「勇者っているんだな」
「ここでいいかな」
以前ダイを召喚した草原に来ていた。やはり何もない。人気もないのでうってつけの場所だろう。
「血以外で良い方法ないかな……」
そろそろ指を切るのが面倒になってきたようだ。これは本契約すればやらなくて良いのだが。つまり、もうこれで血を出す必要は無くなったというわけだ。
『マスター。先に公爵位を。後にすると多分怒ります』
「あー、うん」
公爵位というのは白虎、玄武、朱雀、青龍、そしてダイの事だ。白亜の召喚獣は非常に多いため白亜が仮契約をした順番で待遇の優劣が決まっている。
上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。これは白亜が呼び出した順番なので力の強い弱いは関係がない。
このシステムを作ったのは意外にもダイである。やることはちゃんとやるのだ。一応。
「召喚、朱雀、青龍、玄武」
三つの魔方陣から出てくる。少し玄武がご機嫌ななめだ。
「どうした?」
「主、エスペーロ二番に名前つけた。二番私がよかった」
「あー……それは、すまん」
なりゆきに近い感じだったのでどうしようもないと言える。
「ほ、ほら。玄武。お前の名前はスターリだ」
「ん。契約」
名前を付けたら蛇の部分がふにゃっと笑った。チョロい。
「私も」
「そうだな。朱雀。お前の名前はカーロだ」
「ふふ。ありがたく」
「我が最後か……」
「あ、ごめん。青龍。お前はプロテッツィオーネだ」
青龍の名前が異常に長い。かなり言いにくいが誰も気にしてないので良いのだろう。きっと。
因みにスターリはロシア語で鋼、カーロはイタリア語で最愛、プロテッツィオーネも同じくイタリア語で守護だ。
「これで、人化」
「後でまた呼ぶから今は帰って貰って良いか?」
「ん。後で」
何故か全員ニマニマした顔で帰っていった。端から見ると正直気持ち悪い。
「どんどんいくか」
侯爵位のリンドブルム、バハムートを呼び出す。でかすぎて周囲に人はいないのに不安になる白亜。
その後も次々と契約を済ましていく白亜。最後の方適当だった。
爵位が上から言っていくとこうなる。
【公爵】
・黄龍
・玄武
・朱雀
・青龍
・白虎
【侯爵】
・バハムート
・リンドブルム
【伯爵】
・麒麟
・ケルベロス
・フェニックス
【子爵】
・ガルダ
・ケツァルコアトル
・スレイプニル
・ヨルムンガルド
【男爵】
・ユニコーン
・ヴァンパイア
・ケートス
・レイス
・アジ・ダハーカ
・ペガサス
よくこれだけも数の召喚獣を扱えるものである。
「帰ってきました」
「あ、お帰りなさい……あの、どうやって移動したんですか?」
「転移ですか?あ。あれ使えること誰かにバレると解剖されるとかそんな感じに実験材料にされかねないので、なるべく言わないで頂きたい」
「い、言ってませんけど………言わなくて良かったぁ」
気の抜けた声を出す優奈。
「そろそろ時間ですよ」
「ん。もうそんな時間でしたか。……さて、行きましょうかね」
ほぼ無意識にエスコートする白亜。ある意味すごい。それに気付かない優奈も、ある意味ですごい。
「魔法ってなんなんですか?」
「魔法は言葉で紡いだ入れ物に魔力を流し込んで具現化するものです。分かりにくかったら魔力を水、言葉をコップで表現しましょうか」
両手を前に出す白亜。
「水を凍らせる。これが一番分かりやすいですかね。まず、詠唱でコップを作ります」
魔力で瞬時にコップが作り出される。
「この中に水を入れます」
水が空中から突然流れだし、コップに溜まる。
「そして、この形のまま凍らせる」
ピシッと音がして水が凍った。
「つまり、詠唱は魔法を作り出す時に使う型、魔力はその過程で元となるもの、凍らせることで魔法は完成。といった流れです」
「つまり、やろうと思えば詠唱なしでも?」
「できますよ。ただ、俺以外に使える人見たことないですけど」
「使えるんだ……」
「ええ、まぁ。努力次第でしょうね」
さらっという白亜。歴代で誰も成功していない無詠唱を適当に使っている本人としては特になんとも思わないのだろう。
「どうして無詠唱は難しいんですか?」
「コップなしでコップの形で凍らせられるか、というだけです」
「なるほど」
器用だったら出来るんじゃね?と誰もが思った。本当は、それに見あった膨大な魔力、完璧に周囲の魔力までも把握できる感覚が無ければほぼ不可能なのだ。
「あ。忘れてた。少し宜しいですか?此処に魔力を流してみてください」
一番近い生徒に水晶玉を持たせる。生徒達は能力で基本魔力を使う。なので魔力の流れというものが感覚的に判っていた。
「なんか光ってる……」
「お、紫だ」
「何かあるんですか?」
「特殊属性……無属性ともいうんですけど、確認されている魔法の属性の中ではかなり使い勝手の良い魔法属性だ……ですね」
「もう無理に敬語使わなくて良いですよ……」
と言うことで敬語はやめた白亜だった。
「魔方陣について説明する」
白亜は懐中時計から紙を取り出し、広げて見せる。
「これは防音の魔法。これを張ったところは音が漏れないし外からも聞こえない」
「おおー」
「魔方陣はさっき言った詠唱の部分を代わりに作ってくれる物だ。さっきコップの話をしたが、魔方陣の場合は最初からコップが置いてあるイメージでいい」
以外と分かりやすい白亜の授業である。
「それと、形を完全に覚えられるなら紙は必要ない」
白亜はしゃがんで地面に右手の指先をつける。すると、光が指先から出、魔方陣を構築する。
「召喚、玄武」
魔方陣から巨大な蛇が巻き付いた亀が出てきた。
「主。遅かった」
「それはごめん」
「これで人化?」
「もうできるはずだ。やってみろ」
蛇と亀が同時に目を瞑り、力を込める。すると光が周囲に発散されたときには女の子が立っていた。髪は緑色、目は魔眼ではないので黒。
つんとした表情で、可愛らしい子と言うよりクールな感じだ。
「ん。成功したな」
「ん。これからここにいる」
そっくりな二人である。
「それじゃあ聖と闘の力の話だ」
くるっとターンする白亜。その動きでさえ洗練されていて日本組は少し魅入ってしまう。白亜はホワイトボードを作り出し、黒のペンで絵を描いていく。
「巧すぎだろ、あれ」
適当に描いているのだが滅茶苦茶上手い。そこに描かれたのは魔王レイゴットと勇者リュウホウだ。
「これが魔王のレイゴット。俺より強くて二回戦ったけど一回目は敗けて二回目はこいつにお互いやられた。引き分けなのか怪しいところだが」
コンコン、とペンでリュウホウを差す。
「レイゴットは歴代勇者を全員退けてきたらしい。確か年齢は億単位だったと思う」
「寿命は?」
「魔王に寿命はないらしい。殺されるまで、生き続ける」
「なんだそれ……」
「他の魔族は1000年ほどだったか」
「すげぇ」
白亜は簡略化した自分の絵を描く。
「で、俺とレイゴットがこいつにやられた理由は互いを意識しすぎたんだ」
「それがなんでこの話に?」
「良いから聞け。それで、この時、互いを意識し無ければならなかった理由が聖の力」
白亜の全身から金色の光が溢れ出す。
「えええ!」
「なんか魔法っぽい!」
厳密にいうと魔法ではないのだが。
「この辺にしておくか……でだ。これは魔族の力に逆作用する。レイゴットをかすっただけでかなりダメージが入る」
「チートだ」
「ただし、これには制約がかなりあってな。軽い気持ちで使うと死ぬ。資質の問題もあって歴史上でも扱える者は数人だ」
白亜はレイゴットの絵をつつく。
「こっちにもそれと似た戦い方がある」
「闘の力……?」
「そう言うこと。闘の力はどんな生物にも作用する。聖の力より使い勝手も威力も高い」
「じゃあなんでそっち覚えなかったんだ?」
「覚えられなかったんだ。そういう器官が体に備わっていない」
聖の力の説明をし続ける白亜。
「ま、これぐらいは覚えておけ。で、勇者だ」
「勇者っているんだな」
「ああ、300年に一回位の確率で」
「長いな……」
白亜がホワイトボードから手を離した。手から離れたホワイトボードは霞のように消える。
「勇者は神託で選ばれる。そこで、加護……君達が持っている能力と似たようなものを授かるらしい」
「俺達の能力って加護だったのか?」
「恐らくな。俺のこれも能力だし」
手にペンが現れ、離すと消える。
「今回の勇者の能力が少々厄介だったんだ」
「つまり?」
「俺とレイゴットが聖の力で戦ってるだろ?」
「ふむふむ」
「試合に集中し過ぎて周りが見えなくなるだろ?」
「あ、はい」
「後ろから二メートルくらいある剣で俺ごとズブッと」
「…………」
かなり生々しい。
「それで、勇者の能力って?」
「隠密だ。普段なら気付けた自信あったんだが、流石にあの時は周囲を気に出来なかった」
「もしかして死にかけてたのって?」
「そんときの傷が致命傷になった」
「「「あー………」」」
【エスペラント語】
希望 エスペーロ
夜 ノクト
【フランス語】
光 クラルテ
幸運 シャンス
【ドイツ語】
勇気 ムート
闇 シュヴェルツェ
風 ヴィント
夢 トラオム
【イタリア語】
守護 プロテッツィオーネ
最愛 カーロ
【スペイン語】
空 シエロ
雷 トゥルエノ
太陽 ソル
【ギリシャ語】
雲 ウラノス
炎 プロクス
海 サラサ
星 アステリ
【ロシア語】
鋼 スターリ
【ラテン語】
氷 グラキエス




