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学園迷宮には過剰戦力!その2

 白亜が扉を開けると、三メートルは越えているであろう岩で出来たゴーレムが中央に鎮座していた。このボスモンスターはある一定の距離に近付くと戦闘開始となる。


「ん。俺がやってみても良い?」

「はーい」


 もう勝ったも同然である。白亜が一定の距離に近付くとゴーレムがゆっくりと動き出した。


「おお、貫禄がある」


 白亜はしばらくゴーレムを見つめていたと思ったら右手を上に掲げて勢いよく振り下ろした。すると、迷宮の天井から鍾乳石の様なものが出てきてゴーレムを容赦なく一突きした。なす統べなくゴーレムは崩れ落ち、光の粒子になって消えた。


「「「………」」」


 無言の戦い。しかも一瞬で終わった。


「さ、次にいこうか」

「ハクア君。私達要らないよね?」

「なんでそうなるんだ?」





「ジュード。そいつ頼むわ」

「了解!いくよ、チコ!」

「オッケー!」


 現在白亜達はレベル6。ここまで来ると一撃で倒せなくなってくる。


「リン様!そちらのファイヤースライムは任せます!」

「はい!いきますよ!」


 パーティの連携も大分出来るようになった。ただ、白亜が普通に戦うと他の面々は真面目にやることがなくなるので指示を出す位しか白亜は参加していない。


「ダイ。全体に雷落とせる?」

「判ったぞ!皆、引け!」


 その声にあわせて全員がダイの攻撃範囲外に出る。あまりに全員揃った動きに魔物は一瞬動揺し、ダイの雷が直撃して光になって消えた。


「ん。皆連携上手くなったね」

「ハクア様の指示が的確だからですよ」

「シアンと相談しながらやってるからな」


『私の計算が魔物なんかには覆せないのです』


 白亜達の進むペースは本当に化物並みだ。絶対に迷わないって言うのもあるし、何より罠を回避できるのはとてもプラスに繋がる。魔物の戦闘時間が極端に少ないのも理由の一つだろう。


「んー。ボスみたいだ」


 一際目につく大きな扉が見えた。


「確かここはオウガだよ」

「鬼か」


 オウガ。一本角の鬼で、魔法はあまり使えないものの、防御力が高い上に素早いので攻撃が当たりにくい。普通の戦士くらいならば直ぐに殺られてしまう位の強敵だ。


「某がやりたいぞ!」

「ここは妾が」

「僕もやりたいです」

「私もやってみたいなーって」

「私もやりたいです」


 ボス戦=一人でやるものという間違った認識でやっているので、寧ろ皆やりたいと言ってくるのだ。変わったパーティである。


「そうだな……じゃあリンとジュードでやってみてくれ。キツそうだったらダイが入れ」

「「「はーい」」」


 元気なことだ。血の気が多いというかなんというか。




 二人が入っていく。一本角のオウガが中央に堂々と鎮座している。


「行くよ。ジュード君」

「はい。チコ。行くよ!」

「うん!」


 三人が同時に動き出す。オウガの腕がピクリと動いたと思ったら、巨体に似合わぬ物凄い速度で走り出した。


「わ!」

「リンさん!一先ず僕で押さえますので範囲魔法の準備を!」

「わかった!」


 ジュードの両手剣がオウガの腕を1本切り落とす。チコはその周りで風魔法で援護しながら飛び回ってオウガの集中を切らす。


「ジュード君!行けるよ!」

「チコ!」

「うん!風刃(カッター)!」


 チコの風魔法が決まり、一瞬オウガが止まる。


氷の雨(アイス・レイン)!」


 範囲型の上級魔法がオウガに振りかかり、オウガが倒れた。


「やったーーーー」

「まだだ!気を抜くな!」


 白亜の叫んだ通り、オウガが満身創痍の状態で起き上がった。


「ジュード!背骨の線の辺りを叩き斬れ!」

「はい!」


 ジュードが消えた。するといつの間にかオウガの背に回り込んでいて、背骨に沿って切り裂く。すると、あれだけ固かったオウガの皮膚が簡単に真っ二つになった。そのまま光になって消えていく。


「え?」


 斬った本人が一番驚いている。


「最後の最後で気を抜いたのはいけなかったけど、中々良い攻撃だったぞ」

「うう……いったと思ったんだけどな……」


 リンは少し落ち込んでいる。


「師匠。何であんなに簡単に斬れたんですか?」

「ん?勘」

「勘で当たるもんなんですか」

「まぁね。個体によって斬れやすいところとか変わってるから絶対ではないけど。昔怪我したところは完治してても少しは弱くなってるもんなんだよ」


 パッと見でそれを理解できる白亜も凄いが。






「腹すいたぞ!」

「またそれかよ……太るぞ?」


 1日でレベル6まで進んだ白亜達は休憩がてら軽食を取ることにした。


「俺の小遣いが……」


 ランドドラゴンの報酬がでかかったので全く問題無いのだが、なんとなく毎日減っていくと不安になるものである。


「そういえば最近嫌がらせ減りましたね」

「ん。確かに。ご飯の量も戻ったし」


 一時期凄かった嫌がらせはもう殆ど無くなっている。


「俺で遊ぶのに飽きたのかな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ちょっとちょっと!ハクア君ご飯食べてるよ!」

「うっそ!水晶!水晶どこ!?」

「こっちじゃない?後で印刷して頂戴!」


 ハクアファンクラブのメンバー達である。


「きゃーっ!格好いい!」

「格好よさの中に可愛さもあって……あー!いい!」

「ちょっと!もうちょっと詰めてよ!見えないじゃない!」


 修羅場に近いものがある。


「ねぇねぇ。あいつらどうする?」

「あいつらってハクア君に悪戯してたガキ?」

「同い年なのにガキって……まぁ、そうだけど」

「どうする?無理矢理女子寮に目隠しして連れていって大騒ぎさせる?」


 随分と物騒な鉄拳成敗だ。


「ハクア君に悪戯とか、身の程を知らないやつのことだよ?もっと酷くしても良いんじゃない?」

「でもやり過ぎてハクア君にバレたら、私達幻滅されるかも知れないよ?」

「そうだよね……ハクア君優しいから」


 流石はハクアファンだ。よく判っている。


「どうする?」

「そうだねー。全裸でグラウンドに放り出すとか」

「それこそバレそうじゃない?」


 彼女達は白亜に悪戯した男子達を徹底的に捕まえていた。とは言え、白亜を妬む男子は多く、毎日のように沸いて出てくるので色々と奔走しているわけだ。白亜は全く気付いていないが。


「ハクア君に近付く身の程知らずは」

「「「徹底的に落としてやる」」」


 なんとも怖い女子達である。



 そんなことは露知らず、白亜は黙々とサンドイッチを食べている。たまにダイが食べこぼしを落としているのを拾いながら、注意する。


「あー!可愛い!本当に可愛い!」

「何枚撮った?一枚頂戴!」

「えー!コレクションに加えるのー」


 白亜が食事をしているだけでこの騒ぎだ。


「良いなぁー。リンさん。ハクア君の近くにいれて」

「しかも一緒に暮らしてるのよ?」

「ねぇねぇ。ハクア君がいつも夜に楽器を弾いてるって知ってる?」

「うっそ!聴いたことないんだけど!」


 逆にどうやってその情報を仕入れたのか謎だ。


「何でも、防音魔法使って外には聴こえなくしてるみたいだよ?」

「多才だよねー。どんな楽器弾くの?」

「そこまでは判んないなー。何でも弾けるって聞いたこともあるし、ピカピカの楽器を吹くって聞いたこともあるし……」

「ハクア君なら何でも弾けそうだよね」


 実際そうだが、本当にどうやってその噂が広まったのか。


「聴きたいなー。そんでその音を録音魔法で永久保存するの」

「録音魔法持ってるの!?ズルい!」

「ふふふ。教養の差ですよ」


 彼女達の話は徐々に妄想方向にエスカレートしていく。


「前にハクア君が立つでしょ?それで、こう……」

「「「きゃーっ!」」」

「ハレンチ!でもいい!凄く良い!」


 何をしているかは想像にお任せする。そして。


「ん?ねぇ、あの男子、ハクア君にバケツ向けようとしてない?」


 男子がかなり遠くで白亜の方に向けて魔法を発動しようとしていた。女の子達は顔を見合わせて、誰からともなく恐ろしげな笑みを浮かべる。


「「「殲滅決定!」」」




ーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ん?」


 サンドイッチを食べていた白亜はなにかに気付いて後ろを振り返る。そこには誰もいない。


「どうした?」

「誰かいたような……?まぁ、いいや」


 既に食べ終わっているダイは幾つか残っている白亜のサンドイッチを凝視する。


「……はぁ」


 ため息をつきながらダイの方に白亜が差し出すと早速手を出すダイ。かなり食べているが黄龍とは果たして太るものなのか。




「ハクア君。今日も訓練してから帰るの?」

「ん?ああ。未だ無詠唱がうまく馴染んでないからな。ちょっと遅くなるかも」

「そっか。ご飯作っておこうか?」

「ん。お願い。先食べといて」


 食器を返しに行く白亜。ダイの分もちゃんと持っていってあげるところを見ると、やはり根は優しいのだ。





 白亜はそれから訓練場で一人で無詠唱を練習していた。ほぼ完璧に扱えるが、ほんの少し威力が落ちるのが欠点だ。


「よ!」


 地面からドラゴンの形をした岩が上に向かって出てくる。こんな技をどこで使うのか疑問だが、パッと見ドラゴンに見えなくもないので、一瞬のこけおどしには使えそうだ。


「ふぅ、ふぅ、もうそろそろ帰るかな」


 この日ばかりは遅くなりそうだったので先にキキョウ達を帰している。


 村雨を持って暗い道を歩いて帰る白亜。少々物騒だ。




 寮の部屋の前につき、ノブに手をかけた白亜は違和感を覚える。


「静かすぎる……」


 少しくらいはしてもいい物音が殆どしないのである。もしもの時のために右手は村雨に触れたままドアを開けた。

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