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「……はい。霧の効果はかき消されているみたいで」

 白亜が屋根裏で必死に情報集めをしている頃、ハクアの街の外ではダイとレインが神妙な面持ちで話をしていた。


 今回の採用はかなり大規模で宣伝してしまったので周辺諸国に知られてしまっている。


 しかも書類選考で通った人数があまりにも少なかったために『誰が一次に受かったのか』を隠すことはほとんど不可能であった。


 その結果、今日この時間で面接があることは周知の事実になっている。


 ハクアの街は主に娯楽施設で運営されており、それはこの世界ではかなり珍しい場所だ。そもそも、毎日休みなく仕事をして何とか食いつないでいる貧困層も少なくないこの世界で『娯楽』は相当な金持ちの特権とすら考えられている。


 街一個分の規模で展開するのには、利益が釣り合わないことは容易に想像がつくのだ。


 だがそれでもハクアの街は大成功を収めている。その理由はいくつかあるが、そのうちの一つに「もともとの資金がかなり潤沢に用意できた」ところがあるだろう。


 商売に関してはあまり詳しくない白亜達だが、単純な戦闘力がずば抜けている。街を作るまでの冒険者業で一財産を築き上げているのは言うまでもない。平均的な冒険者の年収を数日、下手をすれば数時間で稼いでくることも簡単だ。


 そこまでの金があったので多少の損は軽く受け流せるくらいの余裕がある。


 最初から稼げるとは思っていなかったので、赤字がある程度続いても損切りをしなかったのである。その結果、口コミで街の噂が広がり多くの観光客が訪れるようになった。大国の国家戦力並みの人員がたった一つの街を守っていることから王族でも安心して旅行できる、というのも大きかったのだろう。


 街の防衛に関してはどの国よりも強固なのだから。


「レイン、見つけたのは?」

「街道沿いの……三十八番倉庫の近くにいます」


 ダイが薄い霧の中で双眼鏡を構えていた。


 この霧はレインが能力で作ったもので攻撃力などは皆無だが『どこに何があるかの把握』と『中にいる者を意図的に迷わせる』ことができる。


 非正規ルートでの侵入者を見つけ、追い返すのがレインの仕事だ。


 普段なら勝手に入ってきた人は霧で迷わせてやんわり送り返すのだが、今回は少し状況が違うのである。


「あの五人組か。間違いなくこっちに近付いてきているな」

「……はい。霧の効果はかき消されているみたいで」


 いつも通り霧を使って侵入者を追い返していたレインだが、なぜか霧を意にも介さずにまっすぐ進んでくる一団を見つけたのだ。


 レインの能力をさらっと受け流しているあたり、相当な実力者であることは間違いがない。


 この霧はレインという神が展開している特殊なものである。並大抵の人間ではどうにもできないはずだ。


 ただ、レインも本気を出している訳ではないのだから、全力で霧を展開することができれば追い返すことも可能だろう。だが、今回に限ってはそれができない理由がある。面接だ。


 面接の最中に濃霧を発生させようものなら、何かがあったと判断した白亜やジュード達が面接を中断してしまいかねない。そうでなくとも白亜のやっていることの邪魔をしかねないのだ。白亜の能力は『万物の声を理解する』ものである。


 動物も人も植物も空気も関係ない。ただそこに在るだけで白亜は声を聞けるのだ。


 だが、その能力も一長一短で『声を聞ける』能力が無差別であることが厄介でもある。


 どんなものからも情報を得られる一方、周囲に物が増えると一気にそちらの声を拾ってしまう。霧を発生させればそちらの『声』に反応してしまうかもしれない。


 そう危惧するが故にあまり強い魔法を使えないのだ。


「ただ、かき消せるのは……一人だけ……みたいです。周りが迷いそうになると止めてるので……」

「そうか。では厄介なのは一人だけなのだな?」

「おそらく……」


 レインの能力を突破できる相手となると、国のトップクラスの実力者でもおかしくない。


 白亜配下の召喚獣達の中でもレインの『惑わし』に抗えない者もいることから、配下と同等レベルの強さがある可能性もある。ただ、これに関しては相性もあるので単純な比較はできないかもしれないが。


 どちらにせよ対処しないわけにはいかない。今尚街道から逸れた場所でありながらもまっすぐに街へ向かってきているのだから。


「どうしますか……? 報告、します……?」

「いや、とりあえず可能な限り対処してみよう。こうなることは予想できたのだから、準備はある。白亜がいない時もしっかり守れるのだと示さねばな」


 最近白亜からの扱いが雑になってきていることを感じているダイは何とかして名誉挽回をはかりたい。


 これに関してはダイ以外の召喚獣達全員が同じ思いである。


 正直、白亜に出会う前は戦闘力に自信があった面々なので防衛や探索などはあまり練習してこなかった者が多い。実際に彼らは大抵のことは自分の戦闘能力で何とかしてきたのである。


 だが、白亜という圧倒的なまでの戦力を見せつけられて『これには勝てない』と全員納得した。その結果、唯一磨いてきた戦闘力という力が見劣りする魅力になってしまったのだ。


 白亜が動いた方が良くも悪くも物事がものすごい速さで進むので召喚獣達は自分達の存在意義を何とかしてアピールしたいと考えているのである。


 今回の件で『白亜とジュード、リンがいなくてもしっかり防衛ができる』ということを内外に知らしめたい。召喚獣達は張り切っていた。

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