「エレニカさん万能薬すぎる……」
いつも読んでくださってありがとうございます。龍木です。
実はリアルの方でだいぶかなり相当忙しくなりそうなのです。一ヶ月くらい。
楽しみに待ってくださっている方には申し訳ございませんが、更新が沈黙する可能性がございます。おそらく作者は元気ですので、心配してくださらなくて大丈夫です。
感想やツイッターへのコメントなどは返すくらいの余裕はあると思うので、何かございましたらお気軽にご連絡ください。どうでもいい世間話なども歓迎です! ただ、返信が遅くてもご理解いただけますと幸いです。
白亜は地面に数度触れ、沼を作ったり辺りを蔦だらけにしたりと環境を変える魔法を何度も使ったのだが、レーグには全て力技で突破されてしまった。
沼は巨大な鉄の板を地面に出現させることで無効化され、蔦は大量の回転する刃で切り裂かれた。
悉くを回避されるため、このままでは体力勝負になってしまう。
時間いっぱいまで粘れば白亜の勝ちなのだが、それは今の状態が続けば、の話である。
何か奥の手を持ってこられた場合、詰む危険がある。しかも白亜は元人間だ。純粋な神として生まれたレーグやエレニカとは違い、精神が疲れやすい。
気が緩んだところを攻められたら対処できない可能性がある。
(シアン、何かないか!)
『戦闘のサポートがギリギリで分析が間に合いません』
頼みのシアンも限界スレスレだ。
というのも、シアンは白亜の魔法の補助からレーグの武器の分解までを請け負っている。
処理速度は白亜の数倍だが、間に合っていないのが現状だ。
互いに消耗戦になってしまっている。しかも白亜が不利だ。
飛んできたナイフの雨を後ろに飛んで逃げながら策を練る。白亜がイマイチ決め手にかけるのもこの武器製造が問題になっているからである。
普段なら村雨で弾いて懐に入るのだが、レーグの武器は特殊だ。神の作った武器なのだから、即興のものでも村雨よりも切れ味がいいかもしれない。
下手に弾いて村雨が破損したら困るのだ。
魔力で作ることはできても、オリジナルはもう作れない。弟子から贈られたこの刀を、白亜は自分が思っている以上に大切にしている。
逆に、白亜も武器を作ることができるのだから大量生産してしまえばいい、と考えることもできるが、白亜の場合は魔力を消費する。
魔力は魔法にも使えるので、可能であればそちらに魔力を温存したいのだ。
普通に武器製作合戦になったら圧倒的に白亜のスタミナが保たない。ものを作るということに関しては、白亜はレーグの数段下なのだ。
戦闘経験に関しては白亜が上なので、そこでなんとかするしかない。
刀を握り直し、魔法で煙幕をはる。すぐに距離を取らずにレーグの右斜め後ろに回り込んで刀を振り上げると、足に違和感があった。
(なんかピリッとする……けど、今しかない!)
若干の危険を感じつつ、レーグが反応できていない好機を逃すまいとそのままレーグに刀を振り下ろす。
「グッ……!」
手応えがある。村雨は性質上、硬いものでも引っ掛かりをある程度無視して切り裂くことができる刀だ。
そのまま幹竹割りの要領でまっすぐ振り抜く。
血の匂いがしたが、気にせず一旦距離をとる。
本気で殺す気ならばそのまま二の太刀を浴びせるべきなのだが、足の違和感を確認するためとエレニカ並みの回復速度だったらそのまま斬っても倒しきれないためである。
煙幕がはれると、レーグは背中をバッサリと斬られていた。結構な量の血が辺りに飛び散っている。人間ならば致命傷だ。
痛みに耐えながら白亜を射殺さんばかりに睨めつけてきている。じわじわと傷口が塞がっていっているので、回復能力はあれどそれほど強いものではないらしい。
白亜はというと、左の足首に何か細いものが刺さっていた。恐ろしいことに、異変に気が付いてから数秒しか経っていないが左足全体の感覚がない。
すぐに抜いて回復魔法をかけたが、まるで効果が感じられない。解毒の魔法も使うが、感覚が戻るどころか右足も痺れ始めていた。
『対処の方法が、わかりません……っ!』
おそらく毒針の類を打ち込まれたが、時間がなさすぎて対処のしようが無い。
時間があれば分析して、専用の解毒魔法を新しく作ることもできるのだが、今回はそれができない。
視界が一瞬霞んだ。手の指先や舌先が痺れる。
とっさにエレニカに渡された瓶を開けて一気飲みした。本当に勘での行動で、中身がどうとかは全く浮かばなかった。飲みきってから「あ、これ血だった……」と思ったくらいには無意識の行動だった。
不思議なことに、エレニカが言っていた通り美味しい。想像以上に甘くさっぱりしていた。
1秒も経たないうちに何ともなくなったのが一番恐ろしい。
「エレニカさん万能薬すぎる……」
脳内でエレニカがサムズアップしていい笑顔を見せてきていた。勿論幻覚である。
ふらつき始めていた白亜が一瞬で完全復活したのを見て驚いたのはレーグである。白亜が飲んだものは見えていなかったらしい。しかも好都合なことに、白亜の回復した速度とレーグの回復速度は段違いだ。
血が止まってはいるもののレーグの背には大きな傷が未だ残っている。
「シアン!」
『お任せを!』
レーグの動きが鈍ったと判断するや否や白亜の猛攻が始まった。シアンが全力で魔法を叩き込み続ける。
辺りに飛ぶ木の葉の一枚すら凶器と化している戦場で、思うように動けないレーグは白亜の殴打を避けることができなかった。
シアンが強化しまくって、白亜が本気でぶつけた拳がレーグの左頬を確かに捉える。骨が軋む音を聞きながら拳を振り抜くと、踏ん張ることができなかったレーグが遙か後方へ吹き飛ばされていった。
「はぁ……本気でやったの、何年振りかな……」
右手を握ったり開いたりしてみると、手の甲の骨に鈍い痛みが走った。本気で殴ったせいで折れている。
普通に人を殴ると頭部が破裂する白亜のパンチである。本気で打つことなんてまず無い経験だった。
加減をミスして手の方がダメージを受けたらしい。
右手に回復魔法をかけていると、遠くからガラスが割れる音が響いてきた。数秒後、聞き慣れた声でアナウンスが流れる。
【あー、えっと、聞こえてますかー? エレニカです。今、レーグが戦闘不能に陥ったのを確認したんで戦闘終了ということで。ハクア君は俺のところまで来てねー。それじゃあこれで決闘は終わり! お疲れ様!】
なんだか気が抜けてしまったが、これでいいらしい。
想像以上に厳しい戦いに疲れたのか、白亜はその場に座り込んでしまった。
「あー……やばかった」
『エレニカ様から血をいただいていなかったら終わっていましたね』
「まだ奥の手はあったけど、それはあっちも同じだしな。相手の計画を1個目で潰せたのは良かった」
白亜はなんとなくで気づいていたのだが、刺された毒針以外にも白亜を即死させるレベルの罠がそこら中にあるのだ。
毒針は回避できなかったが、あえて刺さったことで懐に入り込めたのだから良しとする。
これはレーグの経験不足だろう。
白亜が新兵だったら毒針になんとなくで気付いたら、その場で確認してしまうかもしれない。
だが白亜は自分の足よりも相手に突っ込んで攻撃することを優先した。戦闘狂のそれである。
戦い慣れた相手との戦いを理解できていなかったレーグのミスだ。しかも毒針が刺さったと認識してから勝ちを確信したのか明らかに油断してくれたのも助かった。
白亜は実質、レーグのサポートを受けていたのである。
「お疲れ様。大丈夫?」
「エレニカさん……俺、本当に勝ったんですか」
「勝ったよ。あいつまだ窓に頭突っ込んだ状態でのびてるし」
さっきのガラスが割れる音はレーグが窓に頭から突っ込んだ音だったらしい。
「ちょっと見せてね。俺の血、結構たくさん飲んじゃってるから、なんかあるかも。体調に異変はある?」
なんかあるかも、と言われても。何かあるかもしれないという情報は先に言ってくれ、という感想しかない。
「いや、特には……むしろ好調です」
「うん……多分、大丈夫かな。見た感じ」
なんだか不安になる言い回しである。本当に大丈夫なのだろうかという疑問が白亜の中に残ったまま、決闘場を後にした。




