懐中時計と二つ名!
「ん。朝か」
伸びをひとつして隣をみるとキキョウ達が帰ってきて寝ていた。睡眠を必要としない最上級精霊だが、睡眠は出来るときにはした方がいいのだ。
今日はいよいよ卒業式の日だ。訓練場はやはり使えないので訓練ができない。
「作って待ってるか」
適当に朝食を作っていく白亜。もう大分慣れたものだ。完成したのを早速食べ始める。荷物の整理もしなければならないのだ。特に白亜の私物は殆どないが。
「ハクア様。おはようございます」
「キキョウ。おはよう」
キキョウも座って食べ始める。相変わらず食べたものが何処にいっているのか謎である。
部屋の片付けを終え、二人でボーっとする。
「暇だな」
「そうですね」
次々と皆起き出し、何故か白亜たちに加わってボーッとする。特に意味はないのだ。
もう学校生活終わるんだな、等と考えていたらベルがなった。集合の合図である。
「さてと。行こうか、皆」
「うん」
白亜達は全員かなり容姿が整っている。そのなかでも白亜は特に美形なのだが、その白亜が美形達を引き連れて歩く様はただ廊下を歩いているだけで皆が道を開ける。
番長が凶悪すぎる顔の舎弟を引き連れてあるいていくのと似ている。実際白亜の力が怖くてそうしている人もいるのであながち間違いではない。
「は、ハクア君!」
「ん?」
呼ばれたのでそちらを見ると女の子達が大量に居た。数百人単位で。白亜以外の全員は気付いた。あ、ファンクラブか……と。
「ハクア君。私達先に行ってるね」
「え?あ、うん。判った」
一人残された白亜。女子達の視線の圧力が凄い。
「ハクア君。これ、卒業祝です!受け取ってください!」
「「「お願いします!」」」
副リーダーが持った箱を白亜の方につき出すと、後ろの全員が同時にお辞儀する。
「え?え?」
「これ、私達が集めて作ったの……貰ってくれないかな?」
視線の圧力が凄い。半端ではない。白亜に対する後ろの男子達の視線の圧力も凄い。というかまるでプロポーズしているかのような雰囲気だ。
「えっと。俺でよければ」
「「「本当!?」」」
「う、うん」
「「「良かったぁー」」」
本気でほっとしたらしい。全員の安心するタイミングが一緒なのは、似た者同士だからだろうか、統率されているからだろうか。
「今見てもいいですか?」
「どうぞ」
カサカサと包みを開ける白亜。後ろの方や前の方等の様々なアングルで録画されているのはきっと気のせいだ。
箱から出てきたのは、懐中時計だった。
「マジックボックス……?」
「判るの?流石はハクア君だね」
マジックボックスは空間魔法を物に固定することで作られる、簡単に言えば容量が半端ではない鞄の様なものだ。故に、懐中時計タイプのマジックボックスは珍しい。懐中時計自体も貴族でないと買えないものなのだ。
「こんなのもらえないよ」
「「「ハクア君のために作ったんだから」」」
こういう言葉が来ると予想していたのか、全員の声が揃う。
「でも」
「私達、人数が多いでしょ?皆で出しあってるから一人一人の負担は小さいの」
「そうそう。それに、リーダーが設計したからね」
ここにはいない、サヒュイ。白亜と付き合いがここにいる子達より断然長いので、気づかれたくないとこの場にはいない。後で水晶で確認するのだろう。
「凄いね……魔力を流せば使えるんだ」
「うん。時計タイプだからかなり魔力使うけど、ハクア君なら問題なく使えるでしょ?」
「ほんとに、いいの?」
「「「どうぞ」」」
もうファンクラブの女子達はにっこにこである。白亜のために走り回っていたので当然かもしれない。
「あ、じゃあ、お返し。足りないかもしれないけど」
白亜が両手を前に出す。そこにはなにもない。
「「「?」」」
「………気力構成。雨粒」
クリスタルのような気力の塊が雨粒ほどの大きさになって白亜の手から溢れ出る。
「おっと……なにか受けるものありませんか?」
「え?あ、じゃあこの鞄で」
そこに両手のクリスタルの粒をいれて、またそこを指差す。すると、何もない筈の場所からどんどんクリスタルの塊が溢れ出る。かなり大きい鞄が一杯になった。
「……ふぅ。割りにあわないかもしれないけど」
「これ、魔法……?」
「クリスタルなの……?」
白亜は女子達の方を見て、口元に人差し指を立てて、
「内緒ですよ?」
以前ジュードにやったようにウインクをして、悪戯をしている子供のような笑みを浮かべる。
女子達全員が一斉にノックアウトした。鼻から血を噴き出しながら。ただ、流石は副リーダー。何とか噴き出しても倒れないようにこらえて、白亜の方をみる。
「そろそろ卒業式の方にいって、ハクア君」
「はい。これありがとうございます。有り難く使わせていただきます。それは皆で分けてください」
ペコッとお辞儀をしながら走ってリン達を追いかけていった白亜を見送り、副リーダーが倒れた。
「ふむ。懐中時計か。中々いいセンスだな」
「最近ハクアが時間がわからないとぼやいておったしの」
「凄いですね、これ。師匠の名前入ってますよ」
白亜は首席だからという理由で一番前に座ることになってしまった。それでは流石にキツいとダイが進言し、白亜のパーティメンバーで一番前に陣取ることになった。
「一番前ってなんか恥ずかしいな」
「師匠なら当然ですよ」
何故か誇らしげなジュード。ジュードも白亜がいなければもしかしたら首席になっていたかもしれないという実力者だ。白亜にベッタリだから判りづらいが。
「ん。そろそろだな」
やっぱり時計便利だな、と思いつつ、視線を前に戻す白亜。その直後に講堂が暗くなる。
学園長挨拶などが終わり、何故か表彰式が始まる。卒業証書は無いのになぜかここで表彰が始まった。
しかも例のごとく白亜とジュードも呼ばれる。
どうやらこの表彰式は余興の試合の表彰だったらしい。賞状と記念品を貰う。ここで、普通の表彰式ではあり得ないことが起こった。
「ハクア。汝には二つ名を」
「へ?」
つい、反応してしまったが、誰にも聞こえないくらいの声量だったので誰も気づかない。困惑していると、奥の方からいかにも魔法使いという格好をした女性が出てきた。
「汝に愛称を授けし者よ。今ここに現れよ」
ポカーンとしている白亜を完全に置いてきぼりにして、良く判らない儀式は進む。
『マスター。そのまま動かないでください』
『え?どういうこと?』
白亜がシアンに質問した瞬間、眩い光が講堂を包む。白亜には魔眼があるのでそんなの関係なく見える。すると光の中から獅子が出てきた。しかも真っ白の。
『ライオン?いや、アルビノ個体だからホワイトライオン?』
『今追求すべきはそこではありませんよ』
シアンから突っ込まれたが、その間に光が収まっていき、周囲の人たちに認識できるようになっていく。
「獅子……獣神の中でも一番格上じゃなかったか?」
誰かがポツリという。
『え?このホワイトライオン獣神なの!?』
獣神と言うのは、精霊の一種で何故か体が獣。ダイと似た扱いで、人間にもなれるが元は動物だ。名前付けの精霊とも呼ばれ、獣神が決めた名前はそれ自体が加護を持ち、変えられない。
【中々いい魂だ……】
そんなことを白亜の目の前で呟く獣神。白亜からすると今すぐ食われるのではないかと気が気ではない。
【魔力も良い。力もある。意思の強さも……】
ホワイトライオンは少し目を閉じる。
『俺を食べようとか無いよな?』
『そんなことはありません。……多分』
『説得力がまるでない!』
ホワイトライオンは目を開けた。
【汝。今の名を述べよ】
「え、えっと。白亜です」
【ハクアか。成る程】
成る程。と言ったからにはなにか判ったのだろうか。
【それでは汝に名を与えよう】
一同に緊張が走る。白亜も違う意味で緊張が走る。
【汝の二つ名は『象徴の灯』】
「あ、ありがたきお言葉」
シアンに言われた通り膝をついて頭を下げる。
【それと、これは私個人から】
「?」
【汝の名は、『ハクア・テル・ノヴァ』】
一同が意味がわからず、呆然とする。白亜も同じようなものだったが、先程と同じ反応をすればいいのかと思い、
「ありがたきお言葉」
同じ反応を返す。
【うむ。その名に恥じぬよう、鍛練を怠るな】
「はっ」
再び光が講堂を包み込み、全員の視界が戻った時にはもう白い獅子は居なかった。




