「え、精霊魔法ないんですか!」
結局その日は白亜とジュードの動きが瓜二つだということがわかっただけで、それ以上の成果はなかった。
ちなみに、ジュードはその後も何度かエレニカに戦い方を教わりたいと申し出ていたが、断られていた。
「君の場合、俺と戦うと変な癖がつきそうだし……」
と言われていた。
実際、エレニカの戦い方は普通ではない。数千キロの武器を軽々と振り回し、周りの熱すら操れるのだから人の規格を明らかに超えている。
実際人ではないのだが。
ジュードが5回ほど断られた頃にルナがやってきた。
「ハクア……そのお方は?」
「エレニカさん」
「いや、妾は名前を聞きたかったわけではないのだが……」
相変わらず言葉の少ない白亜に代わってジュードが捕捉した。
「今、師匠が教わっている方だそうです。ものすごく強いんですよ」
どこまで話していいのかわからないので、事実だけを簡潔にそう伝える。
「ほう……。ハクアが世話になっております。妾はハクアの炎精霊、ルナと申します」
「よろしく。エレンでもエレニカでも好きに呼んでくれていいよ」
いつもより丁寧な言葉遣いのルナに白亜が違和感を覚える。
その視線に気がついたのか、ルナが肩をすくめた。
「妾とは次元が違うのはすぐにわかる。自分を精霊と名乗るのがおこがましく思えてくるほどにのぅ」
その言葉に苦笑したのはエレニカの方だった。
「まぁ、俺の世界とこっちじゃシステムも何もかも違うから。こっちとは違って、俺の世界じゃ精霊は種族の一つとして認められていたし、精霊魔法も存在しないんだ」
「え、精霊魔法ないんですか!」
ジュードからすれば、精霊魔法はかなり慣れ親しんだものだ。
それがないと知るのは、鳥のいない世界がある、ということを知るのと同じくらいの衝撃だ。
当たり前にあるものがないのはなんとも不思議なものである。
「ないっていうか、なんていうか……俺みたいに自然を操る力を持っている精霊は少なくないんだけど、他人に力を貸す精霊が少ないから、魔法自体あっても無駄なんだ」
エレニカは「もしあったとしても、使えない」のだと付け加える。
この世界では、精霊はどこにでもいる。
自然そのものの姿形をしているせいか環境を変化させることが得意で、生きるために魔力を補給する。
その性質を利用して、魔力を食べさせてあげる代わりに環境を変える、つまり魔法を使うことを条件に協力を取り付けたのが精霊魔法の始まりと言われている。
エレニカの世界では、精霊の数もあまり多くない上に精霊の根本的な性質が異なっており人間と似た生活を送っているらしい。ただ、寿命は遥かに永く、また上下関係を酷く気にする傾向にあるらしく他人、特に他種族とは友好関係を結ぶことは滅多にないのだそうだ。
エレニカは自然を操れるタイプだが、それができない種族もある程度の人数がいるらしく、精霊魔法という存在があったところで戦えない精霊を呼び出してしまうだろうとのことだった。
「精霊はプライドが異常に高くてね。特に他種族に見下されるのを嫌うから、ちょっと悪口言われるとすぐにキレちゃうんだよ」
なんだか、思っていたのと違う。
物静かでひっそりと暮らす精霊のイメージからかなりかけ離れていく。
「この世界とは違って、食事からでも栄養補給できるしね。別に他種族に頼らなくとも生きていけるんだ」
多分、そこが大きいのだろう。この世界では契約された精霊は強くなる。その理由が、主人の魔力を多量に吸い込むことができるからと言われている。
魔力で生き、魔力で育つ精霊は人と契約した方が強くなれることを知っている。だからなのか積極的に手伝ってくれるのである。
「種族が違うってことですか」
「そんな感じかな。こっちとあっちでは全く別種の生物と思ってくれていいよ」
同じ精霊という種族の括りだが、世界によっては大きくその性質が変化するらしい。
だが、それでも当人同士が顔を合わせるとなんとなくわかるのだそうだ。
「じゃあすぐにエレニカさんが精霊ってわかったんだ?」
「そうよの。格が違うということしかわからないのだが」
あまりにも力の質が違いすぎて永く生きているルナでさえよくわからないのだと言った。
思わぬところで改めてエレニカのすごさを知ったのだった。
白亜の誕生日になんか書こうと思ってたのにガッツリ忘れてました。




