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「絞り込めないんですか?」

 気付けば400部め……読んでくださってありがとうございます!

 エレニカに案内されたのは、装飾のあまりない小さな扉だった。


 小さな、とはいってもこの家のでかさから考えたら小さいというだけで白亜の所有している屋敷の扉と大きさ的には大差ない。


 ワンボックスカーくらい楽々通れそうな大きさである。


「ここにあるんだけど、半端じゃなくてね」


 古そうな扉を開けると、大量の本棚と引き出しが目に飛び込んできた。


 扉に比べて中は異常に広く、蔵書数も半端なものではない。


「国の禁書庫が丸々20は入るな……」

「ここにあるのは全部管理書だけどね。それだけ下界には人がいるのさ」


 何気なく真横にある本を引き抜いてパラパラと捲ってみると、大量の文字で溢れていた。白亜は読めない字である。


『この世界特有の文字ですね。私にも読み解けません』

(シアンでも読めないのがあるのか)


 事務仕事となればとてつもない有能ぶりを発揮するシアンだが、流石にデータにない文字は読めないらしい。


「それで、探して欲しいのは赤い背表紙に緑色で文字が書いてある本なんだ。それ以外は俺がなんとか集めるから」

「赤い背表紙、ですか」

「そ。文字は全部緑色なんだけど、それに合致する本はこの書庫には30冊ある。その中の一冊だ」


 30冊。結構少ないと見るべきか、この大量の本の山からそれだけの数見つけなければならないと見るべきか。


 しかも、白亜は内容がわからないので一冊見つけたらその都度エレニカに確認してもらう必要がある。


 運が良ければ一冊目で仕事は終わるが、最悪の場合三十冊探し出す必要がある。


 数千数万では収まらない、数百万冊はあるであろうこの書庫から。


 ……普通に重労働である。そりゃ色々と苦労するはずだ。


 もう少しうまくやれなかったのだろうか。しまう場所を徹底するとか、記録をとるとか。


 白亜からすればデジタル化する楽さを知っているので、本一冊一冊にバーコードでも貼って管理すればいいのに、とすら思う。


「絞り込めないんですか?」

「いやー、本当は絞り込めるはずなんだけど、最近色々と……本当色々とあって……新人天使さんが資料を適当に戻しちゃった上に書庫に他世界の入り口とか繋がって、それを何とかするために棚動かしたらなにがなんだか」


 つまり、過ぎたことはもうどうしようもないのである。


 見つからないものは仕方ない。地道に探すしかなさそうだ。


 それにしても、エレニカの仕事は一体なんなのだろうか。聞いた限りやっていることが多岐にわたりすぎていて全く絞り込めない。


 下界の管理をしているのはわかったが、それなら他世界の外交は大抵は他の者に任せるものである。


 一人で何とかしようとする者など滅多にいない。


「それじゃ、頼んだよ!」


 探して持ってきて、とだけ言って大量の引き出しに手を伸ばした。


 一切の無駄なく紙や本などを回収していく様をみると、自分がちまちま本探ししている必要があるのだろうかと思えてくる。


 それだけエレニカの仕事は無駄がないのだ。


『もの探しの魔法が効かないのが大変ですね』

(まぁ、ここで魔法使い放題だったら大切な資料が燃えたりしかねないしそれが正しいのかもしれないな)


 もし白亜がこの書庫を作るとしたら、ほぼ全面機械化し、冊数や保管場所をバーコードなどで管理し、ここと同じように魔法を使えなくさせる。ただし、オンオフのスイッチもつける。


 魔法が使えないのは安心ではあるが、不便でもある。


 白亜はお人好しだが元来面倒くさがりやである。


 不便を嫌うので魔法をもう使わないという選択肢はない。


「っていうか、本当にどこにもないんだけど……」


 急いで動きすぎても本を傷つけてしまう可能性があるので、あまり下手には扱えないのが余計に面倒くさい。


 しかもあのトロッコで移動する図書館よりずっと広い上に冊数も多い。


 そう簡単には見つからない。


『マスター。右斜め上、赤の背表紙に緑の文字です』

「おっと、これか」


 あまりの冊数の多さに見落とすところだった。


 シアンの言うところを引っ張りだしてみると、確かに赤の背表紙に緑の文字がしっかりと印字されている。


 なかを見てみると、中も緑色の文字だった。


 恐らくこの本が三十冊の中の一冊だろう。


 とりあえずエレニカのところへ戻る。


「これですか?」

「おお、これこれ。……あー、ごめん、探してたのじゃない」

「そうですか……」


 一冊目、惜しくも外れ。


 その後二冊目、三冊目と外す。


「なかなか無いな……赤色の背表紙だから目立つと思ったんだけど、そうでもなかった」

『見つけやすくはないですね』


 赤色の本なんてあまりないだろうから本棚でも浮いて見えるのではと期待したのだが、全体的に派手な色合いの本もそれなりにあるので別に分かりやすくなってくれていない。


「さて、もう少ししっかり探してみるか」

『ですね。これだけの冊数、確認だけでも大変なのにまだ他にも書庫があるなんて、凄いですよね』

「え、他にも書庫があるの」

『恐らくは。この本の山も今この家にある大量の本の一部でしかないんですよ』


 そう聞いて、探すのがここだけで良かったとホッとした。


 まだ本が見つかったわけでもないだが。

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