「結構制約が多そうだな……」
あまりにも内容がぶっ飛んでいて話が微妙に通じなかったものの、とんでもなく大変だったことだけは伝わった。
通じなかった理由としては、白亜が淡々と『起こった出来事』を述べていただけだったので余計に現実味がなかったことも一因だ。
状況の把握に長けているせいで、全体的に客観的な視点なのだろう。
「えっと……何回か亡くなっていて、その度に記憶を持ったまま生まれ直していて……今は神だと?」
現状は伝わったらしい。
「まぁ、そんな感じ……です。神というのも『そういう種族がある』程度に捉えて貰えば大丈夫です。ちょっと色々できるだけで、あまり人と変わらないので」
白亜の場合は最初から色々できたために神になった時に実感があまり湧かなかったが、普通ならもっと違いを感じるものである。その力に溺れる者もいることから、無闇に神は増えないように調節されている。白亜が自分から神になることを決めなければ、おそらく未だ人のままだっただろう。
あまり人と変わらない。と感じているのは白亜だけだが、周りが特別扱いをしていないことも関係している。
仰々しい態度を取られることがあまり好きではないということを知っているジュード達が、今まで通りの対応をしてくれているのだ。
若干信仰的な目線で白亜を見ているファンクラブ会員でさえも、白亜が神であることを知っていて態度を変えていない。白亜の種族を知っているのは一部のメンバーに限られてはいるが、他の会員でも同じ反応をするだろう。
周囲のサポートあっての、今の立ち位置なのである。
「それで、貴方は?」
「こっちはハクアさんに比べると、それほど大変だったわけでもないんですけど……」
テオドールが語り始めたのは、この世界から少し離れた世界での話だった。
近場の異世界、というのもおかしな言葉だが、実際異世界には『行きやすい』世界と『行きにくい』世界がある。
単純に距離があったり、間に空間の隙間があったりして、簡単には行き来できない世界があるのだ。
エレニカの管理している世界はリグラートに案外近いので、行き来はそれほど大変ではない。ちなみに日本はかなり近い。だから白亜は何度もお手軽に行き来できているのだが。
テオドールの答えた世界の地名は、白亜も知らない場所だった。調べてみたら思ったより近い可能性はないわけではないが、近場の異世界は大体頭に入っている。
召喚されてくる時に、世界間の距離は関係ないのだろうか。
テオドールの生まれ故郷はセルファ=ザイクス共和国という国で、セルファとは彼の世界の古い言葉で北という意味らしい。北部でもっとも大きな国で自然の多い豊かな気候だが、周囲を山脈に囲まれているという立地のお陰で他国から攻められにくい環境にあるそうだ。
テオドールの世界の特徴はなんといっても『生まれながらにして特殊な力を持つ』ことだろう。
テオドールの場合は転移の力だが、その力は様々で『水を操る力』や『空を飛ぶ力』など多岐にわたる。
「できる事に関して、魔法との大きな違いはありますか?」
「まず、複数の能力を持つ人は殆どいません。一応いないわけじゃないんですけど、世界中探して2、3人いるかどうかっていうレアケースになります。あと、能力自体は育ちません。扱い方は成長で覚えることはあるんですけど、できることは増えないんです。水を三滴だけ自由に扱える能力は、いくら練習しても三滴しか扱えないです」
「結構制約が多そうだな……」
白亜自身、悪魔と取引して超能力を得ているので、何か共通することがあればと思ったが、思っていたよりテオドールの世界での能力というのは白亜がイメージしているものとは違っていたようだ。
セルファ=ザイクス共和国の人口は約二千万人だが人口密度は低く、長閑な村々が各地に点在している国のため、中央の都市部と地方の農村で生活にはかなり文明の差があるらしい。
文明のレベルとしては、聞く限り1900年代後半頃の日本に近いように感じた。ただ、能力という特殊な環境があるのでまた違った進化を遂げている感じもあるので、遅れているというわけではない様子である。
テオドールは都市部の大学生で、運送のバイトをしながら妹と二人で暮らしていたのだが、家に帰った途端に大きな地震があり、二人で避難するために家を出た瞬間にこの世界に来ていたとのこと。
地震が何か関係があるのだろうか、と考えるが今確かめる術はない。これから転移者のデータを集めていけば、予め転移してくる人の予想がつくかもしれないので、とりあえず心に留めておく事にする。
「こっちに来てからの話は、さっき話した通り……なんとか妹と二人で生き延びています」
「そういえば、妹さんの能力は……?」
「妹の能力は『熱を与える』というもので、時間をかければ鉄を溶かすこともできる能力です。これに関しては制約がかなり多いので、あまり多用できないんですけど」




