『挑んだのが間違いでしょうけど、勝率は限りなくゼロに近いです』
今回はキリの良いところできっているのでちょっと短いです。
「待ってくれ!」
人垣から竜人族の勇者が出てくる。
「なんですか?」
「僕も乗せてくれ!」
「やだね。俺の背中は若旦那専用なんだよ」
グルルゥ、と唸りながらリュウホウに向かって話す白虎。
「若旦那。いこうぜ」
「いや、乗せていこう」
「ええ!良いのかよ!」
「何かしようとしたら突き落とす。これでいいなら乗れ」
「ありがとう!」
白亜の後ろに乗るリュウホウ。
「行くぜ!しっかり掴まれ!」
グッと毛を掴んだのを確認してからまるで風のように走り抜けていく白虎。
周囲が茫然とそれを見守るなか、ジュード達は早々に我を取り戻し、白亜の向かった戦場へ走っていった。
「アハハハ!まさか多重召喚まで使えるとはね!やっぱり君は僕のコレクションに相応しいよ!」
「若旦那!こいつ滅茶苦茶強いぞ!?」
「判ってる。白虎はこのまま周囲の迎撃に入ってくれ」
「………判った。死ぬなよ!」
白虎は白亜とリュウホウをおろし、風のように駆けていった。
「ま、魔王!お前は僕が……!」
「やっぱり勇者は面白くないなぁー。よし!カイザ君!遊んであげて」
「はい!」
リュウホウはカイザを無視して通りすぎようとしたが、カイザがそれを許さない。
「くっ!」
「ハハ!さぁ、こい!勇者リュウホウ!」
掴んで後方にぶん投げるカイザに抵抗しきれずにリュウホウが空を舞う。白亜はそれをみて、
「まぁ、なんとかなるか」
と呟いた。楽観的すぎる。
「これで舞台は整った。さぁ、遊ぼう?あ、そう言えば名乗ってなかったね?僕はレイゴット。魔王やってるんだ」
「………白亜。ランク17冒険者だ」
「その強さで17!?冒険者ギルドは目が節穴なんだねー」
白亜から金色の光が放出される。それだけで、魔物が全く近付けなくなるくらいに。右手に気力をため、身体強化を使い、体を一気に成長させる。
「おー!やっぱりね。あのとき覚醒したんだ?」
「どうでもいいだろ。始めるぞ」
「アハハハ!いいよ!遊ぼう!」
爆発音が、白亜の居たところから鳴り響く。
「はぁ、はぁ」
「ふぅ。中々良いね。でもここじゃあ本気が出せないんでしょ?降参しない?」
「しない。死んでもしない」
水がポタポタと飛び散る村雨を正面に構えて体勢を整える。
『………!―――!マ――ター!マスター!』
『シアン!』
『申し訳ありません。あの空間に飛ばされたとき、感覚系統が麻痺していまして、それを治すのに時間がかかりました』
『問題ない。こいつはどうすればいい!』
シアンと念話を開始した白亜。
『挑んだのが間違いでしょうけど、勝率は限りなくゼロに近いです』
『構わない。それで、どうやって?』
『魔法の類いが使えないので気力で何とかしたいところですが、身体強化に回しているので無理、剣術と聖闘術のみでの対戦になりますね』
『どうなる?』
『仕方ありません。聖闘術を大々的に使いましょう』
白亜は腰の鞘に村雨をしまい、拳をコツン、とあわせた。金色の光が両腕を包み込み、格好いいことになっている。
「さぁ、始めよう。第二ラウンドだ」
金色の光がレイゴットを襲い、大きく飛び退くレイゴット。
「聖闘術……!」
「たぁ!」
再び拳で狙い、それが地面に当たってクレーターができる。
レイゴットは左足で白亜を凪ぎ払うように蹴るが、それに会わせて大きく両腕を動かした白亜の攻撃をただ避けるだけになっている。
それもその筈。聖闘術は触れたらゲームオーバーなのだ。かするだけでもダメージが増えていく。
一方的に白亜が攻め、レイゴットが避け続ける。
どれ程の時間が経っただろうか。白亜からしてみれば数分にも数十分にも感じ、レイゴットからしてみても数十分にも数秒にも感じる。
白亜は攻撃を当てることだけに集中し、レイゴットも避けることのみに集中した。
そこに近付く影には、魔王だろうが白亜だろうが気が付かなかった。普段の二人なら十分気付けた。今の時間に互いを最大の敵と見定め、戦いのみに精神を費やした。
勇者リュウホウ。その力は『隠密』。今までのどの勇者よりも地味で、ぱっとしない内容のものだったが、魔物に気付かれることなく背後をとれる利点は大きい。
魔王も白亜も、規格外の力を有している。今回は運が良かった。だが、それはリュウホウの場合。白亜としては、厄日。
「ゥグ……!」
「グハッ……!」
白亜の後ろから深々と聖剣の柄が飛び出ていた。それは白亜を貫通し、レイゴットにも深々と刺さっている。
異様に長い刀身、それについた大量の白亜とレイゴットの血。
戦場から一瞬で音がなくなったように、白亜には聞こえた。
「カハッ―――!」
ゆっくりと倒れ込む両者。白亜の方が明らかに重傷だが、レイゴットもかなりのレベルで重傷だ。白亜は残り少ない魔力を地面に流し、蔓を地面から出して引き抜く。
「グッ―――うっ―――!」
長すぎる刀身を引き抜くだけで事態はなにも変わらない。寧ろ痛いだけと白亜は判ってはいたが、今のところこれを何とかしないと、と焦っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ―――ぅぐっ」
大きな穴を手で押さえるも、全く意味がない。最初に動いたのはリンだった。
「ハクア君!?どうしたの!?しっかりして!」
血だまりを発見し、直ぐ様回復をする。穴は塞がったが血が戻るわけではない。白亜の呼吸が弱く、ゆっくりになっていく。
「そんな!ハクア君!」
「師匠!」
魔族を一人何とか倒したジュードが白亜に駆け寄る。白亜はジュードに意識がほとんど無いような目を向け、手を伸ばす。
「師匠!しっかりして下さい!」
ジュードが白亜に接近したところで、白亜が体を無理矢理起こしてジュードにキスをした。
「え……?」
「お、前なら、きっと………」
そう、掠れた声で呟き、笑顔を見せた。心からの笑顔のようだった。
「若旦那!良いんだな!?」
突然目の前に現れた白虎のその言葉にほんの少し頷く白亜。すると、白虎の尻尾が白亜を掴むように持ち上げて背にのせた。
「ハクア君をどこに―――!」
「ありがとう」
背に乗せられた白亜はそのまま目を閉じる。白虎が白亜を尻尾で落ちないように固定しながら風のように駆けていった。
白虎が見えなくなった時には、ダイ含め、白亜の召喚獣が全員、居なくなっていた。
後に残されたのは、ジュード、リン、キキョウ達の精霊組と、白亜の配下に殺られた魔族の死体、そして勇者、消えた白亜とレイゴットの血だった。




