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『とりあえず現時点で話せることを整理しましょう』

 エヴォックに連れられて応接室へ向かう。


 扉をしっかり閉めたことを確認してからエヴォックが苦笑いを浮かべながら話しかけた。


「リシャット君と何かあったのかな」

「あ、はい」


 エヴォックも何が起こったのかは知らないらしく、前田に説明を求めた。


 白亜に「エヴォックになら言っていい」と聞いていた前田はこれまでの出来事を簡単にまとめて話す。


 ただし、白亜が人ではないということは一応伏せておいた。


「そうか……やっぱりリシャット君が助けたんだね」

「何か?」

「いや、どうやら彼は君たちを随分と気にかけているらしいから」


 結構話しかけても答えてくれないイメージがあり、仲が良いとはまるで思えないほど淡白な対応しかされていないのだが。


 そう伝えるとエヴォックも不思議そうに首を傾けた。


「どうしてかはわからないね。ただ、君たちがピンチだと悟った瞬間に街を飛び出すくらいには君たちを気にしていると思うよ。昨日、彼は帰ってきてから事情を殆ど話してくれなかったから、理由は君自身が聞いた方が良さそうだ」


 白亜に話しかけてちゃんとした返事が返ってくるかは謎である。


 人ではないという事を明かしてくれたあたり、一応そこそこの信用はあるのかもしれない、と思いたい。


「そうします。それで、依頼のことは」

「ああ、今回のことは減点対象から省いておくよ。アースドラゴンの大群なんて、リシャット君でもなけりゃ対応できないほどの難問だろうし。契約不履行のペナルティは無しだ」

「あ、ありがとうございます」


 白亜はさらっと真っ二つにしていたが、やはりあれはヤバイものだったらしい。というかドラゴンだったのか。


 見た目は普通に恐竜だった。








 エヴォックと話をした後、前田はいったん全員に解散しようと伝えた。


「昨日いろいろあったし、今日はもう休みにしよう」

「そうね。じゃあまた明日」


 各々別れて街に散っていった。


 前田は一度ギルドを見てから、白亜が宿泊しているはずの宿へ向かった。


 白亜の泊まっている部屋はそこそこ豪華な造りのものである。そもそも宿も結構良いところだ。


 この宿だが、実はここはエヴォックが選んだ宿である。


 元々白亜は庶民的な宿に泊まっていた(それでもちゃんと個室なので、最低ランクの冒険者としてはかなり良い生活)のだが、一応街の貴賓にあたるリシューがそこに泊まるのは問題なのでギルドが手配して引っ越している。


 宿泊料は払わなくとも良いのだが、別に金には困っていないので普通に払っている。


 ドアノブすらちょっと高そうな部屋の扉をノックすると、数秒後に白亜が顔を出した。


「……どうぞ」


 拒否されるかと思ったが、案外すんなり通してくれる。そのことに若干の驚きを覚えつつ部屋に入った。


 部屋の中心付近にある椅子を示されたので、そこに腰掛ける。どうやら嫌がられてはいないらしい。


「……紅茶でいいですか?」

「あ、ああ」


 なんだかちょっと気まずい。白亜は無表情だが、実は内心結構焦っていた。


 まだ前田に何を伝えてもいいのかがわからない状態なのである。こんなにすぐに話を聞きにくるとは思っていなかった。


(シアン、何なら話してもいい?)

『とりあえず現時点で話せることを整理しましょう』


 急いでシアンと情報の擦り合わせをする。


 前田にいくつか話をしようとは思っていたし、何なら話してもいいかを天照大神に聞こうかと思ってもいた。


 だが、聞く前に来てしまったのである。勝手に内部事情を話してもいいものなのか、と紅茶を注ぎながら必死に考えていた。


 ひとまず考えをまとめた白亜は、そっと前田の目の前に紅茶をおいた。


 自分の分も注いで口をつけると、それまで黙っていた前田がボソボソと声を出した。


「お前、何者なんだ」

「それは、どういう意味ですか?」


 なるべく与える情報は少なくしたい。白亜はとりあえず質問に質問で返した。


「……気力使ってただろ」

「……ああ、そっちか……」

「え?」

「いえ、なんでもないです」


 てっきり種族の方を問われると思っていた白亜は少しホッとした。神だなんだと今言っていいのかはちょっとわからなかったからだ。


「気力が使えるのは、使える人だからですよ」

「説明、省きすぎだろ。だいたいあんた日本人じゃないだろ」

「今はそうですね。……私の本名は白亜と言います。『揮卿台 白亜』です」


 前田は数度瞬きを繰り返し、大きくため息をついた。


 そしてどこか疲れた表情で「そっかぁ」と納得の声をあげた。とある学校のとんでもない白亜ファンを除けば、普通なら「そいつは死んでる」とか「ありえない」とか言われるが、彼の場合はちゃんと受け止めて理解している。


「疑問を持たれないんですね」

「嘘つくメリットがわからないし、気力が使えることはこの目で見たから」


 どこか達観している前田の態度に、白亜は不思議に思った。


 そして白亜からも気になったことを聞いてみることにした。


「こちらからも宜しいですか? 貴方は人以外の存在を知っていると答えました。その説明を求めます」

「そうだな……ここまで聞いたらこっちも話すしかないわな」


 前田は紅茶を一口飲んで小さくため息をついた。


「俺の幼馴染が、人じゃないんだよ」

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