番外編:夏日になったクリスマス 前編
毎年恒例のクリスマス番外編です。
……明日にはクリスマス終わるのに前編にしてしまいました。間に合いそうになかったので……ごめんなさい……。
普通に仕事なんですよクリスマスでも年末年始でも。接客業なので祝日とかないです。平日休みなんで……
良いクリスマスをお過ごしください。
大きな斧を担いだ白亜が強い日差しを恨めしそうに見上げながら、溜息をつく。
「あっつい……何なんだこれは……」
その服装は真冬の朝にしては、かなり薄手の7部丈である。
格好自体は初夏や真夏でもおかしくない。
「師匠、あそこの木もお願いします」
ジュードが精霊魔法を使いながら奥の巨木を指差す。その額には汗が滲んでいかにも暑そうだ。ジュードの服装も半袖である。
「わかった。……右奥のだな」
言うが早いが巨大な斧を軽々と振りかぶって木を切断する。しかも使っているのは右手のみで左手は日差しを防ぐのに使っている。特殊な目のお陰で眩しくはないのだが、日光が暑いのは変わらない。気温など関係ないはずの白亜が暑がっているのは気のせいでもあるのだが。
凄まじい音を立てながら木が奥へ倒れていく。本来なら何度も打ち付けてから自重で倒すのが一般的な伐採方法なのだが、白亜の場合は一回横薙ぎに振れば終わるので非常にスムーズだ。
切った木を運びやすいように斧で分割していると、麦わら帽子を被ったリンが木々をかき分けて現れた。
「お疲れ様ー。みんな、一回休憩しよう!」
リンの声で周りにいたジュードやダイたちが一斉に手を止めて近くに停めてあった馬車へと入っていく。
それぞれの顔には若干の疲れが見える。流石のとんでもバイタリティを持つ彼らでも、この暑さと作業ではかなり消耗するらしい。
「主。中、いく」
「ああ……そうだな」
玄武が白亜の手を引っ張って馬車の中へ入る。
馬車は魔法によって見た目以上の広さがあり、一軒家くらいの面積がある。ちなみに三階建だ。この馬車は白亜とリン、レイゴットの合作である。
移動するならテント建てるより馬車で泊まった方が楽じゃん、という考え方から適当に制作されたこの馬車だが、非常に使い勝手が良い。
魔法で水も電気も通っているし、普通に料理もできる。唯一お風呂に関してはレイゴット並みの魔力がないと湯量を維持できないので魔王相当の魔力を持つ人でないとお風呂に入ることは難しいが、水タンクを馬車に載せることで解決できないわけではない。が、馬車でお風呂に入るために荷物を増やすなど普通はあり得ない行為なので一般的にはほぼ使えない機能である。
もうひとつ欠点があり、単純に車体がかなり重い。
中身に乗っている分に比べれば100分の1くらいの軽さにはなっているのだが、普通に一軒家が丸々収まっているようなものなので重いものは重い。
そのため普通の馬ではまともに引くことができないのだ。白亜たちの場合は主にスレイプニルが馬車を引いている。
そんな馬車だが、一時的な休憩室として持ち運ばれることが多いため、移動用というより休憩用といった方が正しいかもしれない。
「シアン、この気温について何か判明したことはあるか?」
『いいえ。調べた範囲でもここ数日の異常気象は予兆もほとんどありませんでした』
二週間前までは急に寒くなったりして、積もらないまでも雪が降る日があったのだ。
それが、この三日ほどで気温が25度を超え続ける夏日になってしまっている。気象に詳しいレインも原因がわからないと困惑していた。加えて森全体が突然の夏日にパニック状態になり、生えるはずのない木がそこかしこに立ってしまっている。
この木は精霊が管理している特殊な木で、夏になると枝葉を広げて弱い精霊を日差しや魔物から守る習性を持つトレントの亜種だ。冬の間は種の状態でじっと待ち、夏になると一斉に巨木へと成長する。竹もびっくりな速度で生えるので、一日経てば幹が一メートル太くなると言われている木だ。
その木が間違ってこの時期に生えてきてしまったのである。正確には、気温に驚いた精霊が木に命令を送って生やしてしまった。これで困ったのは白亜達だ。突然意図していないところに木が大量に生えてしまいハクアの街への道が完全に塞がってしまったのだ。
ルナやキキョウ、チコが『異常気象であるだけで、まだ夏ではない』と精霊達の誤解を解いたはいいものの、そんなにすぐには消せないとのことで道を開けるのには切り倒す選択肢しかなかった。
切ってしまって大丈夫か、と精霊に確認を取ったところ『むしろこのまま冬になったら種に戻れず枯れちゃうから切って欲しい』とのことだったので白亜達は街道に塞がる木を切りにきたのである。
この木は硬さはそれほどないが、木材の中でも柔軟性がかなり高い材質なので魔法で消し飛ばすのはもったいないという意見が出たので一本一本手作業である。加えて『今切り落とせば種になれる木』と『まだ種になれない木』の二種類あるらしく、その判定は精霊にしかできない。
毎度毎度「この木切っていい?」と精霊に確認しなければならないので非常に時間がかかっている。
冷房の効いた涼しい馬車の中でシアンと白亜が脳内会話していると、ぐでぐでと床で休憩していたダイが白亜に向かって手を差し出す。
「白亜……冷たいもの、くれ」
「冷たいもの……アイスでいいか?」
出てきた手の上にリグラートの城下町で買ったアイスクリームを渡すと、全員の視線が向く。
白亜は無言で全員にアイスクリームを手渡した。皆よほど疲れているのかリアクションが少々薄い。が、アイスクリームはすごい勢いで食べていた。
「この暑さ……何なんでしょうね」
「気温の変化はリグラートからかなり離れた国でもあるみたいだし、この周辺だけに狙った魔法とかじゃないんだよね」
『そうですね。レイゴットでもこの規模での気象変動は不可能でしょう。この世界の中でこの規模で運用できる可能性があるのはここにいる2名だけでしょう。あり得ませんが』
「もちろん俺もレインも身に覚えはない」
白亜とレインなら世界丸ごと気温変更も不可能ではないが、正直やる理由がないし、当然身に覚えもない。
何故なのかチカオラートに確認しようとしたが、連絡は未だない。少々イラっとしつつもジャラルにも連絡を取ったがこちらも無反応なところを見ると、この二柱が何か企んでいるか、もしくは不在の間に何かが起こってしまった可能性が高い。
チカオラートへの信頼はこれっぽちも無いのでどうでもいいのだが、ジャラルまで連絡なしというのは気がかりだ。
エレニカにも連絡を取ってみたが、彼女も忙しいらしく『すぐには来られない』という連絡を受けたまま音沙汰がない。
とりあえず自分たちでなんとか解決する方法が見つかればいいのだが。




