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『ここから先、誰にも内緒ですよ?』

 オルヴァとレイン、二人はかなり仲が良い。


 休みの日に二人で街の外へ散策に出かけたりするほどである。


 そう聞くと「ただちょっと散歩に行く仲」くらいに聞こえるかもしれないが、この二人の場合は基本的に街の外に出ることすら極々稀な環境にいるのでそれでも充分すぎるほどなのだ。


 レインは単純に『外に出たいと思っていない』のとオルヴァは『下手に外に出たら色々な意味で大変なことになる』のを知っているからである。特にオルヴァは白亜の許可なしに森から出ることができない。


 ちなみに勝手にオルヴァが森を抜けた場合、おそらく白亜の監督不行き届きということになり下手をすればハクアの街が潰される可能性がある。実は案外簡単に雇ったものの、ドラゴンが街にいるというのはリスクがやたら大きいのだ。


 そのリスクをあっさり許容して街にドラゴンを放つあたり、さすがは白亜というべきだろうか。正直配下にもドラゴンはいるので(ダイの種族も大枠ではドラゴン)別に今更良い、と思っているだけなのかもしれないが。


 自分が出て行ったことによってかかる迷惑をオルヴァはちゃんと認識しているので、無断で出て行こうとは全く思ってないのが救いである。これが問題児だったら白亜は今頃日本でしか暮らせない生活になっているだろう。その場合おそらくリンやジュード、配下達は日本についてくるだろうから世界最高峰の防衛拠点が一個潰れるのは確実である。


 実はハクアの街、リグラートの防衛の拠点の一つでもある。


 これに関しては白亜はほとんど関与していない話なのだが、ハクアの街を承認するに当たって他の貴族への表向きの理由を付け足す必要が出てきた経緯がある。


 こればっかりは国王権限だけではどうにもならなかった。他の貴族からすれば急によくわからない平民が「国王と仲がいい」だけで領地までもらえるなんておかしい、と反論したいに決まっているだろう。


 本来領地とは、なんらかの功績などがあって漸く認められるものなのだから。


 それを単純に「王子の師匠」というだけでもらえるとなれば大反発があるのは間違いない。そこでジュードとリグラート国王が話し合い、ハクアの街を『有事の際の避難場所であり、最強の防衛拠点』として提案したのだ。


 森に囲まれ、容易には目的地にはたどり着けないので避難場所としては申し分ない。加えて白亜の配下たちだ。最強、と言っても過言ではない。白亜の配下の召喚獣一匹一匹が単体で国を滅ぼせる力を持っているのだから間違いない。


 ついでに言えばファンクラブのメンバーもかなりの助けになった。会員には有力な商会の娘や貴族の出の者も多くいる。彼女たちが親を説得してくれればそれだけ反発が減るのだ。娘には甘い貴族も多い。実は彼女たちの動きによって貴族からの声は想定の5分の1程の量で済んだのである。


 話は戻して、この街。防衛拠点となっているだけあって森の中にも防衛の際に使える、いくつかの小さな詰め所のようなものがある。その日の防衛担当の配下がそこで見張りに入って仕事をするのだ。


 レインが来てから配下の見張りの時間はグッと減っているが、レインでも見落とすことがあるかもしれないので基本的に誰かは森を監視している環境は作っている。基本的に侵入者であれば白亜お手製の結界のおかげで近付くことすらできないので見張りが役立ったことは殆どないのが現状である。


 ただ今日は違う。レインが休みということは配下の警備を増やしているわけで、森に出れば誰かしらと遭遇する。


 静かに二人きりで散策したいのだが、そんな環境はここにはないので諦めるしかない。レインがオルヴァにそう言うと、オルヴァが少し考え込んだ後口を開いた。


『今から少し出ましょうか』

「? わ、わかった」


 突然歩き始めたオルヴァに若干戸惑いつつも、後ろをついていくレイン。


 しばらく進むと街と森の境に辿りついた。ハクアの街は結界で囲まれているのでここから先は結界の外だ。普段はレインの力で霧をかけているが、今はすっきりと見渡せる。


 オルヴァは周りをキョロキョロと確認し、レインにそっと耳打ちした。


『ここから先、誰にも内緒ですよ?』


 オルヴァが示す先には一本の木がある。パッと見ただの周辺にあるのと同じに見えるが、よくよく見てみると少し違う。白亜の知識にもない木だ。


『幹を触ってみてください』


 不思議に思っているとオルヴァが触れと言う。恐る恐る手を触れてみると、魔力がごっそり抜け落ちた感覚がして慌てて手を引っ込める。


「こ、これは!?」

『さぁ。ただ、どうやら魔力を吸うらしくて結界もこの辺りだけ緩いんです。ほら、穴が空いてる』


 よくよく目を凝らすと、確かに結界が一部綻んでいる。白亜が珍しく失敗しているらしい。だが不思議なほどに本当によくみないと分からない綻びである。


 結界を張った白亜本人が気付かないのも頷ける。


 おそらく白亜でも言われなければ分からないのではないだろうか。


 オルヴァは結界の穴をくぐって外に出た。


「えっ、出ちゃってるよ!?」

『大丈夫です。ここは森の中、しかも抜けたのは5枚目の結界だけですよ。もしバレてもなんとかなります』

「そ、そうかなぁ……」


 オルヴァの後を続いてレインもゆっくりと足を踏み出した。


 結界を出た瞬間、土の匂いが鼻を突き抜ける。結界の中は基本的に白亜の魔力によって過ごしやすい気候になっている。冬場は季節の変化を感じられるようにわざと軽めの結界にしたりなどはするが、基本はずっと年中ほぼ同じ格好で大丈夫である。


 空気の循環などもあるが、若干人工的な感じは拭えない。基本全部白亜が操作しているので当然と言えば当然である。


 だが、レインは外特有の『予想外が起こり得る』環境が好きである。勝手に結界の外に出てしまった罪悪感はちょっぴりありつつもレインは少しワクワクし始めていた。

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