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「新入りさんだったんか」

 暫く周辺を捜索したが、結局どこに行ったのか見つけることができなかった。


 麒麟(ヴィント)ら足の速い追跡を得意とするメンバーが警戒していたのにも関わらず逃げ切るなど、一体どんなトリックを使ったのだろうか。


「どう、します……? もう霧にも……何の反応もありませんが……」


 レインの霧は森全体を覆っている。ハクアの街の中にはあまり入り込ませていないが、そっちは白亜本人が居る。面接に集中しているとはいえ、侵入者に気付けないはずはない。


 もう森から出たと判断するべきだろう。これ以上は街道警備の方が手薄になってしまうのも困る。ダイは数秒考えて、捜索が得意なメンバーのみ侵入者探しを続行することに決めた。


「レイン、白亜に気付かれないくらいで少し濃いめに霧を張ってくれ。何かあれば連絡を」

「わ、わかりました……」


 レインの霧を強めに展開し、森の警備を再開する。ダイも森の中を歩いて見回るが、特に変わったところは見つからない。侵入者達が入ってきた時はすぐに気付けなかったので、何かを設置されている可能性がある。木に目印でも彫られていたら迷わせることが難しくなるので大事な見回りだ。


 それから少ししてダイへレインから連絡が入った。


「レイン、また奴らか?」


 先ほどの侵入からそれほど時間が経っていないのでダイの緊張感が高まる。


『あ、いや……知ってる人……えっと、会ったことは無いんですけど……』

「知ってる人? 誰だ」

『ヴォルカ・リンブリッジ……シュリア・ファルセットの友人、です』

「ああ、彼か」


 白亜の過去の姿、シュリア・ファルセットが所属していたルギリア傭兵団の団員。シュリアの魔法によって現代に飛ばされてしまったヴォルカと団長のルギリアは今リグラートの王都に住んでいるが、たまに遊びにくるのだ。


 いつもは二人一緒に来るのだが、今回はなぜかヴォルカ一人である。レインは白亜の知識を持っているのでヴォルカの事は知っているが、初対面なのでどう接したらいいのか迷ったためにダイに連絡をしてきたらしい。


「わかった、とりあえず行こう」


 到着すると、極度の人見知り故かまともに会話できていないレインとやたらとオドオドした見ず知らずの相手に道を塞がれて若干困っているヴォルカの膠着状態が続いていた。


 白亜も状況を伝えるのが場合によっては下手なので、変なところが似てしまったものである。白亜の場合は『やろうと思えば説明もできる』のだが、如何せん物事が自分基準になりやすいので『一を聞いて十を察せよ』をナチュラルに他者に求めてしまうために問題が起こることがある。


 レインも白亜相手ならもう少しスムーズに話すことができるのだろうが、残念ながらいまだに難しいらしい。


 ジリジリと近寄ったらヴォルカがダイに気づいた。少しホッとした表情が浮かんでいる。


「ダイさん! この霧は何が起こっとる?」

「これはそこに居るレインの魔法だ。高性能な探知を得意としている」

「新入りさんだったんか」


 ダイの背に隠れながらヴォルカに向かって軽く会釈をするレイン。まだまだ初対面の相手との会話は苦手らしい。


「それで、ここまで警備が厳重なんは何かあったんか?」

「ああ、つい先ほどのことなのだが……」


 ダイは先ほどの謎の人物のこと、白亜達の面接を邪魔するわけにもいかないのでこの場の全員で騒動は収めたいこと、今日の面接の日取りはほぼ全世界にバレてしまっている(白亜がギルド経由で募集要項をばら撒きすぎた為)こと、その結果今が一番手薄だと外部に漏らしているに等しい状況であること。


 白亜の配下達全員が本気を出せば白亜の索敵を上回る事は難しいことでは無いが、白亜はすべての能力がとんでもない高水準であるが故に初動が異常なほど速い。シアンという最強の助っ人がいるという事も大きく、状況把握に長けていると言っていいだろう。


 怪しい人物が動き出したら、何かをする前に察知して捕まえる事すらできてしまう。


 そのことを知らない者はいない。ハクアの街は陥落不可能とすら言われているほどだ。


 他国や嫉妬に駆られた貴族が攻めてくる可能性は十分に理解している。


 白亜がいなくてもしっかり防衛できる、と白亜に伝えたかったところなのだが逃げられてしまった。白亜なら相手が逃げる前に使えることができていたのだろうか。


 ヴォルカはダイの話を聞いて軽く頷いた。


「それでこんな厳重警戒か……色々大変やなぁ」

「それはそうだな……」


 大変であるというところは否定できない。


「そんなら、魔力追ってみよか? 途中までしか追えんかも知れんけど」

「そんな高度なことができるのか?」


 たまに白亜が魔力を見分けて誰がどこにいるのかを導き出したりしているが、あれは白亜だからできることである。一般的な魔法使いではそこまでの技術力を持った人はかなり少ない。


「これでええか?」


 ヴォルカが懐から取り出したカードを地面に置くとそこから煙が吹き出し、ゆっくりと風に逆らって広がっていった。やがて煙が一本の糸のように収束すると何処かへ流れ始めた。


「これで追える! 感謝する!」


 ダイはそのまま煙を追って何処かへと走って行ってしまった。


「……すごい速さで行きよったな」


 その場にレインとヴォルカだけが残された。少し気まずい。


 レインは地面に置いたままのカードをじっとみて、恐る恐る尋ねた。


「あの……これ……魔法じゃないん、ですよね」

「せやな。厳密に言えば魔法やない。ただ、これに関しては未だによくわからん。仕組みも結構謎や」


 実はヴォルカ自身、このカードがどんな仕組みで動いているのか微妙にわかっていない。複製する事もできるが、原理をはっきり認識していないので新しく作るのはかなりの時間を要する。それでもなんとなくの理解で作れてしまうあたり、ヴォルカも十分天才なのだ。

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