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「いや、問題は、ないんですけど」

 ダイとヴォルカが依頼を受けている間、馬車の二階で待機することになったテオドールと白亜。


 外からは見えないように魔法で偽装しているので、完全に閉じられた空間である。


 その密室で二人きり、しかも初対面でいきなり放り込まれた状況にテオドールは相当な居心地の悪さを感じていた。


 しかも相手は白亜だ。


 最近ようやく表情筋が動き始めてきたとはいえ、当然目が死んでいる。


 初見なら不機嫌そうな人としか見えないだろう。愛想よく対応するなど白亜はできっこない。


 そうしなければいけない場合は大抵シアンに代わってもらっているので、練習もしない。結果、いつまで経ってもその辺り成長しないのである。


「「………」」


 狭い部屋で二人きりなのに、お互い一言も喋らない。


 テオドールは『不機嫌そうだから話しかけないでおこう』と考えているためだが、白亜は普段通りである。普段から用事がなければ喋らない。喋り掛けられれば話すが、自分から話すことは滅多にない。


 白亜らしい行動ではあるが、初対面の相手はそれが分からないのが厄介だ。


 ガタン、と馬車が大きく揺れて、テオドールがバランスを崩し白亜にもたれ掛かる。白亜は外の音を聞くのに集中していたからか、倒れてきたことに少し驚いていた。


「あ、ご、ごめんなさいっ」

「いや……こちらこそ、狭い場所ですみません」


 緊張からか変な体勢で座っていたテオドールだが、そのせいで足が少し痺れてうまく立てない。


 起き上がろうと壁を掴もうとして再び倒れこみ、壁に届かなかった手は白亜の胸を掴んだ。


「「………」」


 テオドールが白亜の膝の上に倒れ込んだまま、一瞬の静寂が訪れる。続いて、テオドールの顔が真っ赤に染まり、跳ね起きて高速で頭を下げた。


「えっ、そっ、す、すみません本当にごめんなさい! わざとじゃなくて、いや、わざとじゃなくても本当申し訳ないとしか」

「ああ、大丈夫です。痛くもなかったですし」


 大量の冷や汗をかきながら土下座する勢いだったテオドールの謝罪は、白亜がさらっと流した。


 言葉だけを聞くと怒っているようにも思える台詞だが、白亜の場合本当に全く気にしていない。


 悪意を持って胸を揉まれるのは普通に嫌なのは間違いない。が、別にそうでないなら気にしないのが白亜である。


 胸を揉まれようが気にならないのは、男だった経験があるからというよりも、白亜自身で自衛できる強さがあるからかもしれない。


「……その、すごく失礼なことを聞いているかも、しれないんですけど……女性、ですか?」

「はい。何か問題が?」

「いや、問題は、ないんですけど」


 がっつり胸を触ったことにより、テオドールの白亜への意識が変化したらしい。主に罪悪感の方へ傾いた。


「……昔、男でした。この世界に来る、前のことです。生まれ直して、女性になったものの……男性の思考に引っ張られることが多いので、中途半端な見た目に」

「生まれ直した……?」

「貴方がどんな経緯でこの国に来たのか、詳しくは知りませんが……俺の場合は、一回死んでるんです。それに関しては後悔していません。死ぬことを覚悟していたので。この世界に来た時も……どこか他人事のように感じていた」


 両親の仇を討つ、それだけのために生きていた白亜は、その後自分がどうなろうが興味がなかった。


 自分が死ぬことで悲しむ人が居るなど、全く考えていなかった。


 目的のために生きた白亜に、再び生を得るチャンスが巡ってきたのは果たして偶然か必然か。そのあたりチカオラートに聞けば分かりそうなものだが、毎度はぐらかされて詳しいことは聞き出せない。


「……聞いてもいいですか? この世界に、来る前のこと。何か共通点があれば、次に来る人の予想もできるかもしれませんし」

「ああ、それは考えたことなかったですね」


 もしもある程度次に召喚される人を特定できるのであれば、異世界の神々と協力して、勝手に召喚されないような仕組みを作ることができるかもしれない。


 もしそれをするにしてもエレニカの協力を取り付けるのは必須なのだが、エレニカ自身、この勝手に召喚される状況を嘆いていたので手伝ってくれるだろう。


 どうも神の関与していないところで召喚されると、意図しない空間の歪みが出来てしまい、それを塞ぎに行く必要が出てくるそうだ。しかもそこそこ高位の神でないと対処が難しいらしく、エレニカが留守の時は大抵空間を塞ぎに行っている。


 エレニカならば、仕事を減らせる可能性があると分かればすぐにやってくれるだろう。


 白亜は軽く自らの境遇を語った。両親を殺され、復讐のために生き、最終的に自分を犠牲にする形で敵討ちをしたこと。そこから生まれ直してリグラートで過ごし、紆余曲折あって神になったことを。


 それはもう、内容は端折りに端折って、ざっくり要点だけ伝えた。文章力はあるので、中身はしっかり分かりやすくはなった。だが、あまりにも非現実的で、波瀾万丈すぎる白亜の……それも一生どころか何回も生まれ直している人生だ。


「?????」


 内容が複雑すぎて話が通じなかった。

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