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「受ける者が少ないのだろうな。人手不足なのは間違いなさそうだ」

 街の中へ潜入した三人は、一先ず反応のある城の方面へ歩く。


 城といっても彼らの感覚からするとかなり小さい。他国から見てもかなり広いリグラートの王城が価値観のベースになっているので仕方がないのかもしれないが、リグラートと比較しなくてもこの城はこぢんまりしている。


 街と呼べる大きさの都市が一つしかないのもそうだが街のシンボルである王城がこの小ささだと、この国の国力はかなり低いことが容易に想像がつく。


 王城は国力のアピールになるだけではなく、国外の使者を招く場所でもある。白亜達がリグラートの城に居候していた頃は、使者の従者を泊める際に使う部屋などを借りていたのだ。他国の王族などがやってきた場合は、その従者も多数訪れるので部屋がたくさん必要なのである。


 この城は、その部屋がまともに用意できるのか不安なレベルの大きさだ。サイズ感で表すのなら白亜の屋敷と大差ないくらいかもしれない。白亜の屋敷の場合は『あんまり広くても移動が面倒』という理由から、かなり小さめの設計になっている。ただ流石に住んでいる人数が多いので、あまり使わない部屋やレイゴットら居候の部屋は別棟になっている。


 城と一個人の所有する屋敷が同程度の大きさであることから、かなり小さい城という印象になってしまうのも無理はない。


『む……移動した。先ほどまで城の方から動いてはおらなかったが……』

「何処に行っているか予想は付くか? 可能なら先回りがしたい」


 ダイの言葉に数秒の間を開けてルナが答える。


『おそらく……冒険者ギルドではないかの』

「ギルド? ああ、上から見た時にあったな。丁度いい。どちらにせよ、入国したからには一つか二つほど依頼を受けようとは思っていた」

「突然こんな何もない国に入国して、受けへんまま出国したら変やからな」


 この周辺は寄るところが正直あまりないので、急に訪れて出て行くのは冒険者としては不自然だ。別にやってもいいのだが、この面々はリグラートの内部に結構しっかり食い込んでいる身分なので後々『何かの裏工作だ!』などと言いがかりをつけられてしまう可能性はゼロではない。よほどの事がないとそんな事にはならないだろうが、念には念を入れておいて損はないだろう。


 そんなこんなで三人はギルドへと向かった。


 ヴォルカが道中、すれ違う人がかなり少ないことに気づく。


「なんや、国唯一の街やのに人少ないなぁ」

「たまたまこの辺りに人が少ないだけなのかも知れないが……上から見た時も確かに活気はあまり感じなかったな」

『精霊もかなり気配が薄い。普段が自然と魔力に溢れた土地で暮らしているからそう感じるだけかも知れぬがの』


 場所や時間帯が悪いだけという可能性もあるが、昼間の街中にしてはかなり静かだ。朝日が昇ってすぐくらいの街並みと言われたらこの人通りでも納得できるのだが。


「あそこか。侵入者の気配はどうだ?」

『まっすぐにこちらへ向かってきている。どうやらアタリみたいよの』

「どうするん? 入る前に捕まえるんか?」


 ギルドの前で陣取るのも取れない手では無いが、もし勘付かれたらまた逃げられるかもしれない。どんな能力で移動しているかがわからない以上、下手に出るのは避けたいところだ。


「そうだな……中へ入って潜伏し、出るところを狙うか。幸い扉は一つしかなさそうだ。あの能力を隠しているのであれば、ギルド内で使うことはしないとは思うが……。ルナは万が一に備えて外で見張っていてくれ」


 前で待ち構えるより、一旦逃げ場の無い場所に入ったところで出入り口を塞いだ方が、逃げ道を予測できるので楽だ。あの瞬間移動も、おそらく使えることを公表していたら噂くらいは聞いてもいいはずなので隠している可能性が高い。白亜は何も気にせずポンポン使っているが、それほど移動系の魔法は貴重なのだ。


 隠していないとしても、他の冒険者から侵入者のことを聞き出すタイミングを作れるので情報を得ることはできる。


 ヴォルカとダイが中で待ち受け、ルナが外から監視、場合によっては捕獲する役目である。契約主と精霊が別行動することは珍しくはあるものの、特段おかしな行動では無い。流石にルナのように白亜の知り得ないことを勝手に他国に行って調査したりする精霊は中々いないが。


 ヴォルカとダイがギルドへ入る。このギルドはハクアの街にあるような小さな支部で、初心者向けの武器や防具、薬などを販売しているが、食事をするようなスペースがなく誰かを待ち構えるには少々不向きな造りである。


 普通、冒険者同士の意見交換や会議の場所を提供するために小さな酒場が併設されていることが多いのだが、ここはそれすらないらしい。おそらく冒険者の数自体が少ないのだろう。採算が取れないと最初から判断されて作られていないのかもしれない。


「酒場ないんか……依頼のボードでも見とくか?」

「ああ、そうするか」


 人を待つ場合には酒場で何か食べながらの方が目立たないので嬉しいのだが、そもそも併設されていないとは予測していなかった。仕方なく張り出されている依頼を見る。


「……なんや、えらい多いな。ほとんど討伐系やん」

「受ける者が少ないのだろうな。人手不足なのは間違いなさそうだ」

「王都で食いっぱぐれている冒険者はこの国に来たらええんちゃうか……」

「リグラートの暮らしに慣れている者にこの国は辛いやもしれないな」


 低ランクの討伐依頼など、リグラートでは争奪戦が起こるのだがここでは余りまくっているらしい。


 この国の現状に驚きつつも、ダイはルナからの連絡を聞き流していなかった。


「来るぞ。気配はなるべく隠せ」

「気配消すのは得意分野や。そっちこそ、そのデカい体をなるべく縮こませた方がええで」


 軽口を叩きながらも入り口に意識は集中している。扉が開いた瞬間にダイがその顔を確認して小さく頷く。


 間違いない。あの瞬間移動した侵入者だ。

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