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「じゃあ、教えよう」

「見張り?」

「そうなんだよ。眠いってのになぁー」


 欠伸をしながら答える隆と話し掛ける優奈。実はこの二人、付き合っていたりする。


「昼間の話、どう思う?」

「昼間って、白亜さんのか?」

「そう」

「嘘じゃないとは思うけど」

「けど?」

「全部本当でもない気がする」


 熱いお茶を冷ましながら飲む二人。


「どういうこと?」

「まだ、一線を置かれている、っていう感じがする」

「確かにね……」


 しかも白亜の目付きが更にそれを思わせてしまう。二人は無言で洞窟の外を見つめる。どれくらいの時間が流れただろうか。


 ふと、どこからか何かの音が聞こえてきた。


 それは、どうやら楽器の音のようだった。


「これ……フルート?」

「判るのか?」

「吹奏楽部を舐めないでよね!」


 ない胸をはって自慢気に話す優奈。


「でもこんな音が聞こえるってことは誰か近くにいるんじゃない?」

「ちょっとだけ見てみようか」


 音のする方向にこっそりと歩いていく二人。進むにつれ、音がはっきり聴こえてくる。


「これ……無題だ」

「マダイ?」

「無題。題がつけられてないからってそんな名前なの」

「意味が判らん」

「隆くんには判んないよ」


 クスリと笑いながらそっと進んでいく二人。


「あれ?」

「どうした?」

「この曲、本当は途中までしかないのにそこからも続いている……?」

「そうなのか?」

「CMで聴いたことない?」

「………!あ、ある!」


 曲が長調から短調に変調した。


「こんな曲にアレンジして吹いてるのかな……?」

「なんか悲しそうな曲だな。これって誰が作ったんだっけ?」

「揮卿台 白亜だよ!」

「あ、歴史でスッゴい出てくる人?」

「今更だよ、それ」

「凄い人らしいな」

「音楽やってる人で知らない人は居ないよ?いや、日本人で知らないっていうのもおかしいことない?」

「あんまり声出すとバレるって」


 岩陰からこっそりと見る。


 高い岩の上で白銀の翼をもつ悪魔のような自称人間、白亜がフルートを吹いていた。


 突然変調したり、テンポが変わったり騒がしい曲ではあるが一切の狂いなく吹き続ける白亜。すると、雲の切れ目から月の光が差し込み、白亜を照らし出す。


 その瞬間、白亜の翼、角がフッと消えた。肌の色もかわり、透き通るような白い肌になっている。そして何より、


「子供……?」


 白亜が元に戻ったのは数瞬だった。本人も気づいてないほどの物だったが二人に与えるインパクトは相当なものだった。


 吹き終わった白亜がフルートを地面に置く。すると何もなかったかのようにフルートが消えた。


「どうかした?」

「え?え?」

「いつ声を掛けようか迷ってたんだ」


 翼を広げて空を飛び、優奈達の近くに着地する。


「おっと。やっぱり羽根使わない方が飛びやすいな……」


 あり得ないことを口走りながら。しかもこれが平常運転なのだ。こわいものである。


「寝れなかったのか?」

「あ、はい……」

「煩かったかな。何かしていないと落ち着かなくてさ」


 ほんの少し、笑った。優奈の顔が赤くなる。


「いえ、とてもお上手でした……」

「お世辞はいいよ。さて。俺もやることやるかな。おやすみ」

「「お、おやすみなさい……」」


 二人は暫くそこに立っていたが、どちらともなく動きだし、隆は見張りに、優奈は寝に行った。白亜が何をしていたのかは、誰も知らなかった。








「それじゃあ今日は―――」


 白亜がそういった瞬間、目が眩むほどの光が地面から唐突に出た。それは一瞬だったのだが、光が消えたあと、白亜の召喚獣が勢揃いしていた。


「わああああ!」

「キャアアア!」

「ああああぁぁぁぁ!」


 大混乱だ。災害級の魔物が一同一気に飛び出てくるとそれは恐いものがある。


「なんでみんな一気に?」

「「「人間化したくて」」」

「はぁ………」


 人数が滅茶苦茶増えた。








「今日は戦い方を教える」

「戦闘出来るやつはいるぞ?」

「能力だのみじゃいつか勝てなくなる。……そう言えば賢人。剣術の能力だったよな?」

「あ、ああ」


 ヴァンパイア(グラキエス)がいち速く白亜の意図に気が付き、木刀を持ってくる。


「は、早いな」

「当然です」

「と、これで俺と戦ってもらう」

「真剣と木刀で!?」

「いや、俺は素手で」


 舐めすぎだろう、と誰もが思った。賢人は全国大会に出場するほど剣道が上手い。


「舐めすぎじゃないか?」

「さぁ、どうだろう。俺も正直こんなことするの弟子以外居ないからな」

「いま、最後なんて?」

「いや、何でもない。始めようか」


 近くにいたユニコーン(シャンス)に村雨や懐中時計を渡し、関節を解す。


「えっと、面とかしなくていいのか?」

「多分問題ない。ナイフでもないしな」

「さらっと恐いこと言ったこの人………」


 スッと構える賢人。剣を振り慣れている動きに白亜は一瞬目を細める。


「ダイ。審判を」

「任せろ」


 ダイが前に出てきて、二人を何時でも止められる体勢になる。


「両者、やり過ぎないように。戦闘開始‼」


 動き出したのは賢人だった。


「たああぁ!」

「………」


 白亜は紙一重で回避する。その後の動きもすべて見切って回避。紙一重だ。


「こっちも仕掛けてみようか?」


 バキッと音がして木刀が砕け散る。


「「「えええええ!?」」」


「やはり少し遅くなったか……?背中が重いからか」

「勝者、白亜!」


 固い木刀が綺麗に折れている。漫画みたいだ、と誰かが言った。


「こんな風に、能力を持っている、持っていないは努力次第で覆せる」

「これ、どうやって折った?」

「手刀で、こう」


 手を近くの岩に一閃。スパッと一瞬遅れて岩が滑らかに切断された。それを見て日本組は背筋がゾッとした。


「これぐらい出来る人も結構いる。ここから離れた時にそういうやつに会ったらどうするか。その対処も必要だ」


 首がとれそうな勢いで全員が高速で頷く。


「じゃあ、教えよう」


 白亜は先ず、全員と希望する武器で戦った。それで個人個人の限界ギリギリを即座に見極めて召喚獣を先生に付けた。


 理科の先生は槍志望……というか能力が槍術だったため、槍の扱いが上手いレイス(ウラノス)に付くことになった。お化けだなんだと最初は言っていたが大分打ち解けた。


 白亜の担当は剣術。賢人ともう一人、『魅惑』の能力をもつ桃華という女子だ。能力は魅惑だが、剣道部所属だったらしく、筋もいい。


「それじゃあ、始めようか」

「「お願いします!」」


 白亜は二人を叩きのめした。しかも毎日。やはり鍛練となると死ぬか死なないかのギリギリを攻める白亜である。


 二人はそれこそ死ぬ気でやった。白亜は元のスペックが違う。二人が全力で木を斬りつけたとして、いって数センチなのが、白亜の場合軽く振るっただけでその先の木まで薙ぎ倒せる。


 お蔭で二人は最強のコンビと生徒内で言われるようになる。


 戦い方の鍛練とは別に言葉の勉強も始めた。これは最優先で覚えられなかったら白亜のきつめの鍛練指導が始まる。これは召喚獣もとばっちりを受けるので鍛練時まで言葉の練習をさせる始末である。


 そのかいあって言葉の習得があり得ないほど加速した日本組だった。








「あれ?白亜さん?」


 夜にどこかに出掛ける白亜を追う優奈。


「白亜は近くの少し開けた岩場に行くぞ?」

「わ!」


 ダイに急に話しかけられて驚く優奈。


「だ、ダイさん。驚かさないで……」

「クアハハハ。すまぬな」


 本当に悪いと思っているのか疑問だ。


「白亜さん、こんな時間にいったい……?」

「気になるなら某が連れていこうか?白亜は毎晩何をやっているのか、見せることは出来るぞ?」

「本当ですか?ぜひ!」

「任せろ」


 ダイは白亜にバレないように空を飛びながら移動する。


「声をなるべく出さぬようにな」

「あ、はい!」


 静かに飛行するダイ。白亜は器用に四枚の翼を使いながら恐ろしい速度で飛んでいく。だんだんと引き離されていくが、気合いで追い付くダイ。


「ゼェ、ゼェ、ゼェ」

「すみません、疲れさせちゃって……」

「は、白亜が速すぎるだけだ。問題ない」


 息切れしているが、取り合えず放って白亜の方を見る優奈。白亜は村雨を岩場にある巨大な岩を切り刻んでいく。恐ろしく美しく、洗練された動きに見惚れる優奈。


 白亜が腰に手をやり、抜刀する度に真っ直ぐに斬れていく。


 一通りやり終わると、魔法の練習に入った。地面から蔓や花を咲かせ、踊っているかのように縦横無尽に動き回る。


 花は咲いた瞬間に火が上がったり爆弾のように破裂したり、かなりえげつない効果を持っているが、そんなのも気にならないぐらい白亜は美しく、しかしかなり豪快に動き回っていた。


 暫く続け、突然止めた。


「あれ?」

「お、珍しいものが見れるかもな」


 ダイは完全にギャラリーと化している。


 白亜の前に椅子とハープが現れた。椅子に座り、軽く手を添えて状態を確認している。


「ダイさん。これは?」

「白亜は感情が表に出ない。その分ストレスが溜まるのだろうな、たまに楽器を弾いて自分を落ち着かせようとするのだ」

「悩んでるときとかにやるって事ですか?」

「そうだ。前世からずっとそうしているようだな」

「そうなんですか……」


 白亜は両手でハープを弾き始める。


「これ確か無題の一つ……」

「無題とはなんだ?」

「ある人が作った曲集です。全部途中までしか書かれていない上、題もつけられていないのでそんな名前で広まってるんです」

「成る程な……」


 白亜は普段からは想像もできない穏やかな目をして、口元は少し緩んでいる。


「本当に楽器を弾くと人が変わるな」

「変わる?」

「表情を見てみろ。雰囲気も別人のように柔らかくなる。これが本来の白亜なのだろう」

「普段は作っているんですか?」

「そうとも言えるし違うとも言えるな。作るのが普通になりすぎてそっちでしか居られなくなっている」

「?」

「その内わかるさ」


「お二人さん。何やってるんだ?」

「「わああああ!」」


 弾いていた筈の白亜がいつの間にか二人の目の前に出現した。


「き、気付かれたか」

「飛ぶの遅すぎだろ?」

「最初から気付かれてたんだ……」


 白亜は少しため息をついて二人を先程まで居た岩場に案内する。


「本当にどうでもいい話……なんですけど」

「ん?どうした?」

「白亜さんって……揮卿台っていう苗字じゃないですか?」

「……なんでそう思ったんだ?」

「無題の書かれてない部分弾いていたし、それに残っていた資料と特徴が一致しますから」

「ふぅん……そうだけど?」

「え?」

「俺の本名は揮卿台白亜。人殺しだよ」


 白亜が岩にベンチくらいの長さの椅子を用意する。


「人殺しって……?」

「………聞きたい?」

「え?」

「俺のくだらない人生、知りたい?」

「知りたいぞ!」

「ダイに聞いてないんだけど……」

「聞きたいです。なんでそんな態度なのかも教えてもらえるんですよね?」


 ククッと笑う白亜。悪魔の笑みだ、と反射的に優奈は思った。無駄に格好良かった。


「そうだな……俺は―――」
















「俺は、両親を見殺しにしたんだ」

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