言わないでよ。姫様っていったら本気で嫌がられるからよ」
「「成る程……」」
二人の脳内に真顔で全力拒否する白亜が浮かんだ。
「んん、……首が痛い」
「主、どうした?」
「背中が重いから肩が凝ってね」
「羽根取る?」
「いや、これ神経通ってるんでやめてください」
もう大分ここに慣れたな……と白亜は思った。ここに来てから一ヵ月ほど経っている。
驚きなのが、日本組が全員この世界の言葉を話せるようになったのだ。実は、発音方法さえわかれば簡単なのだ。白亜達が居るため、先生には困らなかったというのもある。
「もうあっちに移っても良いかもしれないな」
「主、狙われる」
「かもな。でもなんだかんだ言って同郷の仲間だ。帰る方法見付けて………」
地面が大きく揺れた。白亜と玄武は同時に音の方に向かって走り出した。
「―――雷撃!」
ダイの声が聞こえてきて、少し離れたところに稲妻が落ちる。
「主、異常事態。みんな集める!」
「頼んだ、玄武!」
二人が別れて走り出す。
白亜は音のする方へ、玄武は皆が集まりやすい大広間へ走った。
「ダイ!?ケルベロス!?ケツァルコアトル!?」
「白亜!来るな!」
「逃げてください!」
そう言われ、一瞬足が止まる。そしてダイ達が対峙しているものを見たとき、息が一瞬止まった。
赤い翼、鬼のようなふたつの黒い短い角、灰色の肌。顔は、白亜に若干似ていた。白亜も相手にほんの少し似ている。互いに似通ってしまった容姿。まるで兄弟のようだった。
「レイ、ゴット……!」
「あはは!ハクア君?面白いね。僕たち兄弟みたいになっちゃったね」
まるで他人事のように笑うレイゴット。
「それにしても、本当にちょっと似てるよね?血が繋がっちゃったから当然かもしれないけど」
「…………」
腰に手をやる白亜。相手を油断なく見つめている。
「駄目だ!逃げろ!」
「旦那!あんたが狙いなんだ!あんたが逃げなきゃどうするんだよ!」
「若様!今はとにかくお逃げください!」
白亜は洞窟の出口を無理矢理蔦で壊して幾つか作り上げた。そして念話で一方的に道を作ったから逃げろと伝え、回線を断ち切った。
「白亜!」
「ダイ。逃げるのはお前らだろう?」
「何を!?白亜!誰が狙われているのか分かっているのか!」
「判ってるさ。だからこの判断だ。こいつは俺を殺せない」
「アハハハ!殺したら僕も死んじゃうもんね!判ってるじゃないか!」
レイゴットと白亜。あり得ない方法で出来てしまった最強の兄弟。その存在は、ただそこに居るだけで空間を破壊する。
「アハハハ!いいよ!君も僕も互いにやりすぎたらアウトだもんね!このゲーム、ちょっと面白いかも!」
「お前にとってゲームでも俺にとっては生死をさ迷う物なんだがな」
「ッハハ!面白い!いいよ!凄く良い!」
白亜は気力を右手に集めて身体強化を使う。
そして、耳をすます。洞窟内を必死で駆け回る玄武達の声や逃げる転移者達の足音が聞こえる。
「さぁ、この前のリベンジマッチだ」
「ハハハハ!掛かっておいで!」
両者の拳と拳が、空間を破壊しながらぶつかる。近くにいたダイ達は衝撃の余波で吹き飛ばされた。
「何て威力……!」
「仕方無い!某はここに残る!ケルベロス達は避難誘導に!このままでは直ぐにここは崩れてしまう!」
魔法も使っていないこの攻撃ですでに洞窟は軋み始めている。崩れるのも時間の問題だろう。
身体能力はほぼ互角、魔力までも二人は繋がっているのでどっちかが有利だとかはない。
ここで、経験の差が浮き彫りになってくる。
白亜の村雨が空を斬る。そのタイミングでレイゴットが体当たりをして、白亜は少し吹き飛ばされる。しかし、その威力は半端ではない。
壁にぶつかって大きくクレーターが壁に出来上がる。
「くっ……!」
無詠唱で魔法を連発し始める白亜。
「無詠唱!?今まで隠してたのかな!?凄いや!君を捕まえて教えてもらおう!」
「捕まっても教える気はない!」
あらゆるところで爆弾並みの威力を持つ弾丸のような種が射出され、レイゴットが移動するところの地面が歪んで割れていく。
「これ何魔法!?古代魔法かな、あとで調べさせて貰うよ‼」
「教えないって言ってるだろうが!」
その熾烈な戦いを少し離れた所から見つめる者がいた。逃げ出すのに成功した賢人達だ。
「何あの戦い……!」
「全然見えない、て言うか私達毎日あんなに凄い人と暮らしてたんだ………」
洞窟の内部を観察していると、二人の拳が再びぶつかり合う。その余波で空間が裂け、かなり離れているにも関わらず此方にまで衝撃が届く。
「きゃあ!」
「皆!離れないように気をつけて!」
中の様子が判っても全く目で追えない。白亜がたまに壁に叩きつけられたり、レイゴットに向かって刀を使って空間自体を斬って飛ばしたり。
白亜はかなり劣勢だった。見えなくてもそれは判った。
「皆さんを送るまでが私達の仕事ですから、ある場所にあなた方を案内します」
「朱雀さん!これは、どういう事ですか?前々からまるでこうなると決まってたかのような動きですよね……迅速過ぎます」
「若様はレイゴットが攻めてくる事は危惧しておりました。逃げようとはしませんでしたが」
「僕達を逃がすため……?」
「はい。これを」
冊子のようなものを賢人に渡す朱雀。
「これを読んで、最初はこの通りにしてください。この世界ではあなた方は異物の扱いです。研究材料にされる危険性が高いのです」
「白亜さんも、そんなこと言ってましたね……」
「はい。ですのでこれの通りに動いてください。きっと大いに役立ちます」
空を飛べる魔物達が一斉にもとの姿に戻る。
「お送りします。乗ってください!」
緊迫したその声に、従わざるを得ないと感じ、直ぐに全員乗り込む。
「行きます!目指すは王都!いいですね!」
「「「はい!」」」




