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『まぁ、それはそうですが……』

寒すぎて色々と手につきません。今年は特に寒がりな龍木です。皆様もお風邪にはお気をつけください……

 大事なものは、鍵をかけてしまっておかなければならない。


 誰にも見せたくない黒歴史や、絶対に壊したくないものは、特にそうだ。


 自分だけにしかわからない方法でしまい込み、誰も開けられないよう鍵をかける。


 間違っても壊されたり、暴かれたりしないよう、厳重に。







 王都に用事があり、ついでにジュードが一旦帰省した。


 その付き添い(ただの転移による送り迎え)に白亜が来た。


 国王でもあるジュードの父にエリウラの森の全体調査などの書類提出も兼ねての帰省ではあるが、せっかくなのでゆっくりしていくつもりだ。


 そして白亜もそれに便乗して仕事をサボっているのである。別に転移を使えば一瞬でどこにでも出向いては家に戻って仕事できるのに、送り迎えを理由に仕事をダイに丸投げしてきた。


 最近面倒くさがりが加速し始めた白亜である。


「なんか変な魔力だ……」


 我が物顔で城(ジュードの実家)を散策中、急に立ち止まって周りを見回す。ちなみにジュードは家族と面会している。建前であるジュードの帰省にすら付き添っていないとは、本当に何しにきたんだ。


「シアン」

『はい。これまで感知したことはないですね。あちらから流れてきています』


 白亜が急に立ち止まった理由は、感じたことのない魔力が辺りに漂っていたからである。


 一時期はずっとここに住んでいた白亜は、使用人たちも含め周囲の人間の魔力を完璧に把握していた。魔力にはそれぞれ個性があり、指紋のように波形が一致することは滅多にないため魔力認証式の鍵というものも存在する。


 シアンが誘導する通りに歩いてみると、白亜も入ったことのない部屋の前にたどり着いた。


「ここって、確か地下に繋がってるんだっけ」

『地図を表示します』


 白亜の右目が紅く輝き、立体的な図形が網膜に映し出される。


 城全体の地図から立体的な画像を作り出すなど、サポート特化能力であるシアンならば1秒も要らない。


 それを回転させたりしながら確認すると、やはりここから先の扉から地下室へ向かうことができることがわかった。


 ただ、この地下室は部屋というより隠し通路として作られている。有事の際に逃げるための通路として用意されているものだと聞いた。


 白亜は何かあった時のためにとジュードから聞いて隠し通路の存在を知っているが、地図をシアンが読み込んだ際に聞いているものの倍近い数の隠し通路を発見してしまった。


 普通隠し通路は逃げ出すために作られているのでその存在を知られてはいけない。


 だが、白亜の場合地図から矛盾点を探し出してしまったのだ。見つけた時、流石に天然記念物の白亜ですら「これを見つけたことは黙っておこう……」と思ったほどである。


 外部に流出するのはなんとしてでも避けなければならない。そのためこの地図の管理はシアンがやっている。


 白亜が管理していたらうっかり口を滑らせそうで怖いのである。


「この通路は庭の道具小屋に繋がってるんだっけ」

『はい。火事の時に避難するための通路ですね』


 ちなみに隠し通路にはそれぞれ役割がある。


 今回目の前にある地下通路は火事の避難で使う。そのためここは厨房から最も遠い場所に位置している。煙が充満しないよう、何かあれば窓が勝手にほんの少し開くシステムになっている。


 襲われた時用通路が最も多い。この城はいくつかの棟に分かれているのだが、どの棟のどの階でも逃げられる造りになっていたりする。


 その話は置いておいて。


 本来の気質では白亜は元々好奇心旺盛だ。飽きっぽいところはあるが、興味さえ引くものがあればなんでもやってみるタイプである。


 過去のあれこれで何事にも慎重に動く性格になってしまっているだけで。


 そして最近、抑え込んでいた元の性格が顔を出してきた。明るくなってきた(それでもやはり目は死んでいる)ので、それはまだいいのだが。


 たまに酷い暴走をする。


「……入ってみよう」

『人様のお家ですよ』

「……半分俺の家みたいなもんでもあるけど……」

『まぁ、それはそうですが……』


 年単位で住み着いていたので、はっきりとは否定できないシアンである。


 実際、国王であるジュードの父やその娘達、ジュード自身からも【城は好きに使ってくれていい】とは言われている。


 今更どこに入り込んだところで怒られることは多分ないだろう。


 白亜も流石に他人の自室に入り込もうとは思わないので、個人の自室以外の部屋の話になるが。


 それに、シアンもこの魔力の原因を調べることに関しては賛成なのであまりきつくは叱れないのである。


 知らない魔力があるということは、誰か知らない人が入っている可能性もある。新しい使用人を雇ったという話は聞いていないし、それなら魔力ではなくおそらく匂いか音で気がつくだろう。


 白亜の五感は異常なほど研ぎ澄まされている。知らない人間の足音など、聞き慣れた音の飛び交うこの城の中で聞き取るのは容易い。


 異質な魔力だけを感じ取って音や匂いの異常を感じないということは、何かあるのかもしれない。


 そっと入ってみると、大きな壁掛け時計が薄暗い部屋を見下ろしている。


 簡素なベッドと人一人が使うのに丁度良いくらいの大きさの机と椅子があり、魔力を吸い取って明かりを灯すタイプのランプが机の上に置かれている。


 人の出入りはなさそうな物の少なさだが、埃っぽい匂いがあまりしないところをみると定期的に掃除はされているらしい。壁掛け時計の後ろに隠し扉があるのだと、以前ジュードが話していたのを思い出した。


 魔力はその壁掛け時計の方から流れてくる。


「地下から魔力が……?」


 白亜は壁掛け時計の側面を指で三度軽く叩く。ジュードから聞いていた、隠し扉の鍵を外す方法。


 カチリ、という軽い音がして静かに地下への鍵が開いた。

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