英雄が英雄になるまで 後編
「………」
白亜はそっと表紙に手を触れ、重い表紙を開ける。
そこにはこう書かれていた。
【悪魔召喚】
白亜はそれをじっと見て、
「馬鹿馬鹿しい」
呟いて本を閉じようとする。すると、まるで鉄のように固くなり、どんなに力を込めても閉じられない。
「呪われてるんじゃないかこれ……」
仕方無くページを捲る。
そこには、悪魔の召喚方法、貢ぎ物、使役方法などが事細かに記してあった。何でこんなものが家の跡地から出てきたのか不明だが、白亜は一先ずそれを考えないことにした。
白亜はとりあえず最後まで読んだが全く信じられなかった。
「……意味わかんない」
パスッと音を出しながら本を閉じる白亜。目の前に、真っ黒の羽根を背から生やし、大鎌を持った背の高い顔の整った男が立っていた。
「いつから居た……?」
動揺する白亜にニヤッと笑いかけるその男は、大鎌を地面に立て掛けるようにして置き、白亜の前に膝をつく。
【初めまして。悪魔です】
「………は?」
【今あなたが召喚したでしょう?】
「………してない」
【それは困りましたね………貴方の願いを叶えなければ帰れないんですけど】
「…………」
【願い事、ありますか?】
自称悪魔は膝をついたまま白亜を見上げる。
「……死んだ人を生き返らせたいって言うのは?」
【それはちょっと。世界のルールに反するので】
「……じゃあ、ない」
【そうですか……困りました。本当のことをいってくれませんか?】
「本当の事……?」
【私がここに居るということは少なからず貴方は願いがある。死人を甦らせる以外の、という但し書きが付きますが】
白亜の目がほんの少し細くなる。
「……強くなりたい」
【武術で世界一とかそんな感じで?】
「違う。親を……両親を殺した奴に復讐したい」
【ほう……?】
「………それなら、出来るか?」
【それぐらいならできますよ】
ニヤッと笑みを浮かべる自称悪魔は懐から何かを取り出し、白亜に見せる。
「これは……」
【貴方に出来る事です。その分料金は嵩みますが】
「料金ね……」
カタログのような薄っぺらい紙に色々書いてある。
【何をご所望で?】
「あいつ等に勝てるならなんでもいい」
【それはそれは……では、此方はいかがでしょうか?】
薄いボードのようなものを手渡される白亜。そこには、
【気力……命を削って使う超能力ですね】
「……命、か」
【はい。その分威力は普通の能力とは桁違いです】
「……あいつ等に勝てるか?」
【貴方次第です。これは危険な選択です。よくお考えください】
白亜は手元のカタログとボードを見る。
「これは……」
【お気付きですか?】
「……相当頭がよくないと使えない上、疲れるのか」
【その通りです。秀才ですね】
「世辞はいい。……これを使うとして、使える体にするにはどれだけ貢ぎ物がいる?」
【そうですね……残りの寿命半分と、運気、でしょうか】
ほんの少し目を閉じて思考する白亜。
「……いいだろう。それと、20、いや、念のため21。21歳から先の人生は要らない」
【………?】
「残りはどれだけあるのか知らんが、そっから先は要らない」
【正気ですか?】
「正気だ。その分便宜図れ」
【クク、はははは!面白い!悪魔と交渉する人間は始めてみましたよ!クク、はははは!】
腹を押さえて笑い出す悪魔。
「で、どうだ」
【りょ、了解しました。貴方にこれを差し上げましょう】
「これ………本か?」
【私、貴方気に入ったので。これは神本や聖典と呼ばれる本です。これが私から貴方に図る便宜です】
「……これはなんなんだ?」
【能力の拡張、他人への能力付与がそれで可能になります】
「増やし放題じゃないのか?」
白亜のその言葉にフルフルと首を振る悪魔。
【ある一定数のみしか増えません。それ以上は古い人から、つまり貴方から順に能力が上書きされ、消えていきます】
「……判った」
【能力の事はそちらの冊子に纏めてありますので、そちらを】
「………今更だけどあんた何者?」
【そうですね……冥王という地位ではありますかね】
「……ハーデス」
【そんな名で呼ばれたこともありますかね。私の事は、ライレンとお呼びください。それでは、二度と会わない事を祈っています】
一陣の風が巻き起こり、風が止んだときにはもうそこには誰もいなかった。
白亜は一週間ほど手の痛みで学校に行けなかった。
一週間経ち、包帯は必要だがなんとか痛みはなくなったので学校に行くことになった。
「白亜君。行ってらっしゃい」
「……行ってきます……」
鞄を背負い、学校へ向かう白亜。ひかりは心配でたまらなかった。
「え?測定不能?」
「そうなんですよ。どんな問題も解けるんです」
ある日学校の先生に呼び出されたひかりは白亜のIQが跳ね上がっていることを知る。
「本人は計りたくないと言っているので強制はできませんが……300を超えている可能性があります」
「それって、普通の人の三倍以上……?」
「恐らく、ですが」
白亜のIQは6歳の時180位、現在は実は気力に耐えられる体にするために三倍、つまりIQ540位になっていた。
「取り合えず、お伝えしなければと思いまして」
「あ、ありがとうございます」
ひかりは白亜の保護者として登録してある。
「それでは、失礼します」
またあるときには白亜がパソコンを買ってきた。
「何に使うの?」
「……AI」
「え?」
「……AI作ろうかな、って」
その日からパソコンでガチャガチャ何やらやり始めた白亜。ひかりには全く理解出来ない数字や文字の羅列が続く。意味が判らない上、文字で酔いかけるので見るのをやめた。
たまにギター等を病院内で弾き始めた白亜。音楽療法に近いものなのだが、たまに弾くことで思わぬ所から声がかかった。
東京の音楽学校だった。
AIを作った理由は、気力データの保存、管理をさせるため。また、戦闘するときにAIが別視点から見ることで勝率が上がると白亜は考えたからだ。
武器の様なものを作り、それにAIを乗っける。場合によっては法に引っ掛かるので離れた山中に土地を買い、これまたAIのみで秘密基地の様なものを作ってしまった。
白亜一人いれば国ひとつ落とせるのでは、と思えるほどだった。
「……起動。システム確認」
「聴力、視力、感度、オールグリーン。起動します」
白亜が初めて作ったAIはこれから先の白亜の物の全ての管理、制御を任し、体の製造の更新を最優先で行った。
「……俺の事、判る?」
「存じております。揮卿台白亜様」
「そっか。……個体識別番号1……いや、君はこれから体をいくつバージョン変化して体が変わったとしても、ヒカリ。そう名乗れ」
「了解しました。これからよろしくお願い致します」
「よろしく、ヒカリ」
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「これが俺の前世。ここから先は知ってる?」
「えっと、討伐隊ですか?」
「そう。そんな感じ」
月が出てきた。白亜の翼、角が綺麗さっぱり消え、肌の色も白くなる。
「お、戻ったな。やっぱり月がこれを何とかしてくれる鍵みたいだな……」
白亜は椅子から立ち上がり、ひとつ伸びをする。
「もう大分遅くなったな。早く帰って寝た方がいいよ」
「そ、そうですね」
「某が送ろう」
白亜は翼が無いのにいつも以上のスピードで飛んだ。ダイは流石について行けなかった。
明日から本編に戻ります。




