「「「どこに……?」」」
レインの服を何着か選びながらレインに街を見た感想を聞いた。
「どうだった?」
「え、えっと……皆様、とても優しかった、です。それと、いろんな物があって、面白かったです。知らないものも、いっぱいでした」
レインの知っていることは白亜の知っていることだ。街の様子は知識として知ってはいただろうが、実際に目で見て確認するのはまた別物である。
どうやら楽しめたらしい。
「あ、そうだ。ハクア君、これ」
リンが鞄から取り出したのは小さな紙袋。手渡されたそれを開けてみると、薄紫色のラベルに巻かれた小瓶が出てきた。
「これは?」
「レイン君が選んだの。お土産」
「あ、え、その……はい。僕が、選びました」
ラベルにはお湯に混ぜると花の香りがすると書かれている。つまり、入浴剤だ。
この世界では風呂というものはかなりの贅沢品である。一家に一台、なんてことが出来るのは王族くらいだ。
事実、白亜も両親と暮らしている時はバレないように森の中でこっそり風呂に入っていた。
だが、この街の中では例外である。
街全体に綺麗な水が供給される仕組みがあるために、お風呂のための配管を一軒一軒引くのは案外簡単だった。
ハクアの街での家が簡単に増やせないのも、この配管の関係がある。
街を建てる前に水を流せる管を設置した。水が届けられる範囲は決まっている。そのためこれ以上家を増やせない。
頑張ればできないことはないが、面倒くさいのでやりたくない。
ここまでの拘りがあるのは、単純に白亜が風呂好きだからである。それ以外に大した理由はない。
そんなわけで、この街の中では風呂に入ることは普通のこととされている。最初白亜が作ったのを売ったら入浴剤という物が浸透した。気づけば白亜も知らない入浴剤が売られていたりして、最近新作を見つけるのがちょっと楽しみになっている白亜である。
「こ、これは、知らないと思って……。あ、要らないのなら、別に……」
「いや、ありがとう。嬉しいよ」
なんとなく気恥ずかしい雰囲気が漂う。
距離感が、まだ微妙にわからない。
「そうだ、レイン。レイゴットと会ってやってくれないか? 一回会って、嫌なら即座に嫌だと言ってくれれば俺が飛ばすから」
「あ、あの、魔王……ですよね。え、えと……わかり、ました」
ちょっと悩んだが、案外すんなりと了解してくれた。
だが、ちょっと悩んだ時点で、あまりいい感情がないらしいということは確定だ。
「不安か?」
「まぁ、その……少し」
「レイゴットさん、変な人だけど根はあんまり悪い人じゃないから。安心して」
リンのフォローが入ったが、若干フォローし切れてない。
しかも不安なのはおそらく『悪人だから怖い』のではなく『何されるかわかんないから怖い』の部分なので変人のところをフォローしないと安心は難しいだろう。
ちなみにレインとレイゴットで戦ったら90パーセントの確率でレインが勝つ。
白亜の動きをそのままトレース出来るので、白亜の固有能力が使えない時の戦闘力と大差ない。
経験不足はあるかもしれないが、基本的に白亜の知識をそのまま持っているので大抵の相手には勝てるだろう。
神格は低いが、白亜もそれほど高くはないのでほぼ同程度である。
いくら戦っても勝てるとはいえレイゴットは考え方がそもそも少しずれている。なんか怖いと感じるのは、白亜ですらたまに思う。
物事の道理を多少無視してでも自分の探究心を満たそうとするタイプだ。そんなのに目をつけられていると知っていい思いをしないというのも納得できるだろう。
「今すぐでもいいなら今すぐ会って、嫌なら即解散。にするか?」
「は、はい……それで、大丈夫、です」
「なんか心配だから私もついてくね」
こうして白亜とレイン、リンが三人でレイゴットの居候している部屋の前に行った。
「レイゴット、俺だ」
白亜がノックをした直後、間髪入れずに扉が物凄い勢いで開かれる。扉に張り付いて待っていたと思えるくらいの速さだ。もう勢いが怖い。すでにレインは一歩下がった。
「君! 君がレイン君だね!? はじめまして! レイゴットです!」
「あ、えっと……あの、その」
レイゴットが一歩進むとレインが一歩下がる。明らかにレインが引いているので白亜が間に割って入った。
「レイゴット。ウザいの止めろ」
「えっ」
ど直球にめちゃくちゃ失礼な言葉で停止させた。が、レイゴットはこれくらい強い言葉でしか止まらないのでむしろ良いのかもしれない。
「最初に言ったが、レインが嫌がったら即解散だ。お前は機会を棒に振りたいんだな?」
「あ、そうだったそうだった。ごめんね、ちょっと取り乱して。さぁ中へ入って!」
さすがレイゴットとでも言うべきか、一瞬で切り替えたらしく部屋に入っていく。この図太さがあるから魔王なのかもしれない。
部屋の中は、非常に散らかっていた。
『これ、片付けしないんですか』
「ああ、いや……片付けても片付けても終わんないんだよね」
シアンの言葉に苦笑するレイゴット。
それもそのはず、床はほとんど本や紙に埋まって見えないし、謎の器具が所狭しと並べられているせいで机もまともに使えない。せめてもの救いは、ゴミ屋敷ではない点だろうか。リンは一瞬、白亜の研究室を連想したが口には出さなかった。ここまで酷くはないが、白亜も似たような部屋になることがたまにある。
だが、ここに関しては正直どこをどう歩いたら良いのかわからないレベルだ。
「まぁ、とりあえず座ってよ」
「「「どこに……?」」」
レイゴットの言葉を聞いて、三人同時にそう呟いた。




