白亜が何故戦っていたのか判明しました!
「ど‥‥‥どうでしょう」
「合格だ」
白亜は実は何も見ていない。
開始から目を瞑っていた。
故に。
「隠れて下から来ていたのに、気付かなかった」
「お見事」
白亜なりの、ハンデだったのだ。
「これで、ここから卒業だ。これから先なにかあったら俺を頼るといい。君達はこれからあいつらと戦っていくことになる。その覚悟は、あるか?」
「「勿論です!」」
「帰ってよし」
「「ありがとうございました‼」」
たった、それだけの会話だった。だが、この二人の心にはいつまでも残ることになる。勿論、白亜の心にも。
「全員、卒業したな」
「辛いのはこれからだが‥‥‥」
「だろうな。お前は此所に住むんだろ?」
「大学は中退しちゃったしね‥‥‥住むよ?」
「相変わらず、上から目線だな」
「しらん」
先輩警察官と白亜は暫し無言になる。
「‥‥‥これから、どうする?どうすればいい?」
「継承者を増やすか?」
「やめといた方がいい‥‥‥判るだろ?」
「だいたいな」
「俺はさ‥‥‥亜人戦闘機を倒しに行こうと思う」
「反対じゃなかったのか?」
白亜はいつもの生気のない目を先輩警察官に向ける。
「最近‥‥‥あいつらが俺の力を欲しがってる」
「白亜のか?」
「うん‥‥‥寄越せ、寄越せって。あの方のご命令だって」
「あの方?」
「魔獣達にも、長がいる」
「まじか!?」
「それを‥‥‥倒しに行こうと思う」
先輩警察官は白亜に向き直る。
「正気か?」
「正気さ。そいつを何とかしないときっと周りに被害が及ぶ」
「大丈夫だろうな?」
「‥‥‥確率は、2分の1も無い」
「死ぬってことか?」
「多分」
「あほか!」
先輩警察官は白亜の顔を強化した腕で思いっきり殴る、が白亜はびくともしない。
「これが、力の差だよ」
「くっ‥‥‥」
「俺は、奴等を止めたい。でも奴等は俺を殺す気満々だ」
「そうなった場合‥‥‥俺は死ぬ気でいかないと」
「例の件は完了したか」
「はい。全員合格いたしました」
先輩警察官とその上司らしき人物が話す。
「思ったよりも早かったな」
「本当に大変でしたので‥‥‥」
苦々しい顔をして先輩警察官は答える。
「しかし、想像を絶する力は手に入りました」
「どんな物なのかは後で見せてもらおう。それにしても3ヶ月でよくもまぁそれだけ強くなれたものだな」
「3ヶ月では普通無理だと周りはバカにしますけどね」
「全くだ」
二人の警察官は互いに笑い会う。
「これからどうすると言っている?」
「亜人戦闘機の親玉を倒すと」
「親玉なんていたのか!?」
「彼曰く、狙われていると」
先輩警察官は上司に先程の話を話す。
「ここで戦ってくれないのか‥‥‥」
「そうですね‥‥‥止めたのですが」
「まぁ、彼はまだ19歳だ。好きにさせても問題はないだろう」
「寛大ですね」
「なに。22を過ぎたらこき使うさ」
白亜は中退したとはいえ、大学生だ。中退した理由が理由なので、警察の方も白亜に働けとは言えないのである。
白亜が家賃など一切払っていないなら家賃がわりに働けとも言えるのだが、絵画や彫刻などで金を稼ぎまくっていてそれを家賃として白亜は出している。
最早白亜は仕事しなくても生きていけるレベルなのだ。
「今はまだいい‥‥‥。そのうち、な」
白亜の知らないうちに警察として働くことが決まっていっているのである。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「話にもならんな」
「ギシャアアアアァァァ!」
白亜は気弾ではなく、強化無しの素手で魔獣と戦っていた。
最早気弾がなくても人類最強になっていた。
「さて‥‥‥どうする?案内するか、しないか」
白亜の目は生気に満ちているが、殺気が存分に放たれている。白亜は自覚していないのだが、戦闘時と楽器を演奏しているとき‥‥‥つまり、自分が興味あることになると目付きが変わる。
普段からその目でいられれば物凄いモテるのに‥‥‥とは、後輩警察官の白亜には聞こえない呟きだ。
「その気なら全然いいよ?殺すけどねっ!」
恐ろしいことを軽い口調で嬉しそうに話す白亜。
「キシャァァ‥‥‥」
「そうそう。それでいいの」
魔獣達は白亜を自分達の長の所へつれていく決心がついたらしい。白亜は先程からそれの交渉をしていたのだ。
「こっち?スゲー。こんなところあったんだ」
戦闘時の生気に満ちた目で魔獣の巣に入っていく白亜。しかし、内心では行きたくないと思っていた。それをまぎらわせる為にわざと明るく振る舞っている。
「お前がボスか!」
『お前が我々を殺そうなどと馬鹿なことを口走っている小僧か』
「日本語が話せるとはねー」
『我からすれば造作もないこと』
戦地とは思えない口調で話す白亜の前に4機の魔獣が立ち塞がる。
『我の力には数も含まれる。お前は一人、此方は五機。さて、消耗戦に打ち勝てるか?』
「っち!消耗戦が一番苦手なんだよな‥‥‥」
白亜と4機の戦闘が始まった。
「ぐっ!気弾!」
「ギシャアアアアァァァ!」
白亜は力では全く敵無しの力を持っていた。しかし、所詮は人間。疲れを感じない魔獣との消耗戦など、普通に考えたら勝ち目はない。
1機ずつ倒していく戦法は不可能。敵の強さは最強レベル。白亜に勝ち目は殆ど無かった。
「4機‥‥‥倒したぞ」
白亜は殆んど怪我を負っていないが、疲れきっている。
『人間がここまでやるとはな。しかし、我々は人間など軽く超越した存在。疲れを感じぬ故、お前には負けぬぞ?』
「うるせぇ。はやく‥‥‥戦え」
気弾を産み出すには相当な体力や精神力を使う。白亜は此処に来るまでに数十回戦闘を繰り返している。
怪我は負っていないが身体にガタは出る。
「気弾‥‥‥並列発動」
白亜は計算をして気弾をつくる。故に計算すればするほど気弾の数は増やせる。ただ、それに使う気力はかなり増える。
白亜を中心に10個の気弾が完成される。
「俺は、お前らに両親殺されてるんだ。仕返しがしたくてたまらない。そのために今まで格闘技をやってきた‼」
『そうだったのか』
「一番最初の犠牲だ。俺がこの力を持ったのもお前らに復讐するため!それ以外にはない!」
『一番最初の‥‥‥ああ、思い出した。あの時のガキか』
「そうだ!お前らのせいで葬式もあげられなかった!」
『奴等はいいイケニエになってくれたぞ?』
その言葉を聞き、白亜が目に見えて怒り狂う。
「ふざけるなあああぁぁぁ!」
その言葉が戦闘開始の合図だった。白亜が魔獣の王に突っ込む。
並列発動させた気弾が回転し、軽い竜巻の様なものが起きる。
『面白い!お前も両親の元へ送ってやろう!』
白亜が腰を低くし、倒れ込む。すぐ頭上を魔獣の王の爪が掠める。
白亜は最大にまで強化した拳で突き上げるように魔獣の王を殴ろうとする。
魔獣の王は後ろに跳んで回避する。
そこに白亜の跳び蹴りが入った。魔獣の王は後ろに吹き飛んでいく。
追い討ちをかけるようにして白亜の気弾が同時に5つその場所に撃ち込まれる。
何とか回避した魔獣の王に氷柱のようなものが突き刺さる。
「気弾バリエーション‥‥‥氷弾」
『ぐっ‥‥‥』
戦いは熾烈を極めたが、それは唐突に終りを告げる。
「グハッ‥‥‥」
白亜の腹にどす黒い尻尾が突き刺さっていた。
『グハハハ!我の尻尾はただ凪ぎ払うだけではない‼突き刺すことも可能なのだ!』
「ご丁寧に解説ありがと‥‥‥グフッ」
白亜は盛大に吐血する。地面に真新しい赤いシミができる。
「でも、終わらせない‥‥‥‥!これだけは、絶対に‼」
『なっ!』
白亜は突き刺されている尻尾を抜くどころか突き刺さった状態のまま走り、魔獣の王に抱きつく。
『なにをーーー』
「さようなら。俺も、お前も。‥‥‥閃光爆破」
その瞬間‥‥‥白亜と魔獣の王は白い光に包まれて爆発した。
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「白亜はどこだ!」
「判りません!追跡装置も外されているようで‥‥‥」
「くそっ!」
先輩警察官と後輩警察官の二人が白亜を探し回っていた。
「まさか、本当に行ったんじゃ‥‥‥」
「あいつは基本的になにもやりたがらないだろ‼そんな面倒なことすると思うか!?」
「完全に推測ですね!でも、そう思います」
二人は、テーブルの上に白亜がよく使っていた皿が出してあったことに気付く。
あまりにも自然に置いてあったので全く気付かなかったのだ。
「これ、白亜の皿ですよね?」
「ん?裏になんか書いてある‥‥‥387692674?」
「暗証番号ですかね?」
「前に言ってた金庫‥‥‥これじゃないか?」
白亜は以前此処に引っ越して来たときに殆んど荷物はなかったが、一つ異様な物を持ち込んでいた。
金庫だ。
しかも白亜はこの金庫を絶対に開けるなと言って廻っていたのでこの二人もよく覚えている。
「入れてみるぞ!」
白亜の部屋に入り、金庫に番号を入れる。
カシャン‥‥‥
軽い音がして金庫が開いた。
「これか‥‥‥」
そこには二人に宛てた手紙が入っていた。