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「決めたよ!ハクア・テル・リドアル・ノヴァ。どうだ!」

「ハクア様。全ての神殿の視界をリンクしました」

「ありがとう。神託始まるまでは休んでて良いよ」


 そういう白亜の手は忙しなく空中で動いている。端から見たらなにやってるんだ状態だが、これをすることで大分視界のリンクの性能が上がる。


 要は、魔力の糸を水から水へ繋げてより魔力を流しやすくしているのだ。魔力の流れるパイプを広げる行為だと思ってくれて良いだろう。


「それにしても水があれば向こう側の様子がわかるって便利だよな。俺の魔眼じゃ音声とか聞こえないし」

「その分魔力消費が少ないじゃないですか」

「まぁ、そうだけど」


 白亜は話しながら手を動かし続ける。因みにジュードやリン、ダイ達はキキョウの能力が上手く伝わらなかったときのために別の神殿で待機中だ。


「神託ってチカオラートがするのか?」

「ここでは一応呼び捨ては止めてください……まぁ、そういうことです。チカオラート様が信じた人間にしか神託しないんですよ」

「へー。じゃあ神託が下りる人も神託が下りる場所も決まってるわけね」

「そうです」


 白亜はこの手の情報には全く興味がない。少しでも興味を持てば調べる速度は人間を軽く越えるので興味さえ持てば良いのだが。


 軽く越えると言うのは、古代魔法の1つを使うからだ。かなり汎用性があり情報収集に最適。ただ、色々と面倒な魔法なので白亜は滅多に使わない。


 白亜が懐中時計を取り出して蓋を開ける。そしてツマミをくるくる回して何かを弄る。


「雲行きが怪しいな……」

「またそれ使ったんですか?あんまり精度は良くないって聞きましたけど」

「占いだよ。占い。それにしちゃよく当たるけどな」


 パチン、と懐中時計を閉める。


「何事もなきゃ良いけど……」





 白亜が懐中時計を確認する。


「キキョウ。時間だ。準備はできてるか?」

「問題なく。いつでも行けますよ」


 白亜が神殿の中へ進むと、中でも着々と準備が進んでいた。真っ白な薄目の服を着た女性が真ん中に座っている。


「あの人?」

「はい。神託を受ける巫女様ですね」


 白亜の巫女の第一印象、寒そう。だった。半袖で居るのも辛い時期にあんな格好寒そう。そう考えた。それで良いのか。


 因みに時期的には秋の中盤である。もうすぐ10月。日本と違って猛暑になる日など殆どなく、寧ろ冬が長い感じがする。


「俺達も配置につこうか」


『気になりますか?』

『いや、別に』

『そうですか。ではこちらも準備を始めましょう。思考リンクさせますので』

『え?なんで?』

『私が映像化して向こう側の様子を見せた方がいいでしょうし』


 え、これそんな大事なの?と今さら気付く白亜。


『チカオラート様は気まぐれな方なので神託は殆ど下りないんです』

『成る程ね。好きにやってくれて良い』

『それでは思考リンクさせます』


 白亜の中にいつもシアンは居るが、白亜は考え垂れ流しな訳ではない。深く思考したりシアンに話しかけたりしていないときにはシアンは実際なにも聞こえていない。


 思考リンクはその名の通り、完全に一体化させてしまう。考え垂れ流し状態になるのだ。白亜もシアンも。


 すると、神殿の声が止んだ。白亜はキキョウに目で合図を送り、中の様子を覗く。


 神託を受ける巫女が祭壇のようなものに剣のようなものを捧げて祈っている。周囲の人たちも皆だ。


 暗い月明かりのみの神殿。白亜には暗視があるのではっきり見えているが、他の人はそこまで見えていないだろう。


「チカオラート様。貴方のお声をお聞かせください」


 巫女がそう呟くように言うとその剣のような物が月光を眩しいくらいに反射する。


『なにこれ。あの剣も光ってるの?』

『厳密に言うと光を一点に集中させ反射させているのです』


 簡単に言えば虫眼鏡で太陽の光を集めて黒い紙を焦がすあれだ。小学校の実験でやったことがあるだろう。


『へー。あれやるとチカオラートになんか届くの?』

『さぁ?私は存じません』

『シアンも知らないんだ』


 シアンが基本的に答えられない質問はない。その事があることに驚きだ。まぁ、チカオラートの神託がどうのこうのなんて白亜も興味が沸かないので放置するようだ。


『スッゴい光りようだな。月明かりだけであんなに光る?』

『そう言われてみたら確かに異常ですね』


 周りの祈りを捧げている人や、巫女までも戸惑っている。中々神託が下りない上に、光り方が尋常ではない。


「キキョウ。他のところは?」

「全て始まっています。ここだけ何故か遅いようです」

「どうなってる?」


『シアン。今気づいたんだけどさ』

『なんでしょう?』

『やけに眩しいのって光がこっち向いてるからってのも入ってる?』

『そう言えばこっちに向いていますね』


 剣の刃が白亜を向いて反射している。だから眩しい。いや、普通に眩しいのが余計にそう感じさせている。


「……え?」


 そう言った瞬間、白亜が崩れ落ちるように倒れた。祭壇の上の巫女も、同じタイミングで。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





「ーーーは!」


 どこか見覚えのある所に白亜は居た。ここは、


「転生する前に来たところか……?俺死んだのか?」

『生きてます』

「あ、シアン。リンクさせっぱなしだったな」


 白亜はそう言って違和感に気付く。


「ん?」


 右手をまじまじと見る。


「んん?」


 立ち上がる。


「戻ってる……?」


 白亜の身長がかなり伸びていた。いや、前世と同じになっていた。死んだ直後の前世の白亜に。


「……どうなってるんだ?」


 白亜は困惑する。尤も困惑しているようには到底言えない目付きだが。


「久し振りだね」

「チカオラート……これはなんだ?」

「君、夢で呼んでも話してくれないんだもん。だからこう言うときに呼び出しちゃおうって思ってさ!」

「あっそ……」


 もう突っ込む気にもなれない白亜。


「神託は良いのかよ?」

「え?ああ!問題ないよ!神託ってボイレコの音声流してるだけみたいなものだし!」


 実にありがたみのない神託だ。


「俺をここに呼んだ理由は?」

「君さ、折角覚えたあれ(・・)、使わないのー?」

「いつか使うかも知れないけど今は無理」

「なんでさ?」

「目立つだろ」

「もう十分手遅れだけどねー」


 間違ってはいないが。


「使えるもんは使った方がお得だよ?」

「その内、な」

「ふーん。あ、そうだ!ねぇねぇ、獣神に名前決めしてもらったんでしょ?」

「なんで知ってるんだよ」

「神様ですから!」


 甲冑をカチャン、と言わせて胸を張るチカオラート。


「ストーカーは犯罪だぞ」

「神様だから良いんですぅー。あ、なんて名前にしてもらったの?」

「それは知らないんだ……ハクア・テル・ノヴァ」

「ふむふむ。なるほどなるほどぉ」


 何がわかったのか。


「よし!僕の名前もあげる!」

「いらん!」

「酷い!いいじゃん。僕も家族欲しいよぉ」

「家庭を築け」

「な、なんか良いこと言った」


 どの辺りが?と気になるところだ。


「僕一応君の保護者だよ?」

「知らん。ここまで放置する保護者なんて知らん」

「えー。良いじゃーん」

「馴れ馴れしい!」

「酷い!」


 白亜はほんの少しチカオラートから距離をとった。


「決めたよ!ハクア・テル・リドアル・ノヴァ。どうだ!」

「長いわ!」

「僕の本名はチカオラート・リドアルだよ!」

「知るか」

「さっきから君の僕に対する当たり酷くない?」


 ハクア・テル・リドアル・ノヴァ。長い。王族よりも長い。


「ま、君の名前決まり!えい!」

「は?」


 一瞬視界が真っ白になり、すぐに戻る。


「なんだ今の……」

「ふふふ。名前を変更する魔法なのだ!」

「どんな魔法だよ……」


 結局本当に名前が決まってしまった。


「それで本題だけどさ」

「前置きが長すぎる」

「ごめんごめん。でね。君が戦った魔王についてなんだけど」

「え?魔王?」

「え?」


 固まる二人。


『以前洞窟で戦った魔族です』

『あ、あれ魔王だったの?道理で強いわけだな』


「う、うん。戦ったな」

「今博識者と話してたでしょ……まぁ、そうだよ」

「で、魔王が?」

「君を欲しがってる」

「それは知ってる」

「何でか知ってる?」

「知らん」


 チカオラートは大袈裟に溜め息をつく。


「魔王はコレクションが趣味でね。何でも欲しいものは根こそぎ奪っていく事で有名なんだ」

「そんなこと言ってた気がするな」

「ちゃんと思い出してよ……兎に角、君はあまりに周囲から浮きすぎちゃって狙われてるんだ」

「ああ」

「ああって……まぁ、兎に角僕としては君がとられるのをまざまざと見逃すわけにはいかないんだよ!」


 ポーズを決めてチカオラートが言う。それを見ているのは白亜なので残念ながら空気は読めない。なにやってるんだこいつ位にしか考えていない。


「と言うわけで君に神託(ギフト)を授けようじゃないか!」

「ああ、うん。はい」

「本当に嬉しいと思ってる?」

「思ってる思ってる。……多分ね」

「絶対嘘だ……」


 チカオラートに対する扱いが雑すぎる。


「いいや。じゃああげるね。あ、序でに本当の神託ね」

「ついでって……そっちメインだろ普通」

「いいの。【勇者が現れた。その者の名はリュウホウ。魔を滅する力を秘めし者である】だよ」

「俺じゃなくてよかった」

「本当は君なんだけどね」


 白亜なら全力で拒否するだろう。ナイス判断だ。


「それじゃあ君に力を。力を抜いて。目覚めよ、そなたに眠る覚悟の力ーーーー」






ーーーーーーーーーーーーーーーー







「ーーーは!」


 現実だ。身体も此方のままだ。


「ハクア様!大丈夫ですか!」

「あ、ああ。問題ない。どうなってた?」

「ハクア様と巫女様が突然倒れられたので儀式は一時中断されました」

「そっか」


 巫女ってあそこに居なかったよな?そんなことを考えながらボーッとする白亜。


「おお!巫女様のお目覚めだぞ!」

「巫女様!」

「巫女様!」


 巫女様と連呼し続ける。


「あなた、何者なんですか?」

「え?俺?」

「チカオラート様と対等に話していましたよね?」

「なんのことです?」


 白亜はかなりとぼけるのが上手い。表情にバリエーションが無いのも理由の1つだろう。


「と、とぼけないで!変な部屋でチカオラート様とお話ししていたでしょう?」

「?」


 本当に上手い。ほぼ真顔だが。


「神託は!巫女様、チカオラート様の神託は?」

「はい。チカオラート様は、【勇者が現れた。その者の名はリュウホウ。魔を滅す力を秘めし者である】と」

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