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「これ、本当に魔石入ってます?」

 パスタを茹でる。


「……一体なんですか、その修行」

「いや、君が想像してる感じじゃないよ多分」


 そう言ってエレニカが取り出したのは、市販のパスタだ。どうみたって市販。袋には日本語で熱湯8分と表記されている。


「何か特殊なものなんですか?」

「いや、日本のスーパーで買ったやつ。特売だったから買い込んでおいた」

「………」


 大国主神がゲームしてた時も思ったが、人間社会に溶け込みすぎていて逆に怖い。


「んで、これを切ります」


 袋を開けて、中身を外に放り出す。そのまま包丁で細かくカットした。


 確かに凄いが、白亜でもこれくらいできる。蝋石は柔らかすぎて苦戦したが、ある程度の硬さのある茹でる前のパスタなら楽勝だ。


 エレニカは細かくカットしたパスタを深めのフライパンで受け止め、魔法で出した水を使って、魔法で茹でた。


「……これで終わり?」

「うん。これで終わり」


 米粒みたいになったパスタに、これまたどこから取り出したかわからないミートソースを絡ませてスプーンで食べるという斬新な料理を作って早速食べている。


 正直なところ、白亜からすればかなり簡単だ。普段から空中で料理しているし、何よりどの工程も然程神経を使うとは思えない。


「むぐ……さ、やってみて」


 エレニカはもうパスタと言っていいのかわからない料理を食べながら新しい乾燥パスタを取り出して白亜に投げ渡した。


 受け取ったが、確かに普通のパスタだ。値札まで貼ってある。


「じゃあ、やってみます」

「あ、ちょっと待って。包丁これで」


 忘れてた、と付け加えて鞄から木製の箱を取り出す。縦20センチ、横10センチ弱の大きさの箱だ。


 渡されたので開けてみると刃渡りの短いナイフが出てきた。形としては果物ナイフに似ているだろうか。


 片刃のそれは、柄に細かな装飾が彫られ小さな宝石がいくつか埋め込まれている。


「これは?」

「ただの包丁だよ。ちょっと細工はしてあるけどね。君は属性魔法使いだろう? 魔法陣なんかを使えば多属性の魔法も操れるだろうけど、魔力のロスが大きいはずだ。魔力はあり余ってても必要な時にはいくらあっても足りないからね。節約術を身につけた方がいい」


 確かに、普段の生活で魔力に困った事はない。だが、必要な時には足りないと思う事だってある。


 必要な時に残しておくために、節約の方法は身につけるべきだとは思っていた。


「その宝石は魔法の補助をしてくれるんだ。俺の世界産のもので、特に魔力を抑える効果のものを選んだ。俺からみたら、君は無駄が多いからね。普段ならそれで全然問題ないけど、捨ててる部分はなるべく有効活用しないとね。


 この神様、相変わらず人間ぽいというか庶民くさい考え方だ。


「それぞれ『火種』『水滴』『微風』の魔法が込められている。初級も初級、属性魔法を学ぶ上で最初に教わる戦闘には全く使わないが根源となる魔法だ」

「魔力を流せば使えるんですか?」

「そう。でも、さっき言った通り、超初級レベルの魔法しか出ない。その上魔力を極限まで抑える鉱石を組み込んでいるから、常人ではどの魔法も使うことはできない」


 なんとなく、エレニカが言いたいことがわかってきた。


 つまり『魔法の威力が限界まで落とされた状態で火をおこし、風で飛び散らないよう纏めながら切り、水滴しか造れない魔法でパスタを茹でるだけの水をだす』のがこの修行の狙いなのだ。


 包丁を取り出し、軽く魔力を流してみる。


「「………」」


 何も起きなかった。


「これ、本当に魔石入ってます?」

「入ってるよ⁉︎」


 不良品かと思うくらい、あまりにも要求する魔力が多すぎる。


 白亜にとっては軽く流したとはいえ相当な量の魔力が流れ込んだはずなのに、変化が一ミリも生じない。


「ほら、出るよ」


 エレニカが握って魔力を流すと、ドバドバと水が出てきた。


 不良品の可能性はこれでなくなった。


 再び握り込んで魔力を流す。さきほどより数倍の魔力を流してみた。


 ポタリ、と一滴、水が垂れただけだった。


「お、出てきたよ」

「……」


 これで料理をするのか、と軽く呆然とした。

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