「俺パシリじゃんそれ……」
「師匠ー」
「おー。ジュード。どうだった?」
「群れのボスはハイオークでした。倒しましたよ」
「そっか。こっちも終わってる。ただ……」
白亜は近くに目線を移す。
「この量を剥ぎ取りってのがキツくて……」
「あー……成る程」
どんだけあるんだよ、とでもいいたくなるくらいの死体の山だった。オークを倒すことよりもそっちが面倒とはこれいかに。
「頑張ろう。他の魔物も臭いで集まってくるかもしれないし」
「そうだな。よし!剥ぎ取りするぞー」
全員解体用のナイフを取り出してオークの剥ぎ取りを開始する。ここに来るまでの道のりで白亜はオークの買い取り部位、及び討伐証明部位を全員聞いていたので特に誰も会話することなく黙々と手を動かしている。
「終わった……」
「もう妾はオークなど見たくないわ……」
「キツかった……」
戦闘よりも余計疲れているが、なんとか終わった白亜一行。そのままギルドへ向かう。
「討伐終わりました」
「はい。オークの討伐ですね。最低5匹分の討伐証明が必要ですが、持っていますか?」
「はい」
白亜は懐中時計を買い取り用のカウンターの上にかざし、魔力を流す。すると、オークの証明部位の右耳や魔石なんかが大量に出てきた。
魔石というのは魔物の核のことだ。世界の核が魔晶と呼ばれるものなので、それに良く似ているものである。
「え?えっと、これ何匹?」
「えっと……何匹だっけ?」
「「「………さぁ?」」」
全員覚えていない。何て適当なパーティだ。
「鑑定しますので少々お待ちを」
奥から2、3人ほど追加で出てきて調べ始める。何匹あるのか白亜達も把握していないので興味津々だ。白亜の目は死んでいるが。
とはいえ、これで全部ではない。実は何かに使えるかもと半分くらい残っている。半分でこの量。やはりとんでもないパーティだ。
「鑑定が完了しました。オークは全部で32匹、魔石も同様。買い取り部位の腕、脂肪。全て揃っていますね。それから討伐報酬は3千エッタですので、オーク1体2百エッタなのでーーー」
とにかく報酬の計算が面倒臭い。白亜ならほかごとしながらでも計算できる位のものでしかないが。
「合計、14920エッタです」
結構良い報酬だ。ただ、三人で分けられない。完全に4772……って数字になる。
「初仕事終わりましたね」
「精神的にもキツかったけどね」
「まぁ、そのうち慣れるよ」
本当はあまり慣れてはいけない筈なのだが、この世界ではそうするしか比喩でもなく死んでしまう可能性がある。
「さてと。明日はどうしようかな」
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「なぁ、聞いたか?あいつらまたギルド試験管泣かしたらしいぞ」
「うっそ。今度は誰だ?」
「トレン。元18ランク冒険者だってさ」
「まじかー。特にパーティリーダーがヤバイんだろ?」
「そうそう。祝福の子って言うのは間違いじゃ無いよあれは」
「そんな二つ名だったか?」
「全然?なんか定着しかけてるけど、本当はちゃんと獣神様に付けて貰ったらしいぜ?」
獣神に二つ名を貰う。これはかなり強い貴族のステータスだ。
「どんなんだっけ」
「確か、象徴の灯」
「へー」
近頃、冒険者が一度は話題に出す人物と言えば、どんな者に聞いても、【ハクア・テル・ノヴァ】と答えるだろう。
異端児。そこから始まり、破壊の申し子、祝福の子、果ては死神まで。様々な噂が飛び交い、一部では白亜は緑色の髪のとんでもなくアクティブな老人。と言う誰それ仕様になっている。
だからたまに良いカモが来たと白亜の名を話題に出しているにも関わらず白亜に勝負を挑んだりする輩は絶えない。その場合は白亜の餌食になるわけだが。
白亜達、つまりリンやジュードにも噂はある。
リンは、ハイエルフの姫君で、その目を見ると誰もが魅了される。白亜と一緒にいるのは堅物の白亜を落とすためだと。間違っているのか合っているのか。と言うか何故ハイエルフ。
ジュードは言わずと知れた武の王。此方は昔から前線で活躍する王族戦士だっただけに変な噂はない。
かなり異色のパーティだが腕は一流で気に入った仕事しか受けない。王族の依頼だって気に入らなければ受けないと言われている。王族から依頼が来たことはないが。
「でさ、この前知ったんだけどーーー」
その瞬間、ギルドの戸が開く。一瞬で冒険者達が静かになる。何故ならそこにいるのはランク17冒険者、ギルドのスーパールーキーにして冒険者達の注目の的、ハクア・テル・ノヴァ。その後ろにランク13冒険者リン、ランク14冒険者ジュード・フェル・リグラート。
白亜の斜め後ろには白亜の召喚獣のダイ、右横にはキキョウ、ルナが並び、ジュードの肩にはチコが乗っている。
圧倒的な存在感とそれに似合わぬ死んでいる目はギルド内で大いに目立っている。本人は、
『なんで俺が入ると皆黙るんだよ……入りづらいじゃん』
『知名度が上がってきたんですよ。良かったですね!』
『良いことなのかな……』
等とシアンと会話するくらいには空気が少しずつ読めるようになってきていた。
白亜の年齢は現在10歳。まだまだ成人には程遠いものの、その腕の強さから大人と同程度として扱われている。たまに変な噂のせいで絡まれたりするが。
ジュードは13歳。リンは11歳。まさかの全員成人していないパーティである。ダイ達は抜く。
白亜は筋肉ついていると成長しにくい、何て事をガン無視する形でぐんぐん成長している。リンは種族柄そんなに伸びない。ジュードはもう成長期は過ぎた。と言うか5歳くらいでパッと見18歳位に見えるようになるので、エルフ恐るべしだ。
白亜達は無言で依頼ボードの方に進む。冒険者達が自然とはけていく。
『俺避けられてるのかな……』
『それに近い状態であることは間違いありません』
『あ、そう……』
成長したとはいえまだ子供。しかも女子である。背がどこまで伸びるかは不明だが今のところはまだ全然小さい。つまり、依頼ボードが見にくい。
『早く成長したい……』
白亜はそんなことを考えながら首をかなり上に傾けて見ていたら、奥から人が来ると気付き、そちらに目を向ける。すると奥から受付の職員が紙を持って出てきて、白亜に手招きする。
取り合えず全員でカウンターの方へ。
「おはようございます。光の翼の皆様」
「おはようございます。何かあったんですか?」
「いえ、そう言うわけでは……中でお話ししますので此方へ」
客室に通されて少し待つと、職員がやって来た。
「あなた達に指名依頼が来ています」
「またですか」
「今週2回目だね」
「またです」
白亜達の知名度がぐんとアップしたので指名依頼が非常に多い結果となっている。その中には暗殺を頼みたい、何てのもあって正直うんざりしている。
「それがですね、もうすぐ神託が来るじゃないですか」
「はい」
ジュードが答える。白亜は相変わらずそんなことは知らない。
「それで、今回の神託は様々なところで起きる可能性があるんです」
「はい」
「それの情報収集を頼みたいのです」
「え?それって冒険者の仕事では無いですよね?」
「はい。しかし、あなた方は信頼できる上情報収集能力が高いと此方でも噂になるほどですよ?」
「それができるのはキキョウくらいなんですけど……」
キキョウは水の精霊。あらゆる水に干渉し、物事を探ることができる。これはシアンの入れ知恵だ。
「私は構いませんよ?」
「キキョウがそういうなら俺は構わないけど……あ、それって誰からの依頼ですか?」
「アシル様です」
「あの人か……」
アシルと言うのはギルドの情報部隊の隊長だ。白亜とも面識があり、数少ない気の許せる職員だ。
「アシルさんはなんて?」
「ハク君なら受けてくれるよねー。と」
「俺パシリじゃんそれ……」
白亜は全員の方を向き、どうする?と聞く。これは実は結構珍しい。パーティリーダーが全部決める場合が多いのだ。ジュードと白亜のように師弟関係にあるときは特にだが。
皆で決めて、皆でやる。これが白亜のパーティ運営法なのだ。殆どシアンに任せていることが多いが。
「良いんじゃない?」
「僕も構いません」
「妾も同意する」
「某も久し振りに諜報をしても構わんぞ」
「チコも良いよー」
全員一致で受けることに決まった。
「それにしてもなんでこんな依頼を?」
「神託が下りたのを良いことにその事実をねじ曲げて自分が勇者だと言い張るような人が居ないわけでもないからです」
「それバレないんですか?」
「洗脳系の魔法で過去にそれを本気でやった人がいますよ。その後捕まって縛り首になりました」
「なにそれ恐い」
見つかり次第縛り首。現行犯逮捕でそのまま銃で撃つ的な想像をする白亜。
「だからこそ、神託が下りた際はしっかり情報を回す必要があるのです」
「成る程。キキョウを使えばそれは数十倍に楽になる、と」
「そんなところですね」
こうして白亜達は神託が下りた際の情報の護衛をすることになった。




