白亜達の初めての仕事!
「おー」
ギルドカードが却ってきた。光の翼は現在ランク15パーティである。パーティランクはリーダーのランクになる。
「これ受けられますよ?」
「どれだ?」
ランク10の討伐依頼、オーク10匹。オークは豚の顔に丸々と太った人間の体がくっついたみたいな魔物だ。危険度はランク6。群れた場合、ランクは8。ベテランパーティが受ける仕事だ。
「これならいいか」
「そうですね!」
「いいよ」
オーク退治に出掛けることになった一行だった。
「師匠。転移とか使わないんですか?」
「他の人にバレるとか絶対に避けたい。森の中に転移とかだと上手く魔眼が作動しなかったりするからなるべく歩いた方がいい。あまりに早かったりすると疑われるしな」
「成る程」
情報によると湖付近で群れを作っているようだ。足で移動なのでそれなりに時間がかかる。
「一旦休憩しようか」
いい感じに休めそうな岩場を見付けたので休むことにする。
「ハクア様。少々周辺を調査してきます」
「ああ、頼むよ」
周辺を調査すると言うのは周辺の精霊にオークの細かい位置等を聞いていく事だ。そう大変なことではない。
「この奥の湖付近に集落を作っているようです」
「情報通りだな」
白亜達は奇襲をかけることにした。作戦としては白亜が大きめの魔法で脅してオーク達を白亜の周辺に固まらせる。
その隙に群れを率いていた個体をジュード達で叩く。
白亜にかなり負担がかかる戦法だが、本人が問題ないと言い張るので問題ないのだろう。
「それじゃあ、俺の合図があったらオークがこっちに来るように仕向けてくれ」
「了解。妾に任せてくれ」
白亜、ダイ、ルナ。この三人で囮。かなり過剰戦力の囮ではあるが、こう言うときには非常に役に立つ。
「それじゃあ行く。俺の魔法の後に続いて思いっきり打ってくれ。あ、消し炭にしないように」
白亜が地面に手を置くと大きく地面が振動する。
「火炎花!」
その瞬間、地面から巨大な花が幾つか蕾の状態で出てくる。
「開花!」
パッと花が開いた瞬間、美しい花の中央が一気に熱をもって爆発する。そこらの爆弾の威力の比ではない。オーク達は驚いて出てくる。白亜の姿を見つけ、襲い掛かってくる。
「頼んだ!」
「任せろ!」
「問題ない!」
ダイとルナが各々、わざと此方に気付くように雷と炎を発散させる。地獄絵図。そんな言葉がふさわしい光景だった。
オーク達の頭はそんなに良くはない。所詮豚でしかない。豚よりは断然知能は高いが。
「殆どのオークが出ていきましたね」
「うん。私達も行こう!」
ジュード、リン、キキョウ、チコの奇襲グループはオークに気づかれないように回り込みながら中央にある簡素な掘っ立て小屋に向かって進んでいく。
ルナや白亜の火炎花等の火が周囲に燃え移っていく。キキョウとリンがその都度鎮火していくが中々火の回りが早い。
「!来ます!」
ジュードが剣を構えると目の前の小屋の中から魔法が飛んできた。火魔法だが、それに気づいたリンが即座に魔法を打ち、此方につく前に着弾する。
「オークメイジが1体、ハイオークが1体、オークアーチャーが1体ですね」
メイジは魔法使い、アーチャーは弓使い、ハイはそのまま上位種だ。この中だったらハイが一番強い。
「私メイジやる!」
「了解しました。では私はアーチャーを」
「僕とチコでハイオークを!」
各々邪魔にならないように広がっていく。気温がどんどん周囲の火によって上がっていく。個人戦が開始となった。
「ーーー敵を打て!水弾!」
「ブモォ!」
リンとメイジの戦いは正直余り余裕がない状態だった。水魔法はあまり殺傷性がない。溺れさせる等はかなり時間がかかる上、斬れるほどの水圧の水を打ち出すには詠唱がかなり長くなる。
「うう!」
ほんの少し服を掠める。服に火がつき、体が火傷を負う。リンはすぐに鎮火したがそんなことはどうでも良いとばかりに再び杖を構える。
「水よ、我の意に……きゃあ!」
長い詠唱を唱えようとすると直ぐに火魔法が来る。魔法は白亜のように無詠唱でもできない限り、初級魔法の方が汎用性があり、中級、上級と上がっていくほど戦闘では使いづらい。
それに相手はオークなのだ。魔法が使えなくなっても恵まれたとも言えるべき体つきにものを言わせて殴りかかることも可能だ。リンには不可能である。
白亜に簡単な護身術は習っているがオークには到底効かない。人間にも効く可能性はそんなにない。
「ブモ!」
「きゃあああ!」
リンはなんとか避けながら考える。
(なんであんなに早く攻撃できるの……?)
人間としてはそんなに早くないがオークとしては異常と言える。それに、威力も相当なものだ。
(もしかして……あの杖?)
メイジが持っている杖にはかなり汚れているものの杖自体にもかなり術式が書き込んである。もしかしたら物凄い価値のあるものなのかもしれない。
(そうだ!ハクア君に言われたあれならもしかしたら)
考えが纏まった瞬間、リンが跳ね起きて直ぐ様詠唱を開始する。
「魔力よ、魔の力よ。我の思いに応え、その姿を見せなさい。汝と我、我と汝、汝と敵、味方。全てのものを引き離す!魔法殺し!」
それを言った瞬間、リンは生命線とも言える杖を自ら放り投げた。それを不思議そうに見たメイジがその瞬間、電流が走ったようにスパークし、膝から崩れ落ちる。
「たああぁぁ!」
リンが腰に挿していた少し長めの短剣でオークメイジの首を切断した。一瞬痙攣して血を吹き出しながら死んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い息を吐きながら血の付いた短剣を見る。そして物陰に走っていって少しだけ胃の中の物を出した。
リンが、初めて魔物を殺した瞬間だった。
「てーい!」
「はっ!」
ジュードとチコが互いに合図を出しながら魔法と剣をハイオークに当てていく。
「ブゥオ!」
「く!」
チコが剣で切られそうになったのを避けた。だが、体が小さいので風圧で吹き飛ばされる。
「チコ!」
「ジュード!来るよ!」
二人の連携はかなり洗練されているが、中々相手に届かない。オークはそんなに強くない。しかしハイオークともなるとかなり強くなっている。
ランクとしては10。オークの群れよりも強い。ジュードは攻めかねていた。本気を出せば多分いけるだろう。しかし、このハイオーク、何かがおかしい。
ジュードが違和感を抱いたのは割りと最初の方。
(なんでこんなに感情がないんだ……?)
白亜の死んだ目とはまた違う、虚ろな目をしている。白亜の目がこの世の全てに絶望している目だとしたら、このハイオークは何かに操られている。そんな感じがする。
「チコ!行くよ!」
「アイアイサー!」
チコとジュードが再び息を整えて走り出す。ハイオークはそれに確りと反応するが、やはり目が虚ろだ。どこを見つめているんだ。そう聞きたくなる。
「たぁ!」
ジュードの魔力を込めた一撃が決まり、首を跳ねられてハイオークは死んだ。しかし、ジュードには胸騒ぎがして仕方がなかった。
「ジュード様。終わりましたか?」
「キキョウさん。はい。なんとか」
「そうですか。リン様はどうやら少し堪えているようですので」
「そうですか」
ジュードにも経験がある。最前線で戦えば嫌というほどそういう現場には遭遇する。もう馴れてしまったが。
「ジュード君……」
「リンさん。大丈夫ですか?」
「うん。もう吹っ切れたよ」
「そうですか。では師匠のところへ行きましょう」
既に白亜の方からは魔法の音はしない。もう終わったのだろう。
「ジュード君……私、殺しちゃった」
「そうですね」
「こんなことに躊躇してたらいけないって判ってるけど、でも」
「僕も最初は吐いてましたよ。5才ぐらいの時でしょうか」
半分とはいえエルフの血が入っているのだ。因みに、エルフは5才になるともう立派に戦えるくらい成長する。なのに長命。チートである。
「ううん。私、もう迷わないよ」
「リンさん?」
「何でもない!早く行こう!」




