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「普通もっと説明があっても良いんじゃないの?」

 家で大人しくしていたら兄が怖い人達を連れて帰ってきた。しかも今すぐ用意して出ろと言う。何かの取り立てにあっているのではないかと心配してもおかしくない状況である。


 そんな中でも混乱しつつサッと荷造りを終えたテオドールの妹は、やたらと適応力が高かった。


「普通もっと説明があっても良いんじゃないの?」

「ごめん」


 待ち合わせ場所に向かう馬車に押し込められてからようやく話すタイミングができたので、ざっくりとテオドールが妹に状況説明をした。


 とはいえテオドール自身もよくわかっていないので、本当にざっくりとだが。


「それで、急に帰れるようになったって……それ本当なの? この人達信じて大丈夫?」

「た、多分……。今のところは、大丈夫そう」


 少し離れた場所で座っているダイに聞こえないよう小声で話しているつもりらしいのだが、人間よりも聴力に優れているためちゃんと聞こえている。


 白亜を呼んだのはこちらなので、いつもながらの突然の行動に文句は言えない。


 周囲からすれば突拍子もない行動を起こしているように見えるのだが、白亜の場合考える速度が早すぎて周りがついていけていない事が多いためでもある。


 判断が早すぎるが故に考えずに行動しているように思われがちなのだ。


 そのことをダイ達は理解しているので、白亜には『自分たち以外と仕事をするときは、ちょっとゆっくり動いて』と指示することがあるくらいだ。


 白亜も頭では理解しているものの『早く動いた方が色々と都合がいい』と考えてしまうと時間を周りに合わせるのではなく仕事をスピーディーに進める事を優先してしまいがちになるので、基本誰かと一緒に行動することが多い。


 白亜は一人で仕事ができるのに、誰かと一緒に仕事をすることが多いのはこの理由もある。白亜一人に任せると完全に全部一人でやってしまうので、何かしら揉めるケースが多い。


 場所の調査依頼などはこの問題が顕著に現れる。


 遺跡などの調査依頼は複数人が合同で受けることも珍しくないのだが、以前遺跡調査で白亜の受け持った部分と他の人の受け持った部分で調査の進行速度が違いすぎて揉めたことがあった。終わるのが早すぎて明らかにサボっていると思われたのである。


 かといって自分の担当外のところを調査してしまうと相手のプライドを傷つける結果になってしまうので、それはそれで良くない。


 揉めた時の一番の原因は説明不足であることなのだが、そこは何度言っても改善されないので諦めている。聞けば話すので語ってくれないよりまだマシである。


 この二人がなんとかついて来ているのも奇跡だ。普通ならこんな怪しい集団、信じて馬車に乗るなどしない。


 とんとん拍子に出来すぎた話が積み重なってしまった結果、非常に怪しくなってしまうのはいつもの事である。助けている相手に怪しまれて逃げられたのは一度や二度ではなかったりするのだ。


 そのせいで依頼失敗になりかけたことすらある。護衛依頼の護衛対象が「怪しすぎてついていけない」と言って途中離脱した。運悪くジュードが実家の用事で参加できなかった依頼の時である。




「二人とも、そろそろ待ち合わせ場所だが……荷物はそれで全部か?」


 ダイがそれでいいのかと確認するほど、荷物は少なかった。


 小さめのスーツケースに全て収まりそうな量しかない。


「そもそも、稼いでも食費とかでほとんど消えるから持ち物はかなり少ないんだ」


 この世界に来たのも急だったので、あちらから持ち込んだものも服や小物くらいしかないらしい。


「わかった。それでは降りる準備を頼む。白亜は準備して待っているようだ」


 ダイの言葉通り、白亜は既に約束していた場所で待っていた。右手には黒い小箱を抱えている。


 馬車を降りるとゆっくりと箱を開けながら近づいてきた。中にはいくつかの装飾品が入っているのがわかる。


「渡るのは、そちらの二人?」


 ダイに再確認をして、箱の中のものを取り出した。


「そうだ。本当にすぐ移動できるのか?」

「許可はもらったし、これを着けていれば大丈夫」


 白亜が取り出したのは着用者を守る効果を持つ腕輪で、異世界に渡る際の負荷を軽減するための道具だ。実は矢の攻撃なども一部逸らすことができるので、売れば一財産になる代物である。


 回数制限のある使い捨ての道具だが、発動にコストも殆どかからない為にかなり有用だ。


 価値を知っているヴォルカが一瞬目を見開いてダイにこっそり話しかける。


「あれ、一個で結構な屋敷が建つとかってやつやんな?」

「ああ。白亜も自分では作れない、万が一の時用の物だったのだが……ここで使うと判断したということは、かなり気合が入っているらしいな。いつもの転移とは難易度の桁が違うのかもしれん」


 正確には、ルール違反してまで転移の準備を進めたので失敗するわけにはいかないとの考えだからであるのだが、白亜の紆余曲折を知らないダイ達からすると『いつもより念入りに作業してるから気合い入ってんだなぁ』くらいの認識になってしまうのも無理はない。


 ちなみに転移自体はテオドールのいた世界に行くのと日本に行くのとでは、あまり大差はない。そこに関してはいつも通りである。問題なのは許可や権利関係だけであるのが厄介なのだ。


 テオドール達が腕輪をつけた事を確認し、白亜がその上に手を翳す。


「……よし、それじゃあ一旦送ってくる。三人は結構時間かかるかもしれないから、帰ってていいよ」

「え。あ、そんな急ーーー


 テオドールが言い終わる前にフッと消えてしまった。


 取り残されたダイ、ヴォルカ、ルナの三人は消えた場所を数秒見つめ、互いの顔を見合わせると呆れにも似た笑いが出てきた。


「「………せめて別れくらいさせて欲しい」」


 あまりにもあっさり過ぎた別れに、もはや苦笑いしかできない。

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