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白亜は学校卒業しました!

 静まり返った講堂内で、白亜はいつ立ち上がるか、タイミングを見失っていた。


『どうしよう。これは、どういう状況?』

『初めてです。今まで獣神が二つ名を授けるだけが普通だったのに、マスターが本当の意味で名を戴いたので』

『良くわかんない』

『ああっ!下に魔方陣が!解析しますね!』


 シアンが早速引き込もってしまった。


 良いのかな……とか思いつつ、ゆっくり立つ白亜。ちらりと横目でジュードに助けを求めるが、ジュードは先程まで獣神が居た場所を見つめ続けているのでこっちを全く見ていない。


 完全に卒業式がストップしてしまった。


『これは……どうするのが正解なんだ』


 誰も動けない状況に陥ってしまった。


 魔法使いの女性が動き始めたを境に、止まっていたような時間が動き出す。


「ハクア。いや、象徴の灯のハクア・テル・ノヴァ。これからも精進するように」

「は、はい!」


 学園長が機転を効かせて何とか式を再び動かし始めた。


 これで、白亜の卒業式が終了したのだった。


『な、なんか最後なのに色々と腑に落ちない……』


 良く判らないまま二つ名と苗字どころかミドルネームまでつけられてしまった。





「あれは一体何だったんだ……」

「師匠は獣神の名付け力の強さを知っていますか?」

「ん。そう言えばよく知らないな」

「一番下がミミズで、一番上が獅子です」

「ミミズ……」


 獣神は様々な種類がある。それは覚えきれないほどだが、二つ名を付けるために呼ばれるので逆に足りないほど。百獣の王のアルビノ個体が一番上なのは判る。


「二つ名を付けると、その人が精霊に信頼されているという事になります」

「ジュードの武の王も?」

「はい。僕の時は馬の獣神でした」


 へぇー、と適当に相槌を打つ白亜。


「それでですね。二つ名以上の名をつけられた例は無いんです」

「無いんだ」

「あっさり言いますね……」


 普通ならとんでもないことだと話題になるが。


「とにかくハクア君は凄いんだよ」

「なんか判らんけども……」


 結局、白亜は凄い。で、纏まってしまった。それでいいのか。


「シアンも早速解析に勤しんでるし」

「そうですか……」


 こうなってしまうと非常時以外は白亜が呼び掛けても無視する。主人ガン無視だ。


「んー。よく判んないけど、要は俺は今日からハクア・テル・ノヴァなんだよな?」

「そうですね」

「名前変わりましたーってギルドとかに言わなくていいのか?」

「多分大丈夫ですよ。ギルドカードを見てみてください」


 ギルドカードを見ると、名前の横に『象徴の灯』、名前がハクア・テル・ノヴァに変わっていた。何時の間に。


「ん?かわってる」

「獣神の名前付けはその人の魂に刻み込むものとされていますので、名前を授かると自動的に変わるんです」

「おおー」


 ギルド技術はかなりの物だと思い知った。





「これからどうする?」

「冒険者ですね。今日から」

「うんうん」


 今日から一週間はジュードのしろに厄介になるのだが、そこから先が未定だ。


「どちらにせよ俺は明日動けないしな」

「どういうことです?」

「シアンが節操なく書きまくってるものだからもう面積がなくて。ほら」

「あー。手首まで来てるね……」

「これを何とかするために明日一日寝続けなきゃいけないらしい」


 白亜にとってはかなり辛い一日だ。


「皆は明日は好きに過ごそう」

「はい」

「うん」

「そうですね。シアン様がそれを終えるまで私達何も出来ませんし」

「ふむ。そうだな」

「妾は前々から気になっていた菓子店に行きたいの」


 こうして次の日一日は白亜は強制的に睡眠、他の皆は休日となった。白亜、不憫すぎる。





「今日はどうしようかな」


 ジュードに用意してもらった客間で目を覚ましたリン。最近休日続きだな、と思いながら街にいく準備をする。


「サクラちゃんも連れていこうかな」


 肩掛け鞄の中から兎のぬいぐるみの顔が出る。


「お出掛けお出掛け」

「リンさん。街へ行くんですか?」

「そうだけど、どうしたの?」

「いえ、最近物騒な噂が」

「え、なにそれ」


 最近多発している女の子の誘拐事件。丁度リンぐらいの女の子が狙われやすいとか。


「怖いな……」

「僕でよければお付き合いしましょうか?」

「え?うん!お願い。ジュード君が居てくれたら安心だよ」




「どうかな?」

「可愛いよ。そのリボンって」

「うん。ハクア君が付けてくれたの」


 以前白亜と王都を回ったときの服だ。またリボンを付けている。


「それじゃあ行きましょう」

「うん!」




 王都は何時もより数倍賑わっていた。


「凄い人だね……何があったの?」

「もうそろそろ春祭りだからね。それの準備じゃないかな?」


 王都で行われる祭りの中でも一番盛り上るのは春祭りだ。夏ではない。


 国王が他国からも人を呼ぶらしく、例年よりもずっと賑わうと思われている。


「春祭りかぁ。皆で来ようね!」

「そうですね。師匠は最初は面倒くさがると思いますが」


 二人の頭のなかで、『んー?春祭り?ちょっと面倒だな。俺パスしていい?』と言う白亜が脳内再生された。同じことを本当に白亜は言うだろうが。


「まぁ、そうなったら引き摺ってでも連れていけば良いんですよ!」

「ちょっと強引だけどね」


 クスクスと笑い会う二人。


「今日って買うものは決まってますか?」

「うん。この前使ってた投げナイフ用のフックが壊れちゃって」

「それならあっちの雑貨店ですね」


 投げナイフ用と言うのに雑貨に分類されるのか。そこは武器に入らないのか。いまいち判らない。




「いらっしゃいませ」


 雑貨店に入る二人。白亜とリンの雰囲気がカップルとすればこの二人は幼馴染みだろう。カップルには見えない。白亜とリンの場合は、白亜が全く意識していないせいで距離が近すぎるのが原因なのだが。


「これですかね」

「あ、これ可愛い」


 スペアのフック等も購入し、序でに色々露店を見て回り、かなり充実した休日を過ごしたようだ。





 白亜サイドでは、動け無い白亜がただただ眠っていた。と言うのも、体の魔方陣を書き直すにはシアンが出てくる必要があり、その時は白亜の意識は完全に無い。


 ただ寝ているように見えて、シアンが相当頑張っているのだ。


 その証拠に、白亜の体の模様は刻一刻と変化し続けている。今まではただ黒い幾何学模様が入っているだけだったのが、徐々に整頓されて美しいと表現できるような物になっている。


 白亜の隣にはキキョウが座っていて、本を読んでいた。


 ダイとルナは兵士に連れていかれた。どうやら相手をして貰うためらしい。


 普段あんな感じなので気付かないが、ダイとルナは相当強い。下級魔族くらいなら何人か相手取れる程の強さだ。


 キキョウは白亜の配下の中では実は一番弱い。シアンは論外だが。ダイとルナは経験の差で、白亜には元の強さで。誰にも敵わないことを歯痒く思っている。


 それでも十分強いのだが。


「どうやったら私は強くなれるのでしょうか……」

「難しくはありませんよ?」


 眠っていた白亜から声が聞こえる。シアンだ。


「シアン様」

「貴女もマスターのように他とは違う強さを見つけられればいいのです」

「他の、強さ」

「マスターは全て一人でやろうとします。だからたまに失敗してしまう。以前の魔族との戦いの時のように」

「私にはそんな大それたこと……」


 白亜、いや、シアンがほんの少し笑う。


「出来ます。私がお教えしましょう。マスターでも成功しなかった最高の霊術を」

「霊術……?」

「はい。霊術……今の時代では死霊術。アンデットを作り出す魔法として知られていますが、本質はその先に有ります」

「その先……」


「はい。それはーーーーーー」


 シアンの口から出た言葉は予想外のものだった。








「精霊を作り出す事です」


 精霊。それは神聖な生き物で、キキョウ程の上級の精霊ともなれば、エルフ等の精霊を深く信仰している亜人などは一瞬で土下座をするほど。


「精霊を、作り出す?」

「はい。信じられないかもしれませんが、人工的にそれが可能なのです」

「ハクア様ができなかったって言うのは……?」

「精霊が見えないので、物理的に不可能だったんです」


 見えないものを作れと言われても基本的に無理である。


「これは相当これから先役立ちます」

「それを、私が?」

「はい。キキョウ。貴女しか出来ないのです」


 ほんの少し考えたキキョウは、シアンの方に向き合い、


「やります。やらせてください」

「ふふ。宜しい」


 白亜の顔で可愛らしく笑うのだった。

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