「エスペーロってどう?」
「わ、若旦那!命は助かったんだし、寧ろペナルティそれぐらいでよかったじゃん!」
「いや、そうなんだが……」
いまだに呆然としている。
「えっと……?」
「ああ、すまない。ユウナ。若旦那が珍しく感情を表に出してるから、相当驚いてるんだと思う。このまま放って置いてくれ」
「え、あ、はい……?」
まだ羽根を弄っている白亜を無理矢理近くの、と言っても白虎の足で数分なので人間が歩けば何時間かかかるところだが、兎に角水辺に体を洗いに行った。
「ほら、若旦那!俺こっち見てますんで体洗って下さい!髪が灰色になってますよ!」
後ろを向いて座る白虎。白亜はそんなこと気にしないのだが、白虎が気にしてしまうのでこのスタイルになった。
白亜は水で身体中の汚れを浮かせて、石鹸等を魔力で作って風呂にまで入った。羨ましい限りである。因みに、白虎も汚いからと白亜が無理矢理洗った。
毛並みが綺麗になったが、水が苦手らしく嫌がっていた。
そのまま風を起こして乾かし、服は懐中時計にしまった。予備の服を取り出そうとして、問題が発生した。
「この羽根あるのに服着れるのか……?」
邪魔だ。それもかなり。創造者で穴の開いた服を作ってみたが、着方がわからず断念。
「あ、こうすれば良いんだ」
イメージをして直接服を体の周りに纏わせるように作る。着れたが、こんな風に穴が開いた服をイメージするのが非常に難しかったようで何故か袴だった。
「若旦那。なんでそんな服なんですか?」
「いや、平面からイメージしたら必然的にこうなってしまったと言うか……」
どうやら洋服に穴を開けて着るイメージが掴めなかったようだ。その点和服なら上さえ着込んでしまえばあとは帯を締めるだけなので。
「あ、乗りづらいかも……」
広めの白虎の背に乗るには適さなかったようだ。
「若様!」
「わ、若ー!」
「心配かけてすまなかった」
神獣達とのスキンシップ後、転移者達と対面することになった。
「俺が対面……?」
「いや、若旦那以外誰が居るんですか?」
「だよね……」
食堂らしきところがあるらしいのでそこで話すことになった。
こういう場が苦手な白亜は嫌がりはしたものの、助けてもらった身なので何も言えないのが現状だ。すると、白亜の頭に声が響いたので魔力を繋げる白亜。
『シアン?』
『マスター!心配したんですよ!』
『ごめん。で、これどう言うこと?』
『解析中です』
『あ、もう調べ始めてるんだ……』
『高熱が出始めた頃からおかしいと思いまして』
相変わらず主人の了解をとらない通常運転のシアンである。
「どうぞ」
「あ、はい。失礼します」
食堂に通されると、クラス生徒全員と理科の先生がズラリと並んで座っていた。因みにこの椅子や机は建築の能力をもつ男子生徒が作ったものらしい。
白亜が入るとざわめきが起こる。それもそうだろう。灰色に見えた髪は目が覚めるような白銀の輝きを放っており、ボロボロの服は黒と銀色の袴に変更され、腰には日本刀が刺さっている。
どこかのアニメで出てきそうな格好だ。しかも、顔はあり得ないほど整っており、目は緑と赤のオッドアイ。それも目の白い筈の部分が真っ黒なのだ。
この世のものとは思えない存在感を放ちながら悠々と歩いて席に座る。白亜本人は正直早く終わってほしいと願っていたが顔にでないので誰も気付かない。
「そ、それでは、お話をはじめても?」
「……どうぞ」
面接のような緊張感が漂う。
「この世界は、異世界という認識でいいですか?」
「そう考えてもらって良いでしょう。日本から来たんですよね?」
「はい。気づいたら此処に」
「そうですか……正直、この世界では異界人の存在自体知られていません」
「何故あなたは知っているんですか?」
「転生……と言えば判りますか?」
日本組がざわめく。
「つまり、あなたは元日本人で、転生してこの世界に来たと?」
「そうですね」
転移者だけでなく転生者まで現れた。日本組は混乱中である。
「あ……助けて頂き有り難うございます」
「え、あ。いいえ。当然のことをしたまでです」
「礼は何がいいですか?」
「礼なんてそんな」
「貰っておいた方がいいですよ。この世界では下手に相手より自分を低く見せると死にやすくなるので」
白亜突然の天然カミングアウト。
「そ、そうですか……」
日本組は完全にひいている。
「それで、何がよろしいですか?」
「えっと……どうする?」
日本組が相談を始める。暫く話し合って取り合えず決めたようだ。
「この世界で生き抜く術を教えてください」
「生き抜く術、ですか」
「無理でしょうか?」
「いえ、問題はありません。此処に滞在しても宜しいという解釈をしても?」
「はい」
「了解しました。それでは後程お教えしましょうか」
この時の日本組の判断は正しかった。白亜のように弟子をとれるほどの強さをもつ人に教わる場合、料金は半端なものではない。これを日本組が知るのはもっと先の話である。
「質問、いいですか?」
「どうぞ」
「あなたは、その、悪魔なんですか?」
この子は白亜と同じくらい天然らしい。
「人間ですよ。元はこんな感じですね」
立ち上がって幻覚魔法を使用し、元の容姿を見せる。白銀の髪に白く透き通るような肌。羽根なんて無ければ肌の色も違う。
「そんなに違うんだ……」
「これ以上やると魔力が分散しそうなので止めますね」
悪魔と間違われるような容姿に戻る。
「なんでそんな姿に……?」
「現在調査中です」
シアンが。その後、何人かの質問を受け、その日の会議は終了となった。またあるのか……。と白亜がボヤいたことは誰も知らない。
「風呂に入りますか?」
「え?」
白亜が作った風呂は大人気、というかずっと同じ服を着て体を拭くような事しか出来なかった事に不満が爆発寸前だった女子達に大好評だった。
服も出せないかとねだられたが体を離れると消えることを説明したらしょんぼりとして諦めていた。因みに神獣達も洗った。大半が嫌がった。
「あ、そう言えばあんたの名前は?」
「言ってなかったですね。***・**・****・***といいます」
「は?」
「ですから、***・**・****・***です」
「え、どうやって発音してるの?」
「あ」
この世界の言葉の発音は日本とは全く違い、聞き取ることが出来ない。片仮名で書き直さないと発音は難しい。
「ハクア・テル・リドアル・ノヴァですかね」
「長!」
「俺に言われても……」
「どれが名前?」
「白亜」
「へー。判った。白亜な」
「珍しいと思わないんですか?」
「え?そうか?」
特にそう思わなかったらしい。
ふらっと白亜が倒れかける。
「若旦那!大丈夫か?」
「ああ、すまない。ちょっと羽根が重くてな……」
「そうか。俺が近くに付こう」
「ありがとう。考えたんだけどさ」
「なんだ?」
「エスペーロってどう?」
「何が?」
「白虎の名前」
「へ?」
前々から考えていたらしい。初耳だ。因みにエスペーロはエスペラント語で希望を意味する言葉である。
「も、勿論だぜ!若旦那!」
こんなどうでも良いときに本契約をさらっと済ます辺り、白亜はやはり天然なのだろう。
「おい!俺名前貰った!」
「「「えええええ!」」」
「ずるい!」
「そうですよ!若様!我々には無いのですか!?」
かなり図々しい奴等である。
「あるから。全員分」
「「「ヒャッハー‼」」」
女性陣まで混ざって品がない。白亜はその辺りも気にするべきだが。
「ただなぁ……全員呼ぶのは……結構皆でかいからな……」
名付け、つまり本契約には本人もその場にいないと出来ないものである。つまり、全員呼び出す必要があるのだが、白亜の召喚獣はあり得ないほど多い上にデカイ。
そこが問題なのだ。
「どっかに転移してさっさと済ますか……?」
そっちの方が早いというのも異常なのだが。
「どうされたんですか?」
「あ、優奈さん。今から少し遠くに行くんですが宜しいですか?」
「探索ですか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。今からやることはかなり場所を使うので拓けた場所でないと出来ないんです」
何をやるつもりなんだ?と思いつつ、
「それなら構いませんよ。ちゃんと帰ってきてくださいね」
「はい。それでは」
そう言った途端、白亜以外の全員が一旦帰った。
「え?あれ?」
「行ってきます」
白亜も光に包まれて消えた。後に残されたのは呆然と白亜が先程までいた場所を見つめ続ける優奈だった。




