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「何このちょっとホラーな人……」

 白亜はセグルズに助けを求めるべきか少し悩んだが、悩んでいる時間の方が勿体無いという結論に至り、会いに行くことにした。


 エレニカの用事が終わるのを待つにしても、いつ終わるかわからない。加えて永遠とも言える神々の時間単位はかなり大雑把であり、人間の一生ほどの年月が経っていても「つい最近」と表現することも珍しくないくらいに時の流れが違う。


 白亜自身もそれに関しては強く感じており、チカオラートが「頼まれたこと、すぐやっておくよ」と言われたので任せたら三ヶ月放置されてキレたことがある。


 だがその時もチカオラートは「そんなに待たせてないでしょ?」といった様子だったので、感覚が明らかに違うのだと諦めるしかなかった。


 神々の「すぐ」が人間にとっては相当長い時間なのである。生きている時間があまりにも違うのだから当然なのかもしれないが。


 今回の場合は流石にそこまで待たせるわけにはいかないので自主的に動く必要があるのだ。


「……想像以上にご近所さんだった」

『エレニカ様のいらっしゃる世界より、かなり近いですね』

「なんなら日本より近いんじゃないか?」


 セグルズが統治している世界は、案外近かった。


 少々怖い噂を聞いていたので、これまで近づこうとはあまり考えていなかったのだが、いざ来てみると割と近かった。


 異世界同士の距離感は、実際に移動してみなければよくわからないことが多い。簡単に行き来できる()があるかないかで決まるのだ。


 行き来しやすい道があると、事故や召喚で異世界の者が紛れ込みやすくなる。ちなみにリグラートと日本はかなり近い。リグラートのシュリアが日本の白亜に転生したのも、距離が近かったからである。


 セグルズの世界も日本と同じかそれ以上に近い位置にあった。


 それなのにほとんど交流がないのは、例の噂のせいであろうか。


「どこから入ればいいんだ……?」


 到着したはいいものの、入り口と呼べるような場所が見当たらない。


 エレニカの世界には明らかに縮尺がおかしな巨大な門と神殿があり、リグラートは案内役の天使が入り口に立っており、日本の場合は警備員の詰め所のような小屋がある。元々は入り口などなくどこからでも出入り自由だったらしいのだが、神の数が増えるにつれて訪問も多くなり『出入り口』という概念ができたそうだ。


 しかし、見える範囲にはそういった建物や人は見当たらない。


「俺たちが見逃したっていう可能性はあるか?」

『ないとは言い切れません、が……それらしきものがあれば確実に記憶していると思います』


 白亜とシアンの記憶力は異常だ。正確にはシアンの記録能力が異常である。


 白亜も本気を出せばシアンと同じくらいの記憶力があるはずなのだが、興味のないものはとことん無視しているので折角のスペックが発揮される機会は案外少ない。


「でもこれ以上進むと不法侵入になりそうで……? この感じ、誰か……居る。いや、来た、よな?」

『はい。後ろに。この世界の方かもしれませんが、何やら物騒な雰囲気ですね』


 背後にある不穏な気配を感じ取ってその場を一旦離れることにした。どうやら不穏な気配の相手は白亜に気づいていないようなので、魔法を使って可能な限り身を隠しておく。


 相手が友好的であればそれでよかったのだが、どうも変だ。戦場の敵が発している空気感である。


 もしも普通にこの世界の人だったら一旦身を隠したことを謝って、セグルズに繋いでもらえないかを聞いてみればいい。だがもしもエレニカと敵対している関係の神だった場合、最悪問答無用で襲いかかってくる可能性もある。


 白亜が簡単にやられることもないであろうが、他世界の入り口で乱闘騒ぎを起こすのも問題である。


 ここは一旦様子を見ようというシアンの提案に、白亜が乗った。


 少し離れて様子を伺っていると、くすんだ灰色のローブを着た男性がふらついた足取りでやってきた。ローブの膨らみ方をみる限り、翼がある。おそらく天使だろう。エレニカのように鳥系の神である可能性もあるが。


 だが、それ以上に気になる点は、そのローブの男性が青い炎を灯したランタンを持っているところである。


 この辺りには暗い道や場所はなく、足元を照らす必要はない。加えてランタンの中には蝋燭の類はなく、炎が単体で浮いている。


 つまりあれは単なる明かりではなく、魔法がそのまま封じ込められている可能性が高い。


 なんのためにそんなことをする必要があるのか、というのが一番気になるところだが、それらを考えている暇はなかった。


「………燃えろ」

「っ、止まれ!」


 ぽつりと男性が呟き、ランタンから手を離した瞬間、白亜は咄嗟にランタン周りの時間を止めた。このまま放っておけば何か非常に不味いことになる、という白亜の直感が働いたのである。


 ランタンの動きが空中に停止したのを見て、ローブの男性がゆっくりと白亜の方に視線を向ける。


 ひどく血走った目で、鼻、口から血が垂れていた。


 どう見ても冷静ではない。意識があるのかも怪しいところだ。


「何このちょっとホラーな人……」


 にも関わらず白亜の反応は平常運転だった。

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