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誕生日プレゼント!

「「「ハッピーバースデー!」」」

「……え?」


 静かすぎる理由はこれだったのだ。突然すぎて反応しきれていない白亜。


「クアハハハ!どうだ?驚いたか?」

「あ、ああ……あまりにも静かだったから強盗とかが入ったのかと」


 物騒な考え方しかできないのか。


「はいってはいって!今日はご馳走作ったんだよ!」


 リンに引っ張られて中に入ると、大量の料理の1つを摘まみ食いしようとしているチコをジュードが叱り付けようとしていた。


「ちょ、チコ!」

「えー。駄目?」

「駄目!」


 なんとも微笑ましい光景だ。


「師匠!今日は誕生日でしょう?お祝いしないとって」

「え、あ。うん。ありがと……」


 いまだに状況が理解できない白亜だった。




「いただきます」

「「「いただきます!」」」


 大量の料理だが、ダイならば1食で食べきれそうだ。


「それにしてもジュード。よく女子寮に入れたな?許可とってもここ最上階だから人目につくだろ?」

「あー。それならあそこから入ったんですよ」


 窓の前に縄梯子が置いてあった。


「よくバレなかったな」

「自分でも驚きましたよ。あ、一応許可は取ってあります」

「ハクア様。これ私が作ったんですよ」


 次々と料理が減っていった。最後に少し残った分はダイが責任をもって片付けた。胃袋は完全にブラックホールだ。


「皆がこんなことしてくれるなんてね」

「当たり前ですよ師匠」


 さも当然のように言うジュード。


「僕の時もやってくれたじゃないですか」


 そうなのだ。ジュードの誕生日の時には白亜主催で誕生日パーティーをやったのだ。規模はとても小さいものだったが。


「くくく。ありがと」

「あ!師匠が笑った!」


 ダイが綺麗に残り物を腹に収めたあと、全員で片付けをした。


「別に私達でやるのに」

「これぐらいはやらせてくれよ」


 片付けを終えたら、楽器をせがまれたので白亜の一番得意な楽器でそれに応える。


「俺が一番得意なのは、これだ」


 棚の影から取り出したのは1本のアコースティックギター。これが、白亜の最も得意な楽器だ。椅子に座って弾き始める。と、思ったら白亜が歌い出した。白亜が最も得意とするのは、弾き語りだったのだ。


 ただ。


「何語……?」


 こちらの言葉ではなく日本語で歌ってしまっているので何を言っているのかジュード達には理解不能なのだ。


 判らなくてもなにか心にくるものがあったのだろうか。バラードの曲を真剣に聴いている。一曲弾き終えた。


「もっと楽にして聴けばいいのに」


 音楽はそんなに身構えるものでもないのだから当然と言えば当然なのだが。


「何言ってるか判んなかったけど、格好いいですね!」


 ジュード。感想はそれでいいのか。




 何曲か弾き終えて演奏会は終わった。


「師匠。僕達からプレゼントです」


 ジュードが取り出した手のひらサイズの小さな箱にはおそらくリンがラッピングしたであろうかわいらしいリボンが巻かれていた。


「ありがとう。見ていいか?」

「勿論」


 リボンを解いていく白亜。何だか緊張が走るのは気のせいだろうか。


「これは……」

「魔力増強のピアスです。師匠って魔力増強の魔道具持ってませんでしたよね?」

「そういえばないな」


 普通なら無いと魔力がうまく練り上がらなくて魔法は失敗するのだが、白亜の場合魔力が半端なく多いので今まで必要性を感じていなかった。


「ハクア君なら似合うと思って」

「私達がデザインしたのです」

「某は魔力回復の術式を提供したぞ」

「それを言ったら妾は真珠石を調達したぞ」


 何故かダイとルナが張り合っているが、このピアスは白亜の村雨を作ってくれたドワーフのイジトさんと、その友人の魔道具細工師のエルフのフェローナさんが共同で作ってくれたものらしい。


「凄いな……」

「受け取って下さい。師匠用に調節してあるのですぐに馴染むはずです」


 この世界のピアスは穴を開けてそこに刺す物以外に、その人に完全に定着させる物がある。これは体と同化させる事に近いもので、一度付けるとちょっとやそっとでは外れないものになる。


 外すには使用者の意思が必要で、要は勝手に盗んだり出来ないわけだ。


「付け方がわからん……」

「あ、つけます」


 アクセサリーなんてつけたこともない白亜は全部人任せでやってもらった。


「おおー」

「似合ってますよ」


 ピアスには派手ではないものの、精緻で美しい彫刻が入っていた。中央には魔石の中でも最上級の品質と魔力の通しやすさを誇る真珠石が嵌まっている。


「えっと……ありがとう」

「「「構いません」」」




 あの後すぐにお開きとなり、ジュードとチコは窓から帰っていき、リンは共同浴場に行った。珍しくキキョウとルナもリンについていった。ダイは基本的に白亜の後なのでリビングで寝ている。


「毎度毎度ジュードのプレゼントは格が違うな……」


 完全防水、と言うかもう殆んど体の一部なのでその辺りは全く問題ないので、風呂でも普通に付けたまま入った白亜は初めてピアスを付けた自分を見た。


 白亜によく似合っていた。これを自分の為に皆が協力してデザインしたのかと考えると、白亜は嬉しくなった。


「また、借りを作っちゃったな」


 嬉しそうな顔で言うのだった。





「今日から11月だけど、気を抜かずに今日も一日頑張ってねー」


 能天気なライム先生の声で学校の一日が始まった。


「師匠。今日も迷宮ですか?」

「ああ。二日連続でも問題ないか?」

「勿論です!」


 と言うことで今日も迷宮に挑むことになった。




「今日からレベル7だな。大丈夫か?」

「「「おー」」」


 相変わらず気合いの入っていない声で掛け声が入る。それは必要なのかと問いたくなるものだ。


探索ソナー……わっ!」

「え!?どうしましたか!?」

「いや、このピアス凄いな……魔力殆んど使わなくても魔法が使える」

「今まで無しでやってたのが異常なんですよ」


 サクサク進む白亜たち一行。


「ん。居るな。ねぇ、俺がやってみても良いか?」

「どうぞ」


 前に出ると、物陰から狼が出てきた。


「スピードウルフか」


 そのまんまだが、素早さがとんでもなく高い狼の事だ。攻撃的な性格で、自慢のスピードで周囲を駆け回りながら大きな牙で獲物を仕留めるハンターだ。


 白亜は手を出して、上から下に降り下ろす。狼の体と周辺の床が大きくへこむ。古代魔法の1つ、重力魔法だ。


 掛かる負荷に耐えきれずに狼が光になって消えた。


「おおー。めっちゃ楽だ」


 やはりピアスの性能を試したかったようだ。





「さて。レベル10ですけど」

「来ましたねー」

「二日でこのスピードって史上初だと思うよ」


 レベル10。聞いたところによると、地獄らしい。即死級の罠がはりめぐらされ、モンスターの強さが大幅に上がり、しかも階層が12階層もあるのでかなりキツいらしい。なぜそんな嫌がらせのような迷宮を作ったのかはいまだに謎らしい。


「いい?行くぞー」

「「「おー」」」





「はぁ、はぁ、はぁ」

「リン、大丈夫か?っていうか初めてセーブポイント使ったな」


 白亜達は10階層で一旦出てきてしまった。何故か?それは、


「なんでフェレットが……」


 つまり、巨大化したフェレットが襲いかかってきたわけだ。


「師匠もなんで攻撃しないんですか?」

「フェレットは無理……恐い」

「いや、なんで!?」


 熊などにも臆さない白亜だが、唯一駄目な生き物がある。それがフェレットだ。


「幼稚園で飼ってたフェレットが俺にだけなついてきて……フェレットにあま噛みされて……トラウマに……」


 要は、動物に好かれ易かったが為に、あま噛みが怖くなってしまったのだ。子供だから余計にインプットされてしまったのだろう。


「下はナメクジ正面はフェレット、上はコウモリって完全に僕達の苦手なものを突いてきている気が……」


 ナメクジはリンが、フェレットは白亜が、コウモリはジュードが、それぞれ嫌いなのだ。白亜なんてビビりまくって魔法を打ちまくって落盤しかけたのだ。危険すぎる。


「10階目を何とかしないと先に進めないぞ……」


 フェレットとナメクジとコウモリが大丈夫な人材が必要なのだ。




「どうする?」

「どうって……募集かける?」

「でも10階層のところだけも無理ですし、それだけのためにパーティを編成するのもちょっと……」


「ダイたちも駄目みたいだし」

「すまぬ。ああいうねとねとしたものはどうも……」

「私もコウモリはちょっと……」

「妾ならば比較的大丈夫なのだが。一人では戦力不足よの」


 唯一戦えるのはルナとはこれいかに。


「あー。どうすりゃいいんだ……」



「ハクア。珍しいな、悩むなんて」

「あ、シャウさん」

「よっ」


 シャウが偶々休憩所に来た。


「何に悩んでるんだ?」


 白亜はシャウに一通り説明する。


「もうそこまで進んでるのか?凄いな」

「どうしたらいいと思いますか?」

「あたいなら……光魔法で自分の目を錯覚させるけどね」

「光魔法ですか……」


 白亜達の中で光属性はいない。


「おっと、休憩おわっちまう。じゃあな、ハクア!」

「あ、はい。頑張ってください」


 振り出しに戻ってしまった。


「ん?錯覚?…………ああああああ!」




 白亜は全員にそれを説明。


「成る程。でもそれで行けますかね?」

「まぁ、失敗したら失敗だ。物は試しだ。行ってみよう」


 セーブポイントからスタートする。


「ひぃ!」


 奥の方から大量のナメクジが出てきた。天井をよく見ればコウモリがぶら下がっており、正面には巨大フェレットがいる。


「いくぞ!幻灯!」


 すると、周囲が明るく輝き白亜達を包み込む。


「すげぇ!出来たぁ!」

「やったあ!ナメクジだけ見えない!」


 何をやったかと言うと、古代魔法の幻覚を使って、自分には苦手なものが、光に見えると言う魔法を使ったのだ。馬鹿馬鹿しいと言われればそうだが、効果は絶大だ。


「おっしゃー!恐いものなしだぜ!」


 白亜はテンションが上がり、魔法でナメクジを地割れに落とし、コウモリを蔓で突き刺す。





「いやー、終わったな」

「まさかこんなに早く行けるとは思ってませんでしたね」


 白亜のパーティはレベル10を難なくクリアした。10階層以外は敵ではなかった。


「さぁ、今日はゆっくり休もう」


 史上初、2日で全レベルを攻略してしまった白亜達は地獄とも言える10階層を忘れ去ろうと必死だった。

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