「皆無事なら、それでいい」
「皆!帰ってきたぞ!」
何とか順応し始めた生徒達。先ずはここがどこなのかを調べなければならないということになり、戦闘向きの能力の生徒が現在森を探索中だ。
雨風を凌げる場所を探した結果、近くに洞窟があったのでそこに全員でなんとか住んでいる。
「捌くから持ってきて!」
女子達も吹っ切れ始め、自分の能力で何が出来るか模索中だ。その筆頭が、料理能力を持った女子で委員長の秋華だった。流石委員長。適応が早い。
目立たなかった生徒達も徐々に力を会わせて日本に帰ろうとしている。
そんな異常な暮らしが三日ほど続いた。
「戦闘組!出発するぞ!」
戦闘組が出ていくのを待機組が見送る。
「居たぞ!火ネズミだ!連!」
「任せろ!」
大分上達した水の塊が火ネズミの上に落ち、火ネズミが死ぬ。
「よっし!」
「血抜きしないと。委員長に怒られるぞ」
「そうだったそうだった」
そんな感じで進んでいく。すると、辺りの空気が一変した。
「なんだ……?」
「わああぁぁぁ!」
男子生徒が後ずさる。そこには巨大な白い虎がいた。牙を剥き出して威嚇している。
「悪いことは言わない。ここから立ち去れ」
唸り、そう声を出す。
「嘘だろ……?喋った」
「俺も、聞こえた」
困惑し、狼狽える。そこに白い虎が更に鋭い目で睨み付ける。
「ここから先に近付くな!」
「「「ああああああ!」」」
まず女子、男子も叫びだした。逃げ出そうと走り出すが、足が縺れて転んでしまう。圧倒的な死の恐怖。それが生徒達を襲った。
「……あの虎、怪我してないか?」
ある一定の所から見る戦闘組その2。
「ほんとだ。もしかしたら子供とかいるのかな?」
「子供を守っているなら、あの威圧も間違ってはいないな。話せるなら意思疏通は出来るんじゃないか?」
戦闘組その2の方は勇敢だ。
「いつまで見ているつもりだ?帰れ、人間」
「すみません。少しお話ししても?」
「帰れ、と言った筈だ」
「何故ここから立ち去れと言うんですか?巣でも―――」
その瞬間、あり得ないほどのスピードで何かが割り込んできた。
「麒麟。どうした」
「白虎!すぐ戻ってくれ!若様が虫の息なんだ!」
「なんだと!?朱雀は!」
「魔力切れで……回復魔法が使える連中は皆もう限界なんだ!」
何やら緊迫した雰囲気。
「あの、何かあったんですか?」
白虎と麒麟が同時に戦闘組その2の方を見る。あ、こいつら居たわ、くらいの感覚で。
「お前らに回復魔法が使えるものは居るか?」
「使えるけど……」
「助けてくれ!もうこの際なりふり構ってられない!」
麒麟がとんでもない速度で頭を下げる。
「麒麟!若旦那の身を危険に晒す気か!?」
「ここで頼まなければ若様は本当に死ぬ!私はその為なら伯爵位を降りる覚悟だ!」
グッと唸る白虎。そしてため息をつく。
「誰に似たんだか……頼む、人間。礼なら後でする。一先ずは、助けてくれないだろうか」
中国の神獣と霊獣に頭を下げられ、NOと言えない日本人が揃ったこのグループに断るすべはない。
「わ、判りました」
「乗ってくれ!直ぐに連れていく!」
言うが早いが背中に尻尾で生徒達を乗っける白虎。雑過ぎる。
「落ちるなよ!」
風のような速度で走り始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「若!」
「若旦那様!」
白亜の周りを巨大な神獣達がうろうろしている。
「体温が!」
「不味い!暖めるんだ!」
「魔法使うな!燃える!」
白亜の息がゆっくりと、小さくなっていく。回復魔法をかけ続けているがもう既に雀の涙程しか魔力は残っていない。朱雀は自らの羽毛に白亜をいれ、体温が下がらないように暖め続ける。
「白虎!?人間なんてどこで拾ってきた!」
「緊急事態だ!今は我慢してくれ!」
説明の時間も惜しいとばかりに白亜に近づく。そこで、背に乗っていた生徒達を地面に下ろす。目を瞑っていたようで、ここはどこだとキョロキョロと周囲を見回す。
「あっちだ。頼む」
何故か獣達に囲まれながら進んでいく。後で判ることなのだが、これはいつ変な動きをしても直ぐに仕留められるようにフォーメーションが組まれていただけだ。
歩いていくと朱雀が蹲っている。羽の間に何かが挟まっているのが見える。白虎が頷くと、羽をゆっくりと動かした。
「……え?」
てっきり獣が出てくると思い込んでいたのか、人のシルエットが見えたときに誰かが声をあげた。完全に羽がどかされたとき、そこにいたのは、泥で汚れた灰色の髪をもつ、ボロボロの原型が判らない布切れを纏った死にかけの人が現れた。
「す、直ぐに回復します!」
一人が我に返り、回復を開始する。光に包まれると同時に、下がりきっていた体温が暖まり始める。
「く……ゴメン、もう限界……」
体温が回復しただけでまた直ぐにこの状態になってしまうだろう。
「どうすれば……」
「そうだ!俺達の拠点なら何人か回復使える人居ます!そこにいけば!」
「良いのか!案内してくれ!」
再び背に放り込む白虎。神獣達も移動を開始する。連携を組んでいないところを見ると少しは気を許したのだろうか。
神獣達の大移動は、遠くからでもよく判った。故に、待機組が大騒ぎになった。先生まで混じって。
「優奈!雅樹!この人を回復してくれ!」
「え?う、うん!判った!」
「ちょっと待ってろ!今すぐ行く!」
二人がかりで白亜の回復が始まる。優奈の能力は局所回復、雅樹の能力は全体回復。優奈は怪我の場所を集中的に、雅樹は全体の回復に勤める。
二人が魔力切れで倒れる頃には白亜はほぼ完治していた。
「ご免なさい、寝るね……」
三人寝転がっている。雑魚寝状態だ。白亜は朱雀の羽毛に包まれて眠っていたが、他二人は放置である。翌日寝ちがえたらしい。
「ん……」
「若旦那!」
白亜が目を覚ますと白虎の顔が目の前にあった。
「ここは……」
「すまない、若旦那。俺達じゃ怪我を治しきれなくて人間に頼った」
「そうか、ありがとう」
「ありがとう?俺達は若旦那の命令に逆らうような事をしたんだぞ?」
「俺からしたら死ぬ方が嫌だし。寧ろそうしてくれて俺は助かったんだろ?なら良いじゃないか?」
軽い調子で話す白亜。目は死んでいるが、調子が悪そうな様子はない。
「皆無事なら、それでいい」
「あ、起きてる!」
白亜が声の方に目を向けると、ひっ!と声をあげて女子生徒が固まる。
「え、俺なんかしたか……?」
「若旦那の目じゃないか?」
「それって目付き?目の色?」
「どっちもじゃないかな……?」
「いや、それ変えられるのか……?」
本気で考え始める白亜。
「ご、ご免なさい。つい」
「今気づいたけどその言葉……日本?」
「日本を知ってるんですか!?」
「知ってる」
白亜は驚かせないように目をなるべく逸らして話をする。
「若旦那。ちょっといいか?」
「どうした?」
「その、凄く言いにくいんだが」
「?」
「若旦那。自分の背中を見てみてくれ」
言われた通りに首を動かす白亜。ピシッと音がしたと思うくらいの動きで白亜が固まった。背にあるものを、引っ張ったり動かしてみたり、夢ではないのかと、何度も瞬きをする。
「それと、耳と頭……」
触った。ん?という顔をしてから表情が完全に固まる。
「どうなってるんだこれ……?」
白亜の背からは白銀の羽根が二対計四枚あり、耳の上にはアモン角と呼ばれる羊のような光沢のある角があり、耳は長く尖っている。今気づいた白亜も白亜だが、肌の色まで褐色になっている。
「なにこれ……?」
滅多に驚くことのない白亜がこの世界に来てから一番驚いたことだった。因みに、そちらのインパクトが大きすぎて白亜もその後少しは気が付かなかったのだが、背丈も伸びて170センチ程になっていた。




