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卒業生代表試合!その2

 試合が終わり、白亜、ジュード含め残り10人。再び抽選が行われ対戦相手が決まる。


「ん。俺最初か」


 第1試合。白亜とこれまたバルドのような筋肉だるま。


「お願いします」

「さっきはなんか仕込んだんだろ?」

「?」

「お子様は黙って突っ立ってりゃいいんだよ」


 その言葉に白亜の眉が少し動いた。


「成る程。では突っ立ってることにしますね」


『第1試合、開始!』


「おらああぁぁぁ!」

「ん」


 大剣をもった大きな男が子供に襲いかかる図にしかならないが、本人は至って真剣だ。白亜は中央に立ち、2本の剣で攻撃を全て逸らせ、捌いていく。しかも一歩も動かずに。


「なんであたんねえんだ!」

「そりゃあ、もう少し早く、工夫しないと」


 白亜にとっては目を瞑っても勝てる相手でしかない。攻撃を捌かなくても殆どダメージは通らないくらいに。


「んー。飽きた」


 それまで捌いていた剣で思いっきり横に一閃し、吹き飛ばす。


「ありがとうございました」




 ジュードも同じく一瞬で試合を終わらせ、全ての試合が終了した。残り5人。


 抽選で決められた。なんとジュードはラッキーなことに繰り上がりで決勝戦進出となった。5人なので一人余るから当然ではある。


 白亜の対戦相手は、あのゼギオンだった。


「ええー。なんかやだ……」


 つい、ボソッと言ってしまう。あの傲慢な態度を見せ付けられて戦いたいなんて思わないだろう。


『おおーっと!?首席対決だ!公爵家の長男であり、美しい容姿と明晰な頭脳を兼ね備えた次世代の英雄となる男!高等部三年ゼギオン!』


 周囲の歓声を浴びながらゼギオンが闘技場へあがる。


『そして!最年少ながらとんでもない実力を見せ付けた今回の試合のダークホース!初等部一年のハクア!』


 少々面倒臭そうな顔をした白亜が闘技場へ。準決勝ともなると観客にも司会にも熱が入るようだ。


『それでは両者よろしいですか?試合、開始!』


 首席対決。事態は思わぬ展開へ進んでいくこととなる。


「ハハハ!僕に挑もうとは、なんて恐れ知らずなんだい?」

「さぁ。私には判りかねますね」


 白亜はもう既に戦闘モードだ。剣を持つ手も落ち着いている。


「それ!」

「…………」


 流石首席というべき見事な剣筋。それを白亜は無言で捌き続ける。ゼギオンの剣の腕前はもしかしたら魔族を一人何とか倒せるほどの物だ。


 白亜が同時に相手をしていたから判りにくいが、どれだけしたっぱの魔族でももし挑むならベテラン冒険者パーティを10集めなければキツいと言われるほどの力がある。


「ん」


 その証拠に、たまに仕掛ける白亜の剣を後ろにバックして勢いを殺しながらと言えど全て吹き飛ばずに受けている。ただ、攻撃を受ける度に下がるのでかなり体力を消耗している。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「………そろそろ終わりにしましょうか」


 息を切らしているゼギオンを一瞥し、白亜が剣を向ける。それと同時に殺気が放たれる。殺気の操作は早々簡単に出来るものではない。それを完全に操っているところを見てゼギオンは焦りを覚える。


「くっ!」


 ここで負けるわけにはいかない。そんなことを考えながらゼギオンは息を整える。


「使ってやるよ……決勝でも使う気はなかったがここまでの相手がまさか準決勝で出てくるとは思ってなかったけどね」


 誰にも聞こえないくらいの声でボソッと言う。白亜にも聞こえていない。周囲が五月蝿すぎるのだ。


 白亜がいつ仕掛けようか考えていると、何かに気づく。


「ん?なんか……来る」


 突然剣を構え直し、空を見上げる。その動きはゼギオンを無視している様にも見えるが、特にゼギオンは気にしなかった。そんなことよりも驚きの方が大きかったからである。


「まさか……気付いたのか?」


 額から汗が出てくる。何かが近付いてくる違和感は白亜以外の戦闘に長けた人たち……例えばジュードやヒノイが気付き始める。


 闘技場に大きな影が落ちる。観客含め全員が上を向くと、巨大なドラゴンがこちらを覗きこんでいた。


「あちゃー。ドラゴンだったか。ん?」


 白亜はドラゴンを前にしても焦る様子もなくただボーッとどこかを凝視する。


『シアン。見えたか?』

『はい。完全に獣縛りの魔方陣がついています』

『どうすればいい?』

『書き換えれば獣縛りは取れますが、それで暴れられたら元も子もありませんよ』


「んー。成る程ね」


 今にも襲いかからんとするドラゴンを前にして観客は逃げ惑っている。全くその場から動こうとしないのは白亜とゼギオン、そしてジュード達。肝が座っているの度合いを越えている気がするが、全員が何とかするだろうと白亜の方を見ていた。


『ダイ。聞こえるか?』

『白亜か。聞こえているぞ』

『獣縛りを取る。お前なら言葉も通じるだろう。付いてきてくれ』

『うむ。了解した』


 ダイと念和で会話し、自分の近くに呼び寄せる白亜。


「俺を魔法で吹き飛ばしてくれ」

「良いのか?」

「多少は我慢するさ」


 以前やったらダイの魔法が強力すぎて大変なことになったので白亜から吹き飛ばす魔法使用禁止命令が出ていた。


「いくぞ?」

「こい。ちゃんと上に飛ばしてくれよ」

「善処する!我、龍の頂点に立つ者。言葉を聞き入れ、我にしたがえ。風、雷。総ての力を支配下に。意のままにこの者を場に届けよ!龍の風(ドラゴン・ブロウ)!」


 詠唱が完成したと同時に白亜の体が紙切れのように空に吹き飛んでいく。


「あっぶね!これやっぱり怖いって!」

『提案したのは貴方でしょう?せめて最後までやり遂げなさい』

「最近シアンが俺に対するアタリが強くないか!?」


 そんなことを良いながら空中で体制を整える白亜。


「あそこだな!」


 落ちるスピードを利用しながらドラゴンの背に乗っかる。傍から見たら正気の沙汰ではない。


「よし‼ここだ‼」


 ドラゴンの背に魔方陣が浮かんでいる。白亜が右目で見たら獣縛りの魔方陣と解析ができた。



ーーーー獣縛りの魔方陣ーーーー


・獣や魔物に使用する使役陣

・使用された魔物や獣は主人が死ぬか魔方陣が壊れるまで半永久的に自分の意思とは関係なく使役される

・奴隷と同じ扱いが多い


ーーーーーーーーーーーーーーー



 こんな風に出ている。白亜はさらに右目に魔力を送り込む。右目の淡い輝きがどんどん強くなって最早少し眩しいくらいの光りになっている。


「ここを……こうか」


 白亜が魔方陣に触れると、白亜の手に従って魔方陣が書き換えられていく。魔眼のガイドに従いながら白亜オリジナルの魔方陣術式も加えていく。


「よし。完成だ」


 出来上がった魔方陣は最初のとは比べ物にならないほど精緻で綺麗に整頓された物になっていた。そこの真ん中に手を添えた瞬間、眩い光と共にドラゴンの尻尾の先端についていた縛りの魔方陣が同時に消える。


「やっぱり一つじゃなかったか」


 ドラゴンの背をよじ登り、首の近くまでいく。


「ドラゴンさん。貴方はもう自由です。ただ、ここに居ると私が大変なことになりかねないのでこのまま降りていただけますか?」

「グァウ」


 通じたらしい。白亜もダメもとだったらしく、話した本人が一番驚いている。顔には殆ど出ていないが。


 ゆっくりと降りるドラゴンに乗る一人の子供の図にしかならないが、白亜はイケメン女子なので特に気にする人はいない。


「よっと」


 首を下ろして地面に降りやすくしてくれたドラゴンを未だ逃げきれていない観客達が唖然と見つめる。


「ありがとうございます。私との契約、守っていただけますか?」

「グァアアウ!」

「そうですか。では、それを守っていただけるようこちらも善処致します。では、お元気で」


 手を振ると、ドラゴンが帰っていった。突っ込みどころが多すぎて誰も声をあげる気にならない。


「それじゃあ、試合。再開と行きましょうか?」


 ただ一人ゼギオンだけは白亜の方を見て震え上がっていた。


「どうしました?今のドラゴンさんは聞き分けが良くてとっても助かりました。もうこちらには来ないでしょう。そんなに怯えることもありませんよ?」

「じょ、場外ではないのか!?今のは違うのか!」

「えー?空中ってセーフですよね?私が乗ったのはドラゴンの上であって闘技場の外ではありませんから」


 白亜が一瞬で間合いを詰めて耳元でゼギオンに囁く。


「ドラゴンを使役して7歳の子供に襲わせたとなったら……あなたの社会的地位は一体どうなるでしょうかね?」

「なっ……!?」


 ゼギオンの体が真横に吹き飛び、場外に叩き落とされる。


「まぁ、そんなことをするつもりはありませんよ?ただ、この事を私がどうしようが勝手ですよね?私はただの平民です。地位なんて最初から無いものですので」


 殺気が存分に込められた笑顔を見せられてゼギオンは気を失いそうになった。それでも失わずに気を保てたのは白亜が手加減したのか、ゼギオンがかなりの使い手だからなのか。それを判る者は誰もいない。

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