正式な冒険者に!
「ハクア君。おはよう。もう終わったの?」
『はい。なんとか』
「一日寝てたから体が妙に固いんだよな……」
腕や首を回すと、コキコキと骨のなる音がする。
「大変だね……」
「まぁね。シアンにはもう少し我慢して貰うよ」
手首にまで来ていた模様は今は肩までになっている。シアンは直ぐに書けるようにしたいのだろう。
「これにもちょっと細工したんだよ」
「あ、貰ったやつ?何をしたの?」
「破壊防止と、格納強化」
「凄いね……」
それをあっさりやってしまう白亜に驚きだ。
「ジュードは?」
「今日はまだ会ってないかな」
ジュードの事だから寝過ごしてはいないだろう。
「ん。ジュードの声があっちから聞こえる」
「え?どこ?」
「外じゃないかな」
「よく聞こえるね……」
軽く数百メートルは離れている。
「行きますか」
「そうだね」
「おーい」
「あ、師匠!」
「白亜か」
ダイとジュードが向かい合って構えをとっていた。今まさに模擬戦をしようとしていたのだろう。
「師匠!ちょっと見ていてください!」
ジュードとダイの模擬戦が始まった。互いに素手。背の高さは殆ど変わらない。
ジュードの蹴りを冷静に見極め、ダイが軽く横に動くことで回避する。そのまま鳩尾に向かって拳を突き出すと、ジュードは伏せて回避し、その動きづらい体勢のまま回し蹴りの要領で攻撃しながら起き上がる。
ダイは一旦距離をおき、走って死角に飛び込み体当たりをする。
ジュードは避けられないと判断し、反対側にわざと飛び上がることで勢いを殺す。その瞬間、ダイが抱き付くようにジュードにくっつき、頭突きを喰らわせる。
モロに喰らってしまったジュードは飛んだ状態から体勢を立て直せずに地面に倒れ込んだ。
「それまで!」
白亜の合図で終了した。ダイは直ぐに立ち上がったが頭突きのせいで目眩がするのか、ジュードはそのまま倒れ込んでいる。
「師匠……いまの、なにが悪かったですかね」
「そうだな……あそこで後ろにバックするよりーーー」
白亜の師匠らしい一面だが、特にここには気にする人は居ないので他の全員はスルーする。
「ーーーだ」
「ありがとうございます。あ、師匠。終わったんですか?」
『はい、終わらせました』
「おおー。良かったですね師匠」
これでやっと半袖を着れるぞ、と。残念ながら今は冬場だ。
「朝食食べに行きましょう」
「ん。そうだな」
「私お腹すいたなー。メニューって何だったっけ」
後ろから白亜を見つめるダイ。そこにルナが合流した。
「ダイ。気付いておるか?」
「うむ。日に日に強くなっている。あれでは……」
「外に出した途端判る奴には直ぐに気付かれるの」
「困ったものだな……」
ダイとルナはゆっくり歩きながら話している。たまに床につまづいているが。
「あれでは自分の居場所を当ててくださいとでも言っているようなものだな」
「妾達では隠しきれんの……シアンも頑張ってはいるが」
「悪運がこんなところにも回ってきているのか?」
「それは肯定しがたい。確かにあれほどの悪運持ちはそうそういないがの」
「白亜は気付かぬだろうし、某等もこれ以上は……」
「どうにもならないからの。喩え白亜に告げてもどうにも出来ぬわ」
「あって困るものでは無い筈の物なのだが……」
二人はゆっくりと食堂へ歩いていく。これからの事を心配しながら。
「今日からどうしますか?」
「そうだな……もう一応ギルドの方には連絡入ってるんだよな?」
「うん。もう今すぐにでも冒険者始められるよ」
「そっか」
白亜はパンをチビチビと食べながら内心で考えを纏める。
『もう行った方がいいかな?なるべく早い方がランクも上がるし』
『悪目立ちはするかもしれませんね』
『そこなんだよな……』
ジュードはハーフエルフなのでこの年でも大人に見えるのだが、白亜とリンの場合完全に子供にしか見えない。白亜は幻覚魔法で何とか出来ないこともないが、リンはどうにも出来ないのである。
「どうする?」
「私冒険者やってみたい!」
「僕もやってみたいです!」
残りの二人はヤル気満々だ。
「そっか。じゃあ後で支度して……10時にジュードの部屋でどうだ?」
「「はーい」」
10時少し前に全員が集まる。
「さて、行こうか」
「うん!楽しみ!」
「初仕事ですね!」
「そんなに良いものでも無いけどな……」
白亜がそんなことを呟くも二人には聞こえていない。
「おおー」
「なんかすごいね、ジュード!」
「チコ。あまり飛び回らないようにね」
ギルドに入った途端、何となく嬉しそうな声色になるリン達。
「っと、パーティ組まないとな」
「そうですね」
パーティ申請用紙を取りに行き、早速書き始める白亜。それを横から見るジュードとリンとチコ。白亜配下組は既に依頼ボードの前だ。
こうしてみてみると、兎のぬいぐるみを鞄に入れた女の子とその兄弟の銀髪の男の子、その様子を横から見守る兄か、かなり若い父。といった感じだ。
ーーーーーーーーーー
―パーティ名―
光の翼
―パーティメンバー―
ハクア・テル・ノヴァ
ジュード・フェル・リグラート
リン
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何故光の翼なのか、それはジュードが好きな言葉だからである。意味がわからないがこれで良いらしい。
「よし」
提出したときに男性職員に明らかに怪訝な顔をされた。子供のお遊びとでも思っているのだろうか。ジュードに提出させた方が良かったのではと今更ながら思う白亜。
「ギルドカードの提示をお願いします」
各々がギルドカードを出す。
「ランク1が二名、13が一名……13!?」
「何か問題でも?」
「い、いえ。何でも。それではパーティ編成を開始しますので少々お待ちください」
ただボーッと待つ白亜。何を考えているのか判りづらい。いや、なにも考えていないのだろう。
「お待たせしました。確認をお願いします」
受け取ってパーティ名を確認する三人。すると受付の後ろから男性が出てきた。
「ランク13の小僧って言うのはお前か?」
ジュードをじろじろ見る。
「あ、僕じゃなく、そこの……」
「白亜です。ランクは一応13ですが」
「はぁ!?今まで何処でランク上げしてたんだ!?」
「シュタウツストとかですね」
「ふーん」
白亜を舐め回すように見る。
「いいだろう。来い。後ろの二人もだ」
良くわからないまま奥に連れていかれる。そこは闘技場だった。ランクアップや試験がここで行われる。
「先ずはそこのランク1の奴!俺と戦ってみろ。強さに応じてランクを上げてやる」
「え?あ、はい」
ジュードは練習用の両手剣を持ち、斬りかかる。初見殺しと言われるもので、予備動作が少なく、そして何より速い。一撃必殺と呼ぶべきにふさわしい物だろう。
今回は、少し相手が悪かった。
この人は元17ランク冒険者。一流の中の一流だ。普通の人には見えないほどの速度のそれを左手の盾で弾く。ジュードはそのままの体勢で無理矢理反対側に剣を振るう。
一撃を逸らせば良いと考えていた男性職員は、それに対応しきれなかったが、何とか盾で防ぐ。そのまま衝撃を逃すように後ろに下がってから今度は男性職員が踏み込む。
ジュードは体勢を立て直しきれずにそれに応じ、なんとか弾いたものの地面に倒れこむ。そのまま上から降り下ろされた剣を転がって避け、剣を構え直す。と、男性職員が剣をしまった。
「これでいい。お前は今日から10ランクだ」
「え?あ、ありがとうございます」
白亜達は誰一人と理解ができていない。何故突然模擬戦が始まったのか、ランクが上がったのか。
「次はそこの小娘。お前だ」
「え?でも、私魔法使いですよ?」
「構わん。キャンセルしてやるから思いっきり撃ってこい」
リンは白亜を見る。
「良いんじゃない?この前の試験でやったやつをやれば」
「う、うん。判った」
杖を取り出す。持ち運びがしやすい小型タイプだ。魔力を練り上げ、言葉として魔法を完成させる。
「水よ。私の意に従い汝の形を変えよ。汝の前に立ち塞がりし者はその圧倒的な力の名の元に全てをねじ伏せるが良い。汝には力は無くとも全て私の魔力で支えよう。水演舞!」
リンの造り出した魔法はリンを中心として数百個の水の塊を生成した。その瞬間、各々が複雑な軌道を描きながら男性職員に向かっていく。
「でりゃああああ!」
リンの魔法がキャンセルされた。しかし、キャンセルされたのは全体の3分の2程。残りの水の塊は防ぎきれず、幾つか体に当たって男性職員が吹き飛んだ。
「ご、ごめんなさい!つい……」
「いや、合格だ。お前も今日から10ランクだ」
「あ、ありがとうございます」
かなり消耗しているように見えたが、非殺傷魔法のお陰ですぐに回復した。
「最後は小僧だ」
「休憩は取らなくても問題ないですか?」
「そんなもんいらん。早くやるぞ」
白亜はジュードに村雨を渡して、念のために懐中時計も渡しておく。
「片手剣二本?両手剣では無いのか?」
「あの剣は少々特殊でして」
「ふん。さっさと始めるぞ」
その瞬間、白亜が消えた。と思ったら男性職員が真横に飛び退いた。そこに白亜の右手の剣が突き刺さり、轟となった後、小さくクレーターを作る。
「避けられるとは思いませんでした」
ボソッと呟く白亜だが、それを言っている間にも次の動きに入っている。転がった男性職員をその方向に蹴り飛ばすと、体勢が整いきっていなかった男性職員はなす統べなく吹き飛ばされ、壁に激突した。
「ぐ!」
「あっと……やり過ぎた……」
もう大分後の祭りである。
「えっと、大丈夫ですか?」
「問題ない。お前は今日から15ランクに昇格だ。更新するからさっさとカードを寄越せ」
言われたままにカードを出す三人。男性職員は悔しげな表情を隠しながら奥へ歩いていくのだった。




