「逃げ出さずに話を聞いてくれれば良いが」
ダイは霧の中を迷いなく進む一団の周りを取り囲むように他の召喚獣達に指示を出した。
相手の力量がわからないので、慎重に遠くから近付くように伝えることも忘れない。
「麒麟とスレイプニルは側方、前方をヨルムンガルドとバハムート、後方をフェニックスとレイスで囲め。逃走を図った場合は麒麟とレイスで尾行する」
両脇を足の速い二人で押さえ、機動力のあるフェニックスで退路を塞いだ上でもし逃げられた場合のために隠密性の高いレイスで後方を見張り、戦闘になった場合を想定して正面からは火力の高い二人で押し切るつもりらしい。
一応ダイはリーダーなので、こういった場面では指揮を取る側に回ることが多い。
ジュードがいたらジュードの仕事になることも少なくないのだが。
「どう……します? もう少し、霧を濃くしますか……?」
ダイの指示を横で聞いていたレインが提案する。
確かに相手に気づかれないように包囲網を築きたいのなら、視界を奪ってしまった方が楽である。
包囲が完成する前に気付かれてしまえば効果が激減してしまう恐れがあるからだ。
「いや、とりあえずはこのままで良い。今の状況も危険かもしれないが、他の侵入者がきた場合はそちらも対処しなければならないからな。霧が濃くなればこちらの視認性も多少落ちてしまう」
「じゃあ……このままで」
「うむ。そのまま頼む」
そうこう話している間に包囲が完成した。
どうやら相手には気付かれていないらしい。
「レインの霧を抜けられるわりには、気配の察知にはあまり敏くないようだ」
「そう、ですね……あんなに近付いているのに」
包囲網はかなり小さくなっている。霧がなければとっくに視界に入るくらいの位置にはいるだろう。
ここまでの距離だと、目に見えなくとも生物の気配を感じることは上位の冒険者などであれば其れ程難しいことでもないのだが、いまだに気付かれていない。
レインの霧という『油断していれば白亜でも引っかかる』罠をサクッと抜けて来られているわりには周囲を探索する能力はほとんどない様子だ。
どこかアンバランスさを感じる。
「あ、接触しますね……」
「逃げ出さずに話を聞いてくれれば良いが」
横と後ろを他の召喚獣達が囲っていることを確認してから正面の二人が相手に話しかけた。もちろん何をされるかわからないのだから警戒は怠らず、後ろ手で武器を握っている。
レインとダイが遠くから観察をしていると数度何かを話した直後、突然相手の姿がかき消えた。
「「!?」」
状況を確認してから即座にレインが霧を使って辺りを探り、ダイは麒麟に周辺を捜索するように指示を出した。
レイスも自身の能力を使っているみたいだが、結果は芳しくなさそうだ。
「フェニックス、何が起こった!」
「こちらも何が何やら……ただ、ハクア様が使用される転移魔法とは少し違うような感じがしました」
「転移ではないのか? まぁ、だとしたら運がいいことを願うしかないな」
一瞬にして姿を消す方法は、基本的に『隠れる』と『逃げる』くらいしかない。前者であれば周囲を探せばいつか見つかるだろう。面倒なのが後者のタイプだ。
白亜がポンポン使っているので解りにくいが、もしも転移魔法であるのなら非常に厄介である。
単純に警備の隙間を簡単に抜けてしまえるということなので、警備の手厚さを売りにしているハクアの街はそれだけで結構危険だ。
運がいいことを祈る。それは『転移魔法ではない移動方法』があるかないかで大分変わってくる。
白亜以外の人物が転移魔法を使いこなしていたら、かなり危険な人物になってしまう可能性がある。
白亜はどうでもいいので無視することが多いのだが、普通なら転移でもできるのならどこかの王城なり倉庫なりに紛れ込んで色々盗んだ後に逃げることだって難しいことではない。
もし好き勝手に移動できる系の能力であったなら、防衛が全く意味をなさなくなってしまう。
魔法でないことを祈るばかりである。




