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「ダイ。お前あとでシバく」

「ハクア君!」

「リン。大丈夫?」

「ハクア君が庇ってくれたから。そんなことより早く手当てしよう」


 魔法が使えないときのために応急処置用として白亜が持ち歩いている救急箱を懐中時計から取りだし、頬を消毒しながら手当てをするリン。


「そういえば、シアンさんは?」

「……判らん。反応もない。それと、創造者(クリエイター)まで使えないんだ」


 どうやら魔力を使う類いの物は一切使用できないようだ。懐中時計の場合、魔力を溜めておいて無くなったら追加するという充電式なので今のところ使えるようだ。


「この人たちどうするの……?」

「取り合えず放置しよう。……多分魔王は今の一悶着は見てるだろうし」





 進んでいく白亜とリン。白亜の足が再び止まる。


「師匠?」

「ジュードか?」


 反対側から歩いて来たのはジュードだった。


「よかった。他の皆は知らないか?」

「はい。僕一人でしたね。戦闘音が聞こえたので来てみたんです。勘が当たってくれて助かりました」


 ジュードも加わり、精霊組とダイを探す。しかし、見つからず、地上に出られる道を見付けてしまった。


「どうしましょうか?」

「見つからなかったし、出よう。キキョウ達なら見付けたら多分出てると思うし」


 そういう話になり、外に出た白亜達は絶句した。何もない草原が続いていた。沢山の人が各々の無事を確認して喜んでいる。まるで災害後の避難場所での再会みたいだ、と他人事の用に考える白亜。テレビでしか見たことはないが。


「なにこれ?どこ?」

「ハクア様!」

「キキョウ!」


 キキョウ達も加わり、これで光の翼が全員揃った。キキョウ達は白亜がリンに抱き付いたとき、同じ行動をとっていたらしく、全員同じところにいたらしい。


「ところでここって何だったの?」

「簡単に言えば転移だよ」

「そんなことできるの!?」

「正確には違うけどね。迷宮のようなものを作って無理矢理その中に人を取り込むんだ。……今でも伝わってはいる古代魔法だよ」


 古代魔法には完全に廃れた重力や転移と、1度廃れたが受け継いだものがいる物に別れる。受け継がれたほうの古代魔法なのだ。


「迷宮創造。莫大な魔力と手間のわりに出来ることが少ないっていうので人気がなくなって廃れた筈だったんだけど、受け継がれててもおかしくはないね」


 要は、使いようなのだ。




「はーい、みんなー!魔王でーす!」


 良く通る、どこか人を小馬鹿にしたような声が響き渡る。


「魔王……!」

「妾達が洞窟であったやつよの」

「某、思い出すと苛々してくるぞ!」


 各々が反応していると、再び魔王が話し出す。


「えーっと、そうだ。僕は魔大陸からそちらに行くことを決めましたー。あ、侵攻するって意味で」


 周囲がざわつく。


「それでねー、今から暴れまーす。ただし、ひとつ提案があります。銀髪の子供を僕に引き渡したら侵攻も止めるし、暴れるのもやめまーす。ねぇ、どう?」


 白亜以外の人が全員白亜に注目する。銀髪は異世界でも珍しく、ここにいる中でそんな色の髪を持つ人は大人をあわせても白亜しか居ない。


「おい、こいつをつきだせば……」

「気絶させればなんとかいけるんじゃないか……?」


 小声で周囲が白亜を見ながら話し始める。


「………っ!」


 白亜は周囲を全て敵に回してしまったようなものだ。傷付いた頬に力が入り、再び血が流れた。


「ハクア君。私はハクア君の味方だよ」

「リン……」

「師匠を信頼しない弟子なんていませんよ」

「私はハクア様と一蓮托生。何処までも付いていきます」

「クアハハハ!某も燃えてきたぞ!」

「妾も以前殴られた鬱憤を晴らさぬと気が済まぬわ」

「チコはジュードに従うよ!」


 白亜を庇うようにジュード達が前に立つ。


「いいねー。友情!でも、それじゃあ僕には敵わないよ?天地がひっくり返っても」

「算段がない訳じゃない」


 白亜が意思の籠った目で魔王を睨む。


「俺だってやられっぱなしな筈がない。精一杯足掻いてやるよ。ド変態野郎」

「魔王様に失礼だ」


 魔王の横に立ったのは、以前ジュードを誘拐しようとしたカイザだった。


「カイザさん……!」

「ハクア。あのとき何故あんな早くにジュードを誘拐したのかわかるか?仮面の魔法使いがお前かどうかはっきり確かめるためだよ!まんまと引っ掛かりやがって!」

「……それがなにか?」

「は?」

「それぐらい判ってました。特にこちらは調べなかったので魔王と繋がってたとは気づかなかったけど」


 白亜は手をポキポキと鳴らし、首を回す。全身の関節を動かして解していく。白亜が本気で怒ったときの癖だ。


「あんたなんか驚異でもないと判断したから」

「な!?」


 白亜の殺気が膨れ上がる。可視化(・・・)出来るほどに。

 金色の光が白亜から放たれる。以前シャルルのアンデット化を治したときに使った光だ。


「あれは……!」

「聖の光……!」


 唯一魔族に対抗できる武器は聖武器。白亜の村雨も実は聖武器に分類される。しかし、それ以外の方法もある。


 それが、聖者と呼ばれる人の力だ。これを体に纏うことが出きる人は本当に選ばれたもののみだと言われている。歴史上でも数人しか確認されていない。


「師匠、それ……!」

「これなら対抗できるんだろ?でも、数が足りないな……」


 むこうには魔族の軍団、此方は人間や獣人は揃ってはいるが、ほとんど敵の状態だ。あてにならない。


「仕方無い……この際バレようがどうでもいいか……」

「まさか、あれを使うのか?」

「だとしたらなんだ?」

「某、一旦帰るぞ!」

「何でだよ!?」

「そっちの方が美味しいところ持っていけそうだ!」


 ダイは光に包まれて帰っていった。


「後でシバく……!」


 白亜は腰の村雨を抜き、軽く人差し指を斬る。血が村雨を伝って地面に落ちた。するとそこに巨大な魔方陣が出現する。


「第一、東」


 魔方陣の反対側に血をもう一滴。


「第二、西」


 正面に一滴。


「第三、北」


 後ろに村雨を回し、また一滴。


「第四、南」


 白亜の周辺が巨大な魔方陣で光輝いている。


「第五、中央」


「多重召喚、四神!」


 叫んだ瞬間、光が一層強くなり、魔方陣から普通の虎の4倍はありそうな大きさの白い虎、オレンジ色に輝く鳥、そして緑色に近い青色の鱗を持つ龍と人を頭に乗せられそうな位大きい蛇と亀が合体したような魔物、黄金色に輝く鱗の龍。


 白虎、朱雀、青龍、玄武。中国の四神と呼ばれる神獣とそれをまとめる黄龍(ダイ)だった。


「おう、若旦那!」


 軽い口調で白虎が白亜に話し掛け、白亜の近くに寄り添うように立つ。


「久し振り」

「え?久し振りか?」

「白虎。私達とは時間の感じ方が違うのです。三年とは人間にとっては長いのですよ」

「そっか?じゃあ、久し振り!」


 軽い。周囲は全員そう思った。


「師匠?もしかして多重召喚?」

「ん。遺跡で見付けたのが多重召喚法だったんだ」


 コロシアム地下で見付けた魔法。それがこれだったのだ。


「若。今回はあちらの魔族を仕留めれば宜しいので?」

「そんなとこ。あのヤバそうなのは俺が抑える。周りを頼むぞ」

「了解いたしました」


 青龍は白亜の指示に従い、取り合えず向こうの様子を探る。


「主人。コイツら敵意ある。仕留めた方が、後の身のため」

「なるべくそれはなしだ、玄武。今は取り合えずあっちだ。攻撃してきたら応戦して良いが、放っておいても良いだろう」

「了」


 短く答え、魔族に向かう。


「クアハハハ!面白くなっておるではないか!」

「ダイ。お前あとでシバく」

「なぁ!?」


 金色に輝く龍を見て溜め息をつく白亜。


「全く……」

「そうだぜ、若旦那!黄龍なんかより白虎の俺はどうだ?契約しないか?」

「今のところは仮契約のつもりだよ。そうだな……じゃあ」


「今回ので、一番功績をあげた奴に、名前をやろう(・・・・・・)

「「「…………!」」」


 ダイ以外の召喚獣、つまり四神が固まった。


「全員邪魔。主人と、契約」

「いいえ!私がやります!貴方達は下がっていなさい!」

「若旦那の契約権は俺が貰う!」

「ここは力の見せ所です。若との本契約は何としてでも勝ち取ります」


 全員が我先にと白亜の前に出る。


「白虎。俺をアイツのところまで」

「判ったぜ若旦那!これもポイント加算してくれよ!」


 スッと巨大な虎に跨がる白亜。絵になる光景ではあるが、周囲がアホ面しているのであまり幻想的にはならない。


「ダイはここでリン達を頼む」

「某も戦いたいのだが」

「だからお前引っ込む必要無かったんだって……」

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