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「ロープはどうしますか?」

 一ヶ月以上あけてしまって申し訳ないです…。

 とりあえず襲い掛かられたので捕まえたはいいものの、どうすればいいのか迷っていると誰かがこちらに向かってくるのが見えた。


 今度は外からではなく中からなので不審者ではなさそうである。風貌からして天使のようだ。


「……そんなところで一体何をなさっているんですか?」

「あの、セグルズ……様にお聞きしたいことがあるんですが、いらっしゃいますか」

「本日はご在宅ですが……状況をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 明らかに正気ではない人を羽交い締めにしている白亜に若干引いている。


 玄関前で男を押さえつけている人が「家主に会いに来たんですが居ますか?」とか、正直異様な光景だ。


「何やら物騒な魔法を使おうとしていたので一旦止めてるんですが……この人はここの人ですか?」

「いえ、面識はございません。その、失礼ですがどちら様でしょうか」


 そういえば名乗ってなかったと思い出す。


 白亜は一応神ではあるのだが、神の能力を使うのに必要な神力がかなり少ない。神力だけで判断するのなら、そこら辺の天使よりも神っぽくないと判断されることすらある。


 天使は神から力を与えられることも珍しくないので、力の強い天使ならば下位の神に匹敵するレベルの神力を扱えることもあるのだ。


 白亜の場合は神格化して間もないのと、白亜自身が神格を上げる気がないので、本当に必要最低限の神力しか持っていない。世界によっては『認知度』がそのまま神格に影響する場所もあるが、リグラートの場合は単純に生きた年数と鍛錬の成果によって神格が変動する。


 魔力は鍛えても神力は鍛えていないので殆ど初期値のままだ。


 そのため見た目だけで白亜を神と判断できる者は少ない。


「リグラートの時空神、ハクアと言います。セグルズ様には一度お会いしたことがありまして、少しお聞きしたいことがあるのですが……」

「ハクア様、でいらっしゃいましたか。最高神様とご縁があるお方とお聞きしています」


 若干警戒された様子である。それもそのはず、セグルズとエレニカは立場的に少し厄介なことになっている間柄だ。


 別に表立って対立しているわけではないのだが、互いに古くからいる神として色々とあったらしい……ということしかエレニカから聞けていない。が、エレニカ自身がそう表現しているのだから少々拗れた関係なのは間違いなさそうだ。


「そうですが、今回は個人的な用事でして……それよりも、とりあえずこの人どうしたらいいですか」


 いまだに押さえつけたままの状態なので、縛るなりどこかに連れて行くなりしておきたいところである。天使側も一応相手が神なので無碍にはできず、どうしようかと固まってしまった。


 その時、突然声をかけられた。


「そのまま連れてきてもらえますか?」


 足音もなく現れたのはセグルズ本人だった。


 なんらかの魔法だろうか、白亜も気付けないほど静かに佇んでいる。


「あなたは仕事に戻ってください。ここからは私が対応します」

「か、かしこまりました」


 セグルズに話しかけられ、天使が早足でその場を去っていった。若干怯えた目をしていた気がする。


 白亜はとりあえず羽交い締めにしたままの相手を軽く縛って肩に担ぐ。何もないところから現れたロープを見て、セグルズが白亜に問いかける。


「それは……あなたの能力ですか? 見たところ、しっかりとした実体があるようですが」

「え、あ、はい。構造がわかれば……生物以外なら大体作れます」


 あまり詳細に能力のことを話してもいいものか分からず、手を離せば勝手に消えることや中を開けたことがない本でも表紙を思い出せれば全部再現できるなど、細かなルールに関しては少しだけ濁した。


「それは便利そうですね。ああ、その方はここへお願いします」


 案内されたのは地下牢らしき場所。薄気味悪い空間で、寒さが辛くないはずなのにただ立っているだけで凍えてしまいそうな雰囲気を感じる。


「ロープはどうしますか?」

「そうですね。解いてください」


 白亜が縄を解いた瞬間、セグルズが目にも止まらぬ速さで男を牢に投げ入れた。


 いきなり放り投げると思っていなかったので、白亜が一瞬固まる。


 牢へ物理的に放り投げられた男は血走った目で出口に向かって駆け出したが、その時だった。そのままの体勢で動かなくなった。いや、動けなくなっていた。


 全身が突如凍りついた男は今にも襲いかかってきそうな体勢で固まっている。シアンが息を呑む音が聞こえてきた。


『これは……魔法ではありませんね。気力に近そうですが、もっと別の力です。設置型の罠の類でしょうか』


 解析したいと、うずうずしているのだけはわかった。

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