卒業生代表試合!その3
結局、逃げ切れていない人たちの証言により、白亜が決勝に進むこととなった。審査員も逃げ出したので判断材料は少ないかと思われたが、記録がとってあったのでそれを使われたらしい。
「ん。ジュードとか。いつもと一緒だな」
「そうですね。身体強化使って久し振りに暴れますよ!」
周囲はこの二人は完全に別格だと気づき始め、何となく距離をおかれる。白亜は気付いていないし、ジュードは白亜に勝つための方法を模索し始めていた。
「あ、準決勝終わった」
白亜とジュードとの対戦相手が決まった。相手は高等部で戦闘系の成績がかなり高い人だった。ゼギオンは首席だが、それは白亜みたいに万能超人な訳ではない。
「んん。じゃ、いくか」
「はい」
二人揃って舞台に上がると大きな歓声が闘技場内に響き渡る。
『さてさてお待ちかね!決勝が始まるぞ!勝ち進んだのは高等部三年、オグト!初等部一年、ジュード・フェル・リグラート!そして!同じく初等部一年、ハクア!どうなるのか全く想像できない戦いになりそうだ!』
司会の人と観客の熱気がピークに達する。
「わー。でっか」
対戦相手、オグトを前にして白亜が呟く。オグトは二メートルに届きそうなくらいの長身だった。
「俺の二倍位ありそうなんだけど」
どこか緊張感のないボーッとした目でオグトを見上げている。まだ戦闘モードではないようだ。目が死んでいる。
『それでは良いか?決勝。開始!』
白亜の目がカッと見開かれる。それに気づいたジュードが、マジですかぁ。とでも言いたげな視線を送る。
最初に動いたのはオグトだった。剣を白亜に向けて思いっきり振るう。その早さは普通の戦士では全く追いきれないほど。
しかし、白亜はその数倍早い。
「っ!」
「ん!」
思ったより剣が重くぶつかり、白亜がほんの少し力む。その状態から二本目の剣をオグトにぶつけようと振りかぶると、オグトはまるで先程の巻き戻し映像のようにバックしていく。
白亜はそれを逃さない。
飛び蹴りを鳩尾に叩き込むとオグトが一瞬で意識を失った。
「これでジュードだけだな」
「いつもの訓練では身体強化使いませんからね。僕の無属性魔法、見せてあげます!」
ジュードの体が一瞬スパークする。
「おお。面白いじゃん」
白亜が嬉しそうに笑顔を見せる。
「何て戦いだ……これで魔法使っていないのか」
「あの銀髪の子は身体強化も使ってないわよ?」
「すごい」
「ハクア君……本当に格好いい!映像は?何個で録ってるの?え?5つ?倍に増やしなさい!早く!」
「ハクア君本気じゃないのね……本当に底が判らないわ」
幾つか完全にハクアファンクラブ会員の用な声が聞こえるが、そんなことはお構いなしに白亜はジュードと打ち合いを続ける。
身体強化で大幅に筋力などが上昇したジュードは普段の白亜と同じくらいの強さになっている。本気を出されたら直ぐに終わるが。
高速で打ち合い続ける二人。生徒達の目には殆ど見えていない。審判の先生達も怪しいところだ。その中でダイやキキョウ、ルナ、そして白亜達の訓練を眺めているうちに目が追い付くようになったリンとチコが見守る。
響き続ける金属音。途中、バキン!と大きな音がした。観客の大半はなんの音だか気づかない。
そして怒濤とも言える攻撃を繰り出し続けていた両者が一瞬で動きを止めた。白亜がジュードに馬乗りになり、首元に剣を突きつけている。ジュードは荒い息を吐きながらされるがままになっていた。
白亜の近くには折れた片手剣が一本落ちていた。それを見て途中から白亜が武器一本で戦っていたことを観客の大半は始めて知った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「俺の勝ちだな?」
「参りました。師匠」
その言葉が聞こえた瞬間、観客から今日一番の歓声が浴びせられた。
「いたたた……」
「全く。身体強化をギリギリまで使うからだ」
白亜はジュードに肩を貸して……歩けなかった。身長差がありすぎるのだ。白亜は自分の背の低さを改めて思い知り、大いに落ち込んだ。
結局、観客席の方からダイを呼んでジュードに肩を貸している。
「身体強化は後が怖いよな……」
体に魔力を流して無理矢理筋肉を動かす行為なので、下手な使い方をすると、筋肉断裁とかが起こる。次の日の朝は筋肉痛で起きられませんでした。何てことも珍しくはない。
「身体強化使えば師匠に勝てるかもしれないと思ったのに」
「んー。あのまま維持し続けられれば勝機がないわけではないと思うよ?」
「無理です……」
ジュードの控え室にダイを向かわせ、白亜は自分の控え室に戻る。
「失礼します……」
もうゼギオンは帰ったのか、部屋が暗かった。ライトに魔力を流して明かりをつける。
「あ、鞄の位置が違う」
変わったのは数ミリなのだが、それに気づく白亜はやはり化け物だ。それも、ただの化け物などではない。絶滅天然記念物だ。
「何か盗られてたりしないよな……?」
恐る恐るごそごそと鞄の中身をチェックする白亜。
「大丈夫だな……?」
特に盗られてるものは無かった。思い過ごしだったらしい。魔法とかが掛けられた形跡もなかった。
「よし、ジュードの所へ行くか」
白亜は鞄を掴んで外に出る。その背後でナイフが床からつき出しているのを知らずに。実は、鞄を動かすと床からナイフが出てくる仕組みになっていたのだ。それを知らずに見事に回避した白亜。
ある意味、最強かもしれない。
「ジュード。大丈夫か?」
「はい。だけど今日は動けそうにないですね……」
「そっか。ダイ。送って来てくれ」
「了解した。立てるか?」
「ご迷惑お掛けします」
ダイに寮まで送らせた白亜は、リン達の元へ行く。通行人が綺麗に白亜を避けて歩くが、白亜は特に気にしない。あ、通りやすくて良いな。くらいにしか考えていないのだ。
「ハクア君。お疲れさま」
「リン。ジュードは動けなくなってたからダイに送らせたよ」
「それが良いですね。ジュード様があれほどまでの身体強化を使う事ができたのは驚きでしたが」
「一瞬光で見えなかったからの。妾は始めてあそこまで成功した人間を見た」
ジュードの身体強化を絶賛していると、ダイが帰ってきた。
「取り合えず寝かせたぞ」
「ああ、ありがとう。じゃあ卒業祭、折角だから回ろうか」
「そうだな。と言いたい所だが、某等は遠慮する」
「なんで?」
「少しな。二人で回ってくると良い」
頭に疑問符を浮かべている白亜の隣でリンに向けてガッツポーズを送るダイ達。下手したら白亜に見える角度だ。
「う、うん!ハクア君!いこう!」
「え、あ、ちょっと、リン!?」
白亜の手を引っ張ってリンが出店に走っていった。生暖かい目で見つめるダイ達を残して。
「お、お腹すいちゃった」
「ん?そう言えばそんな時間か。どっかで適当に食べようか」
卒業祭はその名の通り、卒業式に沿って行われる祭りの事だ。簡単に言えば卒業式と文化祭がくっついているようなものである。
「サクラちゃん連れてきたんだ」
「うん。私の宝物だから」
兎のぬいぐるみをギュッと抱き締めるリン。周囲の男子が一斉に顔を赤くする中、白亜は至って通常運転である。死んだ目でリンを見つめる。ただ、その顔はほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。
「あ、焼きそばだ」
「なにあれ?見たことない」
「ないんだ」
白亜にとっては出店の定番なので逆に驚く。
「どんなやつ?」
「麺を野菜と一緒に焼いてソースで味付けするんだ」
「なんか辛そうだね」
「確かに味は濃いかな」
リンはしばらく見つめ、
「食べて良い?」
「ああ、いいよ」
早速買いに行き、財布をリンが取り出す。その瞬間、リンの手から財布が消えた。
「え?」
「頂き!」
スラれた。リンは暫く呆然と財布のあった手の位置を見つめていたが、直ぐに我にかえり、
「かえして!」
叫んだ瞬間、何かがその男子の後頭部を直撃した。相当な勢いがあったのだろう。顔面から地面に倒れ、そこに小石を握った白亜が行く。
「ハクア君……?」
「おい、お前。この子の財布返すのと、小石を手足が折れるくらいの速度であてられるのと、刃物で切り刻まれるのだったらどれを取るのか言ってみろよ?」
「ひっ!」
「どれだよ?」
「か、返すから殺さないでくれ……頼む……」
殺気をまともに受けて震え上がる。
「出せ」
「こ、これでいいか……?」
「こういうのを目撃したらもう二度目はないと思え」
白亜から逃げる男子。白亜はリンの財布をもってリンに近付く。
「ごめん。ちょっと汚れた」
「ううん。全然いいよ。そんなことより大丈夫?」
「問題ないよ。俺も、あの人も」
「よかった」
リンが焼きそばを購入、近くのベンチに座って食べる。白亜はその横でお好み焼きを食べていた。どうやら日本の文化に近い国があるらしく、そこで流行っているのだとか。今度いこうと小さく呟く白亜。
「ハクア君。これ食べる?」
「あ、ちょっと貰って良い?」
完全に恋人同士のような会話だが、両方女である。
「リンも食べる?」
「あ、うん」
周囲の目線を感じながら空腹を満たし、また歩き始める。
「そう言えば教室の方でも何かやってるみたいだよ」
「大体この辺も回ったし行ってみようか?」
「そうだね」
校内に入る。結構広い通路が人で一杯になっていた。
「ひゃー」
「凄い人だかりだね……」
何とか抜け道を探しながら歩いていくと、人が余り居ないところに出た。
「この辺なら」
「そうだね。適当に歩こうか」
適当に歩いていくと、呼び込みに引っ掛かった。
「ねぇ、そこのカップル!」
「え?カップル?」
「そうそう。ね、寄っていかない?」
「え?」
「ほら!」
半分無理矢理中に入れられた。
「どういう事?」
「さぁ……?」
教室内には様々な服が飾ってあった。更衣室があり、何人かが出たり入ったりを繰り返している。
「彼氏さんはこれかな?格好いいし」
「はい?」
「彼女さんはやっぱりこれだよね!」
「え?」
服を持たされて、二人とも反対側の更衣室に押し込められた。
「さ、着てちょうだい!」
「「え?」」
状況が全く理解出来ていない二人だが、とにかく着れば良いのか?と思い、仕方なく着替える。
「着替えましたけど……」
「私も……」
反対側な上にカーテンが閉まっているので声を出すしかない。
「どうぞ。出てきてください」
言われた通りに二人同時に出る。互いの格好を見て唖然とする。
「え?なにこれ?え?」
「えっと……?」




