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クリスマス番外編 上

 メリークリスマス! 今日はバイトに行っていたから、くりぼっちではないですよ!


 毎度のことですが……クリスマスの番外編、クリスマスが終わる時に投稿してるんですよね。ちゃんと二十四日には間に合ってるはずなのに。投稿しないまま次の日になってるんですよ。


 言い訳してごめんなさい。


 しかもこれ続きます。クリスマス終わるけど。

 白亜の過ごすハクアの街が所属するリグラート王国は地理的に気候が穏やかで、水源も豊富にあり、農作物が育ちやすい。


 「老後の隠居生活をリグラートで」と考える友好的な諸外国の貴族も一定数いるほどだ。


 冬には雪が降ることもあるが、それほど大雪になることも珍しく夏は比較的過ごし易い。


 白亜の体感では、日本のほうが夏は蒸し暑いし冬は寒いと感じている。つまり、リグラートは一年を通して温度の変化が激しくないのである。白亜の日本での経験は山か都会かの二択なのであまり参考にはならないかもしれないが、大体そんな感じだ。


 だが、今年は珍しく大雪になっていた。


 リグラートの外れにあるハクアの街は五角形になっており、五等分する形で区域分けされている。白亜の住む場所は基本的に白亜の身内が固まって住居を構えているため、一般の客は入ることはない。


 そこにいる時点で大体身内なのである。逆に見覚えのない相手がいたらすぐにわかるので合理的ではあるかもしれない。


 一応白亜の役職は『領主』なので街の外から貴賓が来る場合は白亜の屋敷で対応することになるが、白亜の態度云々の問題があるためにその辺りは配下に投げっぱなしである。美織の家でもできていた通り、本当はちゃんと応対できるのだが面倒なので基本やらない。


 配下の誰かが助けてくれるからいいだろう、となんとなく考えているらしい。


 部下からしたら正直たまったものではないが、もう白亜は仕方がないと呆れられているのは事実であり、白亜もそれでいいやと思っている。


 そのためだろうか。ある晩、自分の部屋に入り込んできた子供になんの対処もできずにいる白亜が発見された。


 現場を目撃したジュードが状況を理解できず一瞬固まる。


「これなに? 引っ張ったらどうなるの?」

「いや……それ、下手したら爆発するから」

「ばくはつ!? 面白そう!」

「部屋吹き飛んだら面白くない……」


 部屋にはどこか疲れた様子の白亜と物凄い元気な少年が二人いた。少年達の顔は非常に似通っているのでおそらく双子であろう。白亜が部屋に他人を入れたことにジュードは驚いていたが、この様子だと「入られた」と言った方が正しいかもしれない。


 そして何より白亜の部屋の中のあらゆるものが半壊している。基本的に白亜はあまり物欲がないので自分の部屋の私物と言っても仕事道具がほとんどだ。だが、白亜の本業は冒険者。それも戦闘を専門とするタイプだ。当然その仕事道具には刃物や爆発物も含まれている。大抵のものは自分の能力で作り出せる白亜だが、相手に手の内を明かさないように投げナイフなどの消耗品はちゃんと買い込んでいる。


 それらがぐちゃぐちゃになって床にバラ撒かれていた。かなり危険である。


 ここにあるものはまだ大した物ではないが、白亜の部屋の奥から入れる武器庫には本気でヤバめの危険物が大量に置いてあるのでそちらに入られたらまずい。


 白亜もそれがわかっているからか、武器庫に繋がる隠し扉の付近から動けずにいた。


 こんな状況になった発端は数日前に遡る。







 リグラートに今年最初の雪が降った。そのことを最初に伝えにきたのはダイだった。


「白亜! 雪だ! 雪が降っているぞ! 外に行ってくる!」


 本当にただ報告だけして外に走っていった。子供か。


「雪だ雪だって、なんか前にもこんなことあったような……。まぁいいか」

『ダイの精神年齢はいくつになっても謎ですね。それにしても、もうこんな時期なのかと毎年驚きます』


 シアンの時間感覚は驚くほど正確なので、時間の流れに早いも遅いもないと感じていそうなものだが、ベースの思考回路は白亜のものだからか『いつの間にか時間が経っている』という感覚も理解できるのだろう。


 せっかくなので一旦事務作業を終えて窓から外を見てみる。ふわふわと空から雪が舞っていた。既にうっすらと雪が積もっている。


「今年は積もりそうだ」

『そうですね。ここ最近は積もっても数センチ程度でしたが』


 暑さ寒さは感じても前よりそれを辛いと感じなくなった白亜だが、やはり少し寒い。うっすら積もった程度で驚喜して外に飛び出すダイならともかく、大体のメンバーは暖炉のある広間に集まっているだろうと考えてそこに向かうことにした。


 広間では十数人ほどが集まって談笑していた。


 白亜の配下は人数が多いわりに個人が優秀なので休みを多めにとっても問題ない。実際、白亜含めて週休三日で働いている人が多いのである。なんなら週休四日の者もいる。


 それでちゃんとこの街が運営できているのだから恐ろしい。


 だが、当然でもあるのだ。これほどのメンバーが集まれば国の運営すら容易い。処理能力に長けたシアンに情報を集めることに長けているキキョウ、外交の教育を受けているジュード、そして単純に街の防衛という面で戦闘に特化した者が多数。やたらとバランスがいいのだ。


 特に大半の国で問題となっている内乱の頻度や治安の悪さが異常に低いところがこの街のいいところである。


 なにせ住んでいる者はほとんどが身内といっても過言ではない。


 基本的に白亜の知り合いしかここには住めない。娯楽を提供する場所として必要になる宿などは充実しているが、住居は販売していないのだ。移住がそもそもできないのである。


 理由はいくつかある。一つが街の広さだ。白亜がここを作る際、最初から娯楽施設の一つとして作るつもりだったので住居を増やす予定がそもそもなかった。一般的な村だとしたらこの考え方はあり得ないだろう。人という資源を増やせない以上、これより更に発展することがないということだからだ。


 村や町は基本的に生産性を上げ続けなければならないものである。そのために人口を増やして物を流通させる必要があるのだ。人という労働力なくして根本的な生産性は上がらない。


 だが白亜の場合、別に発展させることは考えていない。


 自分や仲間たちが一緒に暮らすことができ、多くの種族同士で交流できる場所を作ること。それが目的であったためにそれ以上の発展を視野に入れていなかったのだ。


 そのためにこの街では最初から住む人が大体決まっていて、それに合わせて住居が建てられ管理されている。外から入り込む隙間がないのだ。


 店ですらそうなのである。移動式の屋台などを除いて店舗を構える店に関しては最初から入れ替わったことはない。


 どこかの店が廃業するのならその場所は空くだろううが、おそらくもう暫くはそれもないだろう。この街の店の大半、いやほとんど全てがハクアファンクラブに属している者が経営しているのだから。白亜の領地に店を構えるということになって半狂乱になって喜んでいた彼女達だ。何があってもこの店だけは続けようとするだろう。


 本気で命を懸けている者すらいるのだ。恐ろしい執念である。


 話が逸れたが、この街の住民はファンクラブの者を含めたら99パーセント白亜の身内なので犯罪を犯すものはいないのだ。白亜に迷惑をかけるであろうことを率先して行うものなどいない。


 だから休みが多くとも問題ないのだ。年末も近いので休みを取っている者も多い。そのため広間にはこれだけの人数が集まっているのだ。


「あ、師匠。今日は寒いですね。雪も降ってるし」

「そうだな。ダイは外に飛び出していったよ」

「さっき走っていくのを見ました」


 暖炉の近くで本を読んでいたジュードが白亜に話しかけた。


 二人で窓の外を見ると、チコとジュードがはしゃいでいるのが見える。


 いや、その他にも何名かいる。


 ダイ含めて配下達は意外と精神年齢低めなのかもしれない。


『子どもですか、彼らは……』

「まぁいいんじゃないか? 休みをどう使おうが個人の自由だし」

『それはそうですが』


 確かに大人には見えない。それをみっともないと思う者がいるのも、その通りである。


「私はあんまり悪いことじゃないと思うよ? 大人になっても子どもの目線に立てる人ってあんまり居ないし」


 リンが苦笑しつつフォローに入っている。ダイ達のはしゃぎっぷりは見ていて豪快だ。


「子どもの目線、か……そうだな」


 白亜にはあんな風にはしゃいでいた頃の記憶など、もうほとんどない。あった気がする、くらいの認識である。


 両親がいなくなった日の事すら、その瞬間以外の記憶は曖昧だ。


「師匠? 何かありましたか?」


 気づけばジュードが話しかけてきていた。答えがない類の考えを一旦忘れることにした白亜は頭を切り替える。


「あ……いや、なんでもない。それより昨日の夜からあっちが騒がしいんだけど、誰か来てるのか?」


 白亜が指差す方向には客用の屋敷がある。


 普段はあまり使わず、主に使うのはたまに視察に来るジュードの家族や白亜の家族である。基本的には貴族であっても色々と重要な書類が揃っているこの区域には入ることはできない。そのため知らない人は領主の屋敷付近には近づけないのだ。


 どこの大貴族でも泊まる際は宿を取ってもらうのが普通になる。


「えっと、僕の三番目の姉が来ていまして」

「……ああ、そういうことか。わかった」


 白亜が少し息を吐く。なぜなら、この『三番目の姉』の子どもが少々厄介なことを知っているからだ。


「また、か」

「はい……すみません、僕のせいです」

「いや、ジュード君は悪くないよ。ハクア君でも対処できないんだから、相手が悪いだけで……」


 子どもの無邪気さは、時に恐ろしい。


「クリスマスになるとプレゼントを貰いに来るって、なんかおかしくないか……?」

『まぁ、普通は待つものですからね』

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