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「わっ、ちょっとビックリした……」

 ローブの男性は、白亜が邪魔をしたと判断した瞬間に飛びかかってきた。目の焦点が合っていないのでどう動くか予想がつきづらい。


『ランタンの時間を止めたまま動いてください。時間を進めるとおそらく爆発します』

「止めたままって……」


 咄嗟に時間停止を使ったので、持続時間などあまり考慮しない形で止めてしまった。


 多少目を離していても止まったままにできる時間停止魔法はあるのだが、今回使ったのはあくまでもその場しのぎの魔法で、ずっと見ている(・・・・)必要がある。


 時間停止の魔法を重ねがけはできないので、一旦解除してから別の時間停止魔法を使うことしかできないのだが、その一瞬でランタンの魔法が爆発しないとも限らない。


 白亜の知らない魔法なのでどんなタイミングで発動するのかが不明のため、迂闊に一旦解除することができないのだ。


 つまりこのローブの男性を【ランタンから目を離さずに】相手する必要がある。


 とりあえず大ぶりの体当たりを後ろに下がることで避けた。ランタンから目を離すことができないので、男性とランタンが常に同時に視界に入っていないといけない。必然的に白亜が移動できるスペースが限られてきてしまうのだ。


 このまま後ろに下がり続けていたら動ける場所がなくなってしまう。魔眼を使うことも考えたが、遠視で時間停止魔法の発動を引き継げるか、やったことがない。やって「できませんでした」では今回ばかりは洒落にならない。


 遠視を使うのは最後の手段である。


「あの、どこの世界の方ですか? このランタンって何をするために持ってきたんですか?」

「……ゔ、ぁぁ……ぐ」


 一応意思疎通が図れないか話しかけてみたが、単純に言語が違うのか、正気を失っているのか。うめき声しか返ってこなかった。いまだに焦点の合わない目からは血の涙がポタポタと垂れている。


「シアン、この人どうなってる?」

『完全に錯乱状態なのは間違いありませんが……瞳孔の開きや関節の動きの鈍さから考えて、お亡くなりになっている可能性があります』

「亡くなってる……? アンデッドってこと?」


 死後、外部から入り込んだ魔力によって死体が動き出し魔物になる。その事例はリグラートでもあった。


 自然発生することもあれば、誰かが魔法で創り出すこともある。ネクロマンサーと呼ばれる人がそういった魔法を得意としていた。白亜の配下にもアンデッドが何名か居るが、全員自然発生した事例である。魔法で創られたアンデッドより、自然と周囲の魔力を取り込んでアンデッドになった魔物の方が強くなりやすい傾向にあるのだ。


 そのため葬式をする際にアンデッド化しないよう聖魔法をかける。本当に動き出す可能性があるので、リグラートの葬式と日本の葬式はその重要度がかなり異なり、冒険者が行先で仲間を亡くした際、どうしても遺体を持ち帰れない場合は燃やすことが義務付けられている。


 燃やしてもスケルトン系の魔物になる可能性はないわけではないのだが、それ以外の魔物になることを防ぐための苦肉の策である。


『アンデッドに近い、と考えていただいていいでしょう。こういう種族の方なのかもしれません』

「こんな生きづらそうな種族あるのかなぁ……まぁでも地球ですら目から血を出す蜥蜴もいるし、可能性はあるか」


 目から血を噴射して敵を追い払う蜥蜴のことを思い出した白亜。目の前の男性が似たようなことができる種族だとしても変ではないかと思い直した。


 よくよく考えてみれば変だとは思うのだが、他世界のことは殆ど知らないのだから、あらゆる可能性を否定できない。


「じゃあ一旦話を聞けるか試す方向で行くか……」


 相手がたとえ上位神であっても、白亜はそうそう負けることはない。戦神ではないのだが、白亜の戦闘能力は神の中でもかなり高い。


 元々人間だった頃から神に匹敵する強い力を持っていたのだ。加えて最近は最強の神、エレニカの指導を受けている。エレニカの指導は若干個性的ではあるものの、白亜の足りないところを補ってくれるメニューを効率的に提示してくれるため、単純な戦闘力の底上げができている状態だ。


 ランタンを見ていなければならないというハンディキャップはあるものの、それを補ってあまりある圧倒的な戦力差を互いに感じ取っていた。


 そして明らかに余裕がある白亜を見て、相手が突然動きを変えてきたのである。


「ガァああッ!」


 足の骨を砕く音が一瞬響き、先ほどとは比べ物にならない速度で再びの体当たりを繰り出したのだ。


「わっ、ちょっとビックリした……」


 が、白亜には若干のホラー要素を感じさせるだけだった。軽く後ろに下がるだけで渾身の一撃を回避し、能力で作り出した鎖で瞬時に捕えてみせた。


 エレニカとの修行で、以前よりも魔力で物を作る速度が速くなっている。愚直な体当たりなど、来る場所がわかっていたら怖くない。


「捕まえたけど……この人どうしよう。っていうか、俺どうしたらいいんだろう……」


 例えるなら人の家の玄関前で暴漢を捕らえた状態である。まず家の人にどうするか確認した方がいいのか、警察に届けるべきなのか、正直困る。


 やはり頼み込んででも、リグラートで働いている手が空いていそうな天使についてきて貰えば良かったと後悔した。

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