「でっか……」
白亜は武器屋に並んでいる剣を見て数分立ち尽くしていた。
というのも、一つ問題があったのだ。
(質が悪い上にお金ない……)
よくよく考えてみたら剣士で登録したにも関わらず剣の類を持っていないことに気がついた。懐中時計の中になら村雨を含め何本も入っているのだが、流石にそれを出すのは目立ちすぎるとシアンが止めた。
最悪武器というよりただの棒でしかないアンノウンで誤魔化せるかもしれないが、打撃武器にしては細すぎるし、白亜が出さなければ刃もないのでそれはそれで目立ちそうである。
「おい、小僧。冷やかしなら帰んな」
「ああ……いや、冷やかしではないんですが」
如何せん金がない。これでは普通に冷やかしである。
半ば追い出される形で店を出た。
「どうしよう」
『武器は見に行ったのだからいいのではないか? いいのがなかったと言えばいいだろう』
「そっか。そうしよう」
白亜が必要もない武器を買いに行った(金はないのに)のには理由がある。
剣士で登録したのに剣を持たずに町の外へ出ようとした白亜は、町の出入り口で止められたのである。
ただ剣を持っていないというだけならともかく、普段着そのものの格好だったので【自分の能力を過信して碌に装備もせずに外に出る若造】扱いをされた。
見た目からして全くもってその通りだったのでとりあえず武器だけ買おうと思ったのだが、金なんかなかった。
そもそもそれを稼ぐために外に行くのに。
『何も買わずに行ったところでまた文字通り門前払いを受けますよ。借金してでも多少の装備を整えましょう。どうせすぐ稼げます』
シアンの言葉に、渋々金を借りにエヴォックのギルドへ戻った。
借金はしたくなかったのに、と若干文句を心の中で垂れ流しながらカウンターへ。するとそこにはエヴォックがいた。
「もう帰ってきたの⁉︎」
「いや、この格好で街を出ようとしたら『装備整えてから出直せ』って追い返されて……お金ないんで借りにきました」
「ああ、そういうこと……」
心配してくれているのは嬉しいが、白亜に対しては無意味な心配である。
エヴォックは白亜に100万ゼル……日本円で10万円ほどを貸してくれた。
「それで簡単な鎧と剣を買うといい。まぁ、必要ない気はするけど」
「ありがとうございます。なるべく早く返します」
十万円で揃えられる武器など大したものではない。動きやすさを重視して、最低限の部分のみをガードする革鎧と、刃が結構潰れてしまっている中古の両手剣を買った。
これでいいだろうと門に向かうと、若干訝しげな視線を向けられつつも一応格好は最低限のものが揃っていたので通してはもらえた。
「そんな装備であまりこの周辺から離れたところには行くなよ」
白亜は珍しく本気で心配されながら街を出た。
ある程度街道を進むと眼前にある森へと歩を進める。
『確か依頼は桃色の果物の採取だったか』
「ああ。街の孤児院からの依頼だ。お菓子を作るための果物を取ってくるだけの簡単なものだ」
木々を避けつつ奥へ進むと小川を見つけた。水は透明度が高く、魚が泳いでいるのがよく見える。
水質を軽く調べてから水筒に移して飲んでみると、混じり気の少ない軟水であることがわかった。
硬水よりも軟水派の白亜はいくらかその水を汲んでから先に進む。
「ここだ」
『いい匂いですね』
目的地は甘い匂いに包まれていた。食べ頃になった手のひらサイズの淡いピンク色の果実がそこら中の木々に沢山なっている。
依頼は籠一杯なので、一つをもぎ取って齧ってみた。
「……野生だからかな。水っぽい」
『仕方がありませんよ。人の手が加えられていないものなどそんなものです』
つくづく農業をしている人は根気のいる作業をしているのだなと思う。
野菜も果物も、ただ実がなるままで放置したらあまり美味しいものは作れない。手をかけて育てるからこそ、美味しい野菜や果物が食べられるのだ。
白亜はその辺をよくわかっているので、あれだけ花などを色々育てているが家庭菜園はほとんどやらない。誰かが見ていられる状況にある時だけは野菜を育てることもあるが、基本的に花かハーブの二択だ。
ハーブは生命力が高いものが多い。ミントなど【バイオテロ】と言われるほど繁殖力が高く、変なところに植えてしまうと庭中がミントで埋め尽くされるくらいのものなのだ。
そのためハーブだとあまり手をかけなくとも勝手に育つため比較的楽なのである。一応ちゃんと手はかけているが。
「ん……?」
美味しそうなものを選んでカゴに詰めていくと、ふと不思議な風に気がついた。
今、白亜の後方、南から穏やかな風が吹いているのに対し、真正面、つまり北から不規則なタイミングで強い風が吹くのである。
気になったのでカゴに全て果物を入れてから一旦懐中時計にしまい、そちらに向かってみることにした。
初めての場所で果物狩りをしている気分になった白亜は少しだけ探検を楽しんでいたのか、何があるのかは魔眼で見ずに進むことにした。
数百メートルほど進むと、急に拓けた場所にでた。
人が手で木々を切り倒したというより、何かに圧し折られてできた広場の中心には体長数メートルの茶色のウサギが数羽群がっていた。その後ろには群れのボスだろうか、白く一際大きなウサギが立っている。
「でっか……」
素直すぎる感想しか出なかった。




