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「ここ、室内ですよね?」

 扉の先には、以前エレニカに見せてもらった写真の男がいた。


 男神レーグ。周りには十数名の女神が群がっている。すごく見覚えがある光景だ。


 白亜のファンクラブは『白亜は距離が近すぎる人が得意ではない』ことを知っているので、わざわざ遠巻きに眺めて写真を撮って日々を過ごす人がほとんどである。そのため、あのような状態になることは滅多にない(学校卒業するときくらい)のだが、周囲からの視線的には似ているかもしれない。


 優男という言葉が似合いそうなレーグは白亜に気づいて早々に敵意を剥き出した。


「……お前が、エレニカ様の付き纏いだな? 貧相なツラを晒して、恥ずかしくないのか? さっさと逃げ帰って二度と表に出てこなければいいものを」

「ストーカーさんに言われたくはないです。それと、私はストーカーさんとは違って晒して恥ずかしく思う部分はありませんので、何を言われても特に思うことはありません。あと、エレニカさんはストーカーさんのこと、ウザイと思ってますよ? 自覚したらいかがでしょうか」


 白亜はさらっと無意識に反撃した。つらつらと述べられた言葉に、相手も軽く困惑している。


 後ろでエレニカが声を殺して爆笑している。


「エレニカさん?」

「ぐ、ククッ……! だめ、真顔で急にストーカーさんなんて呼ばないで……! 君がそんなに強い言葉を言うなんて思ってなかったからっ……! すごく油断してた……!」


 酸欠気味になる程堪えている。不意打ちで白亜が反撃していたことに笑いが止まらなくなったらしい。


 エレニカの笑いのツボはちょっと謎だ。


「は、はぁー……面白い。うん。そうだそうだ、ストーカー! お前が帰れ!」


 そして野次を飛ばした。


 意外とこの状況を楽しんでいるらしい。


「そんな、エレニカ様まで………! まぁいい。これから叩きのめしてやる。さっさと来い」


 余裕そうな笑顔がわかりやすく引き攣ったまま、背を向けて歩いて行った。


 ぞろぞろと周りの女神ごと移動していく背中を見送って、エレニカを見るとまだ少し笑っている。


「そんなにおかしなこと言いましたか?」

「いいや、おかしくはないよ。おかしくないけど。君には恐れ入ったよ。あいつに言葉でダメージ与えられるなんて、俺でも無理だもん」

「?」

「もしかして自覚なし? あいつに絡まれなくてとても嬉しいから、俺は助かったけど……君は大変そうだね」


 天然記念物の白亜は、言いたいことは言ってしまう。


 これは軋轢を生むだろうなとシアンが判断していても、白亜はそれを意識できないのでそのまま言ってしまう。


 そんなことが多々あり、今までも結構問題視されることも多くあった。


『はい。フォローは簡単ではないです』

「だよね。お疲れ様」


 シアンの返答に苦笑するエレニカ。何を言っているのかよく理解できていないのは白亜だけだった。







 レーグを追いかける形で着いた先は、森だった。


「ここ、室内ですよね?」

「そうさ。ここは所謂温室。とはいえ、希少な植物とかは別のところにあるし、ここはゲーム用だよ。サバゲーって言えばわかりやすいかな? 実践的な訓練をする時とかに使うよ」

「闘技場みたいなの想像してました」


 エレニカは白亜の言葉にゆっくり頷いた。


「俺もそう思ってた。闘技場はここの近くにあるんだけど、レーグはここを指定してきた。あいつの能力、ひらけた場所の方が使いやすいはずなのに」


 エレニカも不審がっているらしい。森の中といえば、大きな武器は振り回しにくく、飛び道具は射線をきりやすい。相手の姿も見失いやすいので純粋な戦士は戦いにくい場所だ。どちらかといえば隠れながら敵を倒す暗殺者スタイルか、どこか有利な地形に陣取れるスナイパーなどの方が力を発揮できそうだ。


 レーグは飛び道具が苦手だとエレニカが言っていたが、少々矛盾している気がする。


 苦手とは言っても、練習して腕を上げていたりするという可能性もある。なんにせよ警戒は必要だ。


「ここから先は俺はいけない。君一人になってしまうが、もし何か本当に危機を感じたら俺を呼ぶんだよ。俺が入ればルール違反ということで君の負けになってしまうから、なるべく君の力で頑張ってくれ。君ならなんとかなりそうだとは思うけどね」

「はい。行ってきます」


 エレニカと別れ、森の中に入って数分後、どこからかアナウンスが聞こえてきた。


【これより、ルールの確認をさせていただきます】


 急に始まるらしい。今回の騒動の件といい、色々と急である。


【武器の使用は許可されています。何を使っていただいても構いません。ただし、この森を焼き払うなどは意図的にはなさらないよう、お願い致します】


 不注意で炎上なら許されるらしい。相変わらずスケールが段違いだ。


【この森には多くの野生動物がいます。無闇には殺さないでいただきたいですが、殺したところでペナルティはありませんのでご安心ください】


 温室なのに野生動物まで放たれているらしい。本当に温室なのか疑わしいほど広く作られているのは確かだ。


【相手に降参の宣言をさせるか、相手の死亡を含めた戦闘不能で勝敗を決します。野生動物に殺された、なども敗北と認めますのでお気をつけを】


 ここの野生動物はそんなに強いのだろうか。なんだか戦う相手が純粋に増えた気がする。


【制限時間は五十時間。五十時間を過ぎた時点でどちらも生き残っていた場合、自動的に格の低いハクア様の勝利となります】


 流石にこれくらいのハンデはあるらしい。


 白亜の選択肢には『逃げ続ける』というものも追加されたと思っていい。ただし、相手がかなり殺気立っているのは先ほどのやりとりで十分わかったので逃してもらえるかもわからない。


 逃げることを前提に動くのは危険だろう。


【死の直前で降参の意思表示をした場合、それをわかっていて殺すのは神の規則違反となります。勝敗が決まり次第、速やかにおかえりください。それでは、十分後に開始致します。準備をすることは認めますが、もし相手と遭遇した際はまだ開始時刻となっておりませんので攻撃した方が負けとなります。それでは、準備を始めてください】


 空にカウントダウンタイマーが表示された。おそらくあれがゼロになったら試合開始ということなのだろう。


「……気が滅入る」

『さぁ、見晴らしの悪い場所へ行きましょうか』

「そうだな」


 魔眼を使って周囲を探りながら森の奥へと入っていった。


 十分後、甲高い音ともにカウントダウンがゼロになり、白亜の戦いが始まった。

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