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「異世界ってなんなんだ?」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「頑張れ若旦那!ここで捕まったら元も子もないぞ!」

「わ、かってる!」


 何とか白虎にしがみつきながら白亜が焦った顔をする。


「くっそ!未だ追ってきやがる!」


 魔族や、使役されている魔物。それが白亜と白虎を追い続けている。白亜の握力はレイゴット戦から全く休めていないこともあり、限界だった。


 手は葉などで切り、血がポタポタと流れ出て、顔は泥でまみれている。衣服も同様にボロボロの状態であり、これまでの道程の険しさを物語っている。


「不味い!湖だ!」


 迂回出来るほど広くない大きな湖が目の前まで来ていた。


「若旦那!空を飛んだ方がいい!」

「ああ、助かった!」


 白亜は地面に血を一滴落とす。するとそこから魔方陣が現れる。


 リンドブルム、翼の大きな飛ぶことに特化したドラゴンが現れる。


「若様。お話はダイ殿から伺っております。さぁ!」

「頼む!」


 あり得ないほどの速度で飛び始めるリンドブルム。リンドブルムは稲妻と同程度以上の速度で飛行可能なドラゴンだ。しかし、燃費が悪く長時間飛べない。


「はぁ、はぁ」

「若様。体温が……?」


 魔法でも使っているのではないかと思えるほど異常に体温が急上昇し始める。リンドブルムはかなりの速度なので今は魔族を引き離しているが、バテるのが早いので正直逃げ切れるか不安だ。


 そんなことを考えながら白亜は目を閉じた。リンドブルムは落ちないように、尻尾でシートベルトをした。







「若様!若様!」


 とある国の森のなか。どこまで飛んだんだという話である。リンドブルムは取り合えず疲れるまで飛んだのでここがどこなのか本人も判っていない。


 最も危険なのは、白亜が限界だった。腹部を刺され、応急処置でなんとか終わらせ、その後休めずに森のなかを白虎の背で耐え続けた。


 その結果、酷い高熱と激しい痛みに気絶してしまった。他にも色々ある。


 傷が、少し開いた。


 リンドブルムはこれに大慌て。回復魔法を使えない自分を恨んだ。


「若旦那!」


 流れ出た白亜の血から逆召喚で白虎が出てきた。リンドブルムは一旦帰った。


「若旦那が限界か……仕方無い」


 白虎は白亜の血を使い、何匹かの召喚獣を呼び出した。


「白虎さん!これはどう言うことですか!?」

「話は後だ!取り合えず若旦那の怪我を!」

「はい。回復魔法を」


 なんとか傷は塞がったが、高熱は下がらない。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「ど、どうすれば?」

「に、肉だ!肉食えば!」

「何言ってるんだよ!怪我人にそんなもん食えるか!」

「そんなこと言ったって―――」


 白亜の召喚獣は伝説レベルの幻獣ばかりだ。その幻獣が言い争っているのは中々カオスな状況だ。


「取り合えずなんとか調達だ!何でもいい!毒とかは絶対にやめろよ!」


 白虎のその言葉で看病役の朱雀を残して全員走っていった。


「………どうやって捌くんだ?」


 何匹かは山菜等を持ってきたのだが、大半が肉だった。牛のような動物から鯨まで。それはいいのだが、誰一人捌き方が判らない。


「俺達そのまま食べれるもんな……」

「捌き方知ってても道具がない……」


 結局適当に切り分けて焼いた。白亜はなんとか口を動かして食べたものの、噛みきる力がない為お粥のような物になった。


 ご飯はなんとか懐中時計から出した。それだけの魔力で枯渇寸前だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ここで――――」


 いつも通りの授業が行われていた教室。


 何人かの生徒がうたた寝をし、大半の生徒が眠気を必死で堪えていた。そんな授業風景。


 黒板にチョークが当たる音が響く教室に、眠たくなる先生の声が重なって聞こえる。


「え?」


 誰が言ったのか判らない。一人なのか、もしかしたら全員なのかもしれない。


 急に外が真っ暗になる。


「皆既日食?」

「そんなわけないじゃん。来年だってテレビで言ってたよ」

「え?どうなってんの?」


 授業中だが、この事を話さずにはいられない。教室の生徒がざわつく。


 生徒を叱ろうと先生が声をあげようとしたその瞬間、周囲が一気に真っ暗になった。電気も太陽の光も見えない。不気味すぎる暗さに誰もが焦りを覚えた。







「あれ……?」


 男子生徒が一人、体を起こした。


「ひぃ!」


 断崖絶壁だった。一歩間違えれば転落していただろう。


「皆!大丈夫だよな?」


 近くの生徒を起こして回る。


「え?どうなってんの?」

「なんなのよ?」

「え、こわいこわい」


 泣き出す生徒も現れ始める。


「なんだこれ?」


 最初に起きた男子生徒が一冊の本を見つけた。


「異世界転移者名簿……?」


 馬鹿げた題名だ、と思いつつ、ページを開けてみる。すると、自分のクラス、東山高校3年6組の生徒、それとあのとき教室で授業をしていた理科の先生の名前と写真、意味が判らない項目もいくつかあった。


(たかし)。どうしたんだ?」

(れん)か。これなんだと思う?」

「異世界転移者名簿……?」

「異世界ってなんなんだ?」

「え、知らないのか?」

「意味が判らないんだけど」

「ああー。お前そういうの興味ないもんな……」


 連が名簿を覗き込むようにみる。


「俺は……お。水魔法?」

「何言ってるんだお前」


 呆れた顔で連を見た隆だが、その顔は直後急変した。


「なんだ……それ」


 連の手の上に拳台の水球が浮かんでいる。隆はそれに触れた。


「?????」

「スッゲー!まさか本当に出来るとは思ってなかった!」


 連が半分泣きながら感動している。


「なん……え?どうなって?あれ?」

「難しいことは考えなくていいみたいだぞ!皆のところにこれ持っていこうぜ!」


 困惑している隆を他所に名簿を持って走っていく連。意味が判らないと思いつつもほぼ無意識で連を追いかける隆。ある意味、お似合いの二人である。







「で、お前は?」

「火魔法だ!見ろよ!こんなことも出来る!」


 予想外の出来事に困惑するもの、異世界に来れたと若干テンションがおかしいもの、なんとか帰れないか考えるもの。各々が反応するなかで、テンションがおかしい男子生徒達が名簿に載っている【特殊能力】というものを理解し、使い始めるものが出てきた。


「こんなときに何遊んでるのよ!」

「遊んでねぇよ!立派な勉強だ」


 帰りたい女子生徒VSテンションがおかしい男子生徒戦が行われるところだったが、何とか中立派が宥め、回避。この状態はいつまで続くのか判らない。


 取り合えず皆で協力して帰る方法を探す、という話になった。


「先ずは時間で帰れるかもしれないから、暫くここにいよう」


 となり、各々が自分の能力を確かめ始めた。食事は、全員が持ってきていた弁当で何とかもたせることにした。とはいえ、こんなもの直ぐに尽きる上、悪くなるのでもって明日の朝だろう。


 不安を感じながら、各々が眠りについた。






「帰れなかったね」

「………これからどうする?」


 全員で話し合った結果、帰る方法を見付けるのが第一目標となった。ここまで異世界転移という非科学的なものをあっさり信じたのは幾つか理由がある。


 一つ目は、名簿にそう書いてあったから。異世界転移ということを直ぐに信じたものはそれも直ぐに信じた。要は、チョロい。


 二つ目は、何となくではあるが今すぐは帰れないと全員直感したからである。これは、後にどう言うことか判る事だが、今は置いておこう。


 三つ目は、魔物が居たからである。火に覆われたネズミが現れたのだ。連が消火したら死んだが、ここが異世界であると無理矢理判らせるにはもってこいの状況とタイミングだった。

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