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「燃え尽きる前に使わんと、効果切れるで早い方がええよ」

 ルナに事情を話すと、案外すぐに承諾の返事をしてくれた。


 こっそり自分たちだけで解決する、ということに賛成らしい。


 主人に許可を取らないという考え方は召喚獣や契約精霊としてはあまり良い判断とは言えないが、白亜自身が配下のことに関しては放任主義なのもあって結構自由である。普通はチコとジュードのように常に一緒に生活するものなので、好き勝手動く配下は他所から見れば異常事態だろう。白亜は特に気にしないが。


 白亜の場合は配下の人数が多すぎるというのもある。召喚獣をずっと召喚しっぱなしなのも異常事態なのは間違いない。一般的な召喚士は必要に応じて契約している召喚獣を一時的に喚び出すくらいで、ダース単位でポンポン召喚することはないのだ。そんなことをしていたら確実に魔力が足りなくなる。


 一応ダイ達も高位存在なので喚び出されなくても勝手にこの場に留まることはできる。最悪白亜の魔力なしでも全員喚び出すことは可能だ。ただ、とりあえず今はダイ達の負担が増えるので白亜が普通に召喚している。


「いつまでも甘えている訳にはいかないからのぉ……」

「シュナの周りは相変わらず変わっとるなぁ。精霊もそんな考え方か」

「妾は特殊よ」


 ルナはキキョウと違って古くから存在している精霊だ。


 白亜の魔法の偶然で生まれたキキョウはかなり若い部類に入るので、考え方の違いはハッキリと出ている。


「特殊というか、ただの老獪ではないか」


 ダイがボソッと呟く。その呟きが聞こえたらしいルナが鼻で笑い飛ばした。


「妾より古い世代のジジイに老獪などと言われたくはないわ」

「そう変わらんだろ?」


 正直ダイもルナも何年生きているかなど記憶にないのでどちらが年上なのかはさっぱりわからない。


 【何年も生きていれば歳なんてどうでも良い】とはエレニカの言だが、この二人もそうなのだろう。エレニカに関しては桁が違うので別次元だが。


「まぁまぁ。それで、ルナさんに手伝いお願いしたいんやけど」

「そうか、本題はそれだったのぅ。何をすれば良い」


 これ以上口喧嘩に発展されても困ると感じたヴォルカの遮りにルナもあっさり引き下がる。もともとダイとの軽口の叩き合いは挨拶みたいなもので、別にそれほど深刻な間柄でもない。むしろ割と仲は良い方である。


「これに触ってくれへんか?」


 ヴォルカは先ほどまで使っていたカードとは別の、少し茶色がかったカードを取り出した。いつも使っているカードは表面に文字などが書かれているが、このカードの表面には何も書かれていない。


 ルナがそれを摘むと、ゆっくりと手から火が燃え移ってカードの真ん中に穴が空く。だが何故かそれ以上延焼せずに穴の周りだけが燻っている状態になった。じわじわと穴が燃え広がっているが、その速度はかなり遅い。


「この状態で穴を覗くと、さっきより遠くを見えるんよ。ルナさんが見れば、もっと細かく見えるはずや」


 ヴォルカに渡されたカードを使って穴を覗くと、先ほどまでよりハッキリと魔力を捉えることができる。ダイはこの現象に覚えがあった。


「これは……精霊の目(・・・・)か? 随分と懐かしい技術だな」

「なんや知っとったんか。まぁ、儀式もない簡易版やから持続時間は短いし、正確性も劣るんやけど」

「こんな手軽にできるのならあんな大層な儀式も要らないだろう。凄い技術力だな」


 精霊の目とは、満月の夜にのみ行える精霊魔法の一種で現代にはそのやり方が残っていない。効果としては『隠れてしまった精霊を見つけやすくなる』というもので、月に一回しかできないのに儀式がやたら面倒なものとして有名だった。


 だが、仮契約を主として使う精霊魔法使いにとって『周囲に精霊がいない』という状況は戦力が半減するどころではない状態になる。そのため如何に早く必要な場面で仮契約をするかというのはとても重要なのだ。精霊は臆病な個体が多く、隠れられてしまうと見つけるのは困難である。


 その時に精霊の目の魔法を自分にかけた状態であれば精霊の魔力を見分けることができるので、どこに隠れていてもある程度近ければ簡単に見つけることが可能だ。今回の場合は、精霊ではなく人探しなのだが、魔力を見るということに関してはこの方法が一番手っ取り早かった。


「それでは追ってみるか、この魔力を」

「燃え尽きる前に使わんと、効果切れるで早い方がええよ」


 ただ、流石に配下総出で出て行ってしまえばハクアの街の守備がゼロになるので、今回はダイとヴォルカ、ルナの三人だけでとりあえず様子を見に行くことにした。


「レイン、暫く頼んだ」

「……はい……。行ってらっしゃい……」


 一人ではないとはいえ、レインはまだまだ気分的には半人前である。一人任されるという状況は不安なのだろう。いつも以上にボソボソと喋っている。だが、防衛に関してはレインが頭一つ抜けて優秀なのだから頼らざるを得ない。これが白亜ならさらっと引き受けるだろうが、レインはいい意味でも悪い意味でも白亜の要素を引き継いでいるのに性格はあまりにも違うので扱いが難しい。


 仕事はちゃんとこなすので文句はないが。


 不安そうなレインを残しルナの案内に従って謎の魔力を追う。魔力がどこにあるかは、なんとなくでしかわからない。見逃さないように気をつけながら文字通り飛んでいく。


 ヴォルカは龍の姿に戻ったダイの背に乗っている。正直体の横幅が細い上に鱗が硬く、乗り心地は非常に悪い。


 ルナが立ち止まるまで、およそ30分のフライト。


 ヴォルカは完全に乗り物酔いで気持ち悪くなっていた。

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