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(やった。自然にフェードアウトし放題だ)

 不法入国者扱いになっている、と聞かされ全員が言葉を失う。


「じゃあ、俺ら……どうすればいいんですか?」

「この国にはいくつかの依頼斡旋ギルドがあるんです。そこでしたら身分証も作れますし、お金も稼げます。あなた方がお金を自力で稼げるくらいまではここに住んでいただいて構いません。ですが、私もあまりお金がないので……」


 頑張ってお金稼げる手段を早く見つけて出て行ってくれ、ということなのだろう。


 周りの人々の反応は怒りを通り越してぽかんとしているが、白亜は、


(やった。自然にフェードアウトし放題だ)


 喜んでいた。


 隣にジュードやリンがいたらジト目で白亜のことを見ているであろう。


 表情が死んでいるので初対面の人間からでは白亜は常に真顔に見えるが、元が素直なので感情は割とはっきり出る。


 見慣れている人からすれば、逆に誰よりもわかりやすいくらいだろう。


「ギルドって……?」


 セーラはどこかから聞こえてきたその疑問に軽く頷いて話を続ける。


「初代マレビトのレージ様がお造りになられたシステムです。依頼者がお金を払い、それを確認したギルドに登録している人が個人の判断で依頼を受け、達成した際にはそのお金をギルド経由で受け取れるというものです」


 さてはレージ、ラノベ好き? と数人の頭に浮かんだが、特に誰も口には出さない。


「あの、ギルドが複数あるって……支店とかですか?」

「いえ、それぞれ別の方が経営しているので全く別の組織です。依頼内容も違いますよ」


 白亜としても、普段の仕事(冒険者)となんら変わらない感じだったので特に思うところはない。


 だが、一つ気になることがあった。


(面倒なことになってるのかな。ギルドみたいなシステムなら複数組織を作って別で依頼を受けるより、一本化して依頼を集中させた方が達成率も上がるだろうに)

『それもそうだな。成功しなけば依頼人も困るだろうに』


 斡旋するだけのギルドが仕事を取り合っても、それに見合った能力を持った人材がそこにいなければならない。戦闘能力がある人に採集の依頼を振ったところで、采配はそれで正しいとは言い難い。白亜みたいにどっちもできる人は稀にいるが。


 どうせなら一つの組織に依頼が全部集中するようにすれば、どこのギルドに行けばいいのか迷う必要もないのに、と思わなくもない。


 複数あるというのは、それぞれが競争し合っているのだろうか。全部のギルドで情報開示して依頼を出したほうが達成率も上がるのだろうが、ギルド経営者はそんなことしたくはないだろう。


 開示して他所の冒険者が依頼達成してもメリットはないからだ。


『あまりこの世界のギルドの内部には関わらない方が良さそうですね。ドロドロしていそうです』

『そうだな。色々と巻き込まれそうだ』


 あっちのギルドより依頼多くとるぞ、とかで荒れてそうである。


 こっそり魔眼でギルドを確認してみると、見た感じでは確かに白亜のよく知るギルドそのものだった。


「ギルドで働く以外にも色々と職業はありますが、身分証のないあなた方では……」


 ギルドに行くのは半強制らしい。


「ギルドってどんな依頼を扱ってるんですか?」

「なんでも、です。町の掃除の依頼や、狩猟の依頼、子供の面倒を見て欲しい、なんていうものもあります」


 ちなみに、リグラートでは出せる依頼内容はある程度決まっている。その範囲を超えると個人への指名依頼やギルドを通さない依頼になる。


 子供の面倒を見る、という依頼はリグラートでは受理されないだろう。もし何かあったら責任問題になるからである。そもそも荒くれ者の多いギルドで子守の仕事を受け入れる輩は滅多にいないだろう。


「どこのギルドへ行けばいいんですか?」

「この町だと、エヴォックという人がやっているギルドが初心者向けです。町の入り口すぐにありますよ」


 色々な質問が飛び交っていたが、白亜は半分聞き流しながら今後のことをシアンと相談する。


(どうする? 冒険者コースは確定みたいだが)

『なるべく目立たないで行きたいところですが、少々派手にお金を稼いでもいいかもしれません』

(なんで?)

『この国がどんなシステムで動いているのかはわかりませんが、先ほどの口ぶりからして他の町にもギルドはあるみたいですし、別の町へ拠点を移すということにして逃げられるかもしれません。その場合あまりお金を持っていないと怪しまれるので、多少荒稼ぎしても大丈夫かと』


 白亜はなるほど、と小さく頷いた。


 リグラートでももっと稼げる依頼がくるギルドに行きたい、と拠点を移す冒険者は多かった。








 ということで。


『早速すぎないか? 先ほど話聞いたばかりで周りはまだ混乱していたというのに』

(その人たちが来るの待ってたら疲れる)


 普通の感性の人なら「えー。どうする?」とかなんとか会話するだろうに、白亜の場合は解散直後に外に出ていた。


 善は急げにもほどがある。実際、他の面々もあまりの即断即決ぶりにちょっと引いていた。


 教えられた通り、町の入り口近くのギルドに入る。


 カウンターに近付くと、すぐに女性が出てきた。おそらく猫の獣人だ。この世界にも獣人いるんだ、などと考える。


「こんにちは、ご依頼ですか? ご登録ですか?」

「登録で」

「はい。読み書きはできますか?」

「はい」


 読み書きに関してはここに来る前に天照大神から資料をもらって覚えた。


 大抵の言語は頭に入っている白亜からすれば結構楽だった。


 サラサラと記入し、提出。すると女性職員がそれを持って奥の部屋に行き、すぐに誰か引き連れて帰ってきた。


 どうやら彼女の上司らしい。中年くらいの人間の男性だ。太ってはいないが痩せてもいない、あまりにも普通な顔をしているのでかなり印象が残りにくいだろう。


 するとその顔が普通の人が話しかけてきた。


「えっと、少しいいですか……?」

「……私何かまずいことでも……?」

「そういうわけじゃないんですけど……とりあえずこちらへ」


 奥に通される。これが普通の対応でないことは、周りの反応からなんとなくわかった。

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